仮付喪がいっぱい?
畦道にずら~っと手足のついた文房具やおもちゃが列をなしている。
「早くボクを見つけて」
一番前にいる消しゴムが、つぶらな瞳で見つめてくる。
「俺なんてずっと雨ざらしなんだぜ。寒いったらないよ」
「あたしは、ほこりっぽくって薄暗くって狭いところにいるの。汚くてホントに嫌。早く出たいわ」
青いスーパーボールの怒った声に続き、後ろの赤鉛筆も文句を言う。続く三角定規やかたっぽだけの靴下、下敷きにハンカチなんかも口々に不満を訴える。
「ほらね、みんな待ってるのよ」
「これ全部、俺が失くした物なの?」
「そうよ」
「うぇ~。いくつあるんだよ」
列は10メートル以上続いている。
「全部で100なんだから、私をのぞいて99個になるわね」
「ひゃ、ひゃく~⁉」
驚いて声をあげる俺を見て、リコーダーはため息をついて、あきれ声で説明してくれた。
「本を読んでから100個失くしものをすると、もったいないおばけがそれらに命を吹き込んで、仮付喪にするの。100番目の私は失くした直後だから実体があるのよ。それで、私が手伝って残りの失くしものの本体を探すのよ。今ここに並んでる他の子たちをよく見て。ちょっぴり半透明でしょ。本体はどこかに落ちてたり、下敷きになってたりするの」
言われてじっくり見てみると、なるほどなんとなく向こうが透けて見えている。
「俺がめんどうだから探さないって言ったらどうするのさ。おばけっていったって、お前ら全然怖くないし」
「全部見つけるまで、この子たちがずっとまとわりついて文句を言うわよ」
「別にそれくらいどうってことないよ」
「言っとくけど、今はお行儀よく順番に並んでるけど、探してもらえないってわかると、時も場所も手段も選ばなくなるわよ」
「な~んだ。それだけか。こんな半透明のやつら、別に怖くないや。探し物なんてかったるいこと、したくないよ~だ」
俺はくるっと向きを変えて、列をなす仮付喪たちに背を向けると駆け出した。ちらっと振り返っても追いかけてくる様子はない。
へっへ~ん。つかまってたまるか。
と思った瞬間、突然ぼよ~んと何かにぶつかって跳ね返され、しりもちをついてしまった。
「いって~」
なんだぁ~? こんなところにぶつかるような大きなものなんてないよな?
不思議に思ってぶつかった辺りを見ても、何もない。
……いや、視界が全体に黒っぽい?
そのまま視線を上げて驚いた。ばかでっかい靄のようなものに、顔がついている。
「ぬりかべ!?」
「そんなわけないでしょ!」
後ろからリコーダーが言ってくる。
「もったいな~い」
頭上から野太い声が降ってきたと同時に靄がしゅるしゅる~っと縮んで、掌サイズになった。これがもったいないおばけ?
目の前に浮かぶ姿は、スライムで作ったはにわのようで、意外に可愛らしくて情けない顔をしている。
「なに逃げようとしてんのよ。おばけから逃げたりできないわよ」
リコーダーが回りこんできておばけの隣に並ぶ。
「おわっ! お前、飛べるのか」
「おばけに力をもらってるんだから、なんだってできるわよ。他の子たちだって、ほら」
ほら?
「早く探して~」
「まだ探さないの?」
「は~や~く~」
わやわやと、仮付喪たちが俺を取り囲んできている。うわ~。これは怖いというより、うざったいな。考えてるうちにも周りの奴らは数を増していく。100だっけ。そんなに囲まれたら何にもできないじゃないか。
「ね? 全部見つけ終わるまで、逃げたりできないの。他の人には見えないけど、日中もずっとまとわりつくわよ。あんたが探す意思を見せて動いてたら、大人しく待ってくれるけどね」
したり顔のリコーダーの横で、もったいないおばけが大きく頷く。どっちが偉いんだか。
このまま大人しく言うことを聞くのも腹が立つけど、ずっとこいつらにつきまとわれるのもうっとうしいな。仕方がない。失くしもの探し、するか。
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