第16 私もついて行く


「なぁ、私も行きたいぞ」



「ダメだっての」



「何でだ。

 この前、私と一緒に居たいと言ったじゃないか」



「いや、来たら余計周りにばれるだろ。 

 だいたい、俺が言ったのは、日中べたべた一緒にいるって意味じゃねぇ。

 それに昼間はお前無理だろ。

 俺も遊びに行ってるんじゃないんだ。

 面倒も見てやれないんだから」


「面倒なんて見ていらん。

 私はただ、お前の事をもっと知っておこうと思ってだな」



「なら、まずお前の事を教えろ! 」



 全くの正論である。


「うう、女の子の秘密を聞こうとするのは良くないんじゃないかな? 」


 エリィーは控え目に行ってみる。



「別に無理に聞くつもりはないけど、言わないなら、俺も言う義務はない」



「だって、おうちは退屈なんだもん」



 今の言葉で一気にしてエリィーに風向きが変わる。

 ユウカも痛いところを突かれてしまった。


 連れて行ってはあげたいが、エリィーなんぞ連れて行けば、学校で何をしでかすかもわかったものではない。 

 大人しくしていてくれているのならまだしも、絶対無理だろう。


 

「とにかくダメなものはダメだ。

 絶対ついて来るなよ」



「えぇ~」


 エリィーの目がジト目になる。

 ユウカはただでさえ、授業に遅れている。

 それに拍車をかける様に、風で寝込む等、入院するで、出席日数が足りてない。


「ユウカ、見てくれ。

 ほら、人間の女の子と変わらないぞ」


 ユウカと以前一緒に買ったモールでの服を着て見せる。


「じゃあいってきま~す」


「おおい! こら、こっちを見ろ! 」

 

 ユウカは全くエリィーに構いはしなかった。



「なんなんだーもぉ!

 あんなに一緒に居たいって私を連れ帰ったのに。

 一日過ぎたらこれかい! 」


 エリィーはぶつぶつ言いながら部屋に帰って行った。


 一時間後、二時間後。


「あー、暇だぁ。

 何にもすることがない」


 エリィーは椅子の上に乗っかって、くるくる回転椅子の上で回っていた。






 ユウカは学校を目指して歩いていた。

 どう顔を出したらいいものか。

 暫く休み続きで、揶揄われるかもしれないと思うと、教室に入りづらかった。

 実際は風を引いて休んでいた訳ではないので、そこを上手くごまかせるか、ぼろが出ない様にしなければと、ユウカはいつもより気を張った。

 


「あぁ~、学校行き辛ぇ~」


「あっ」



 横から現れる高校生がユウカをみて声をあげる。

 ユウカも気づいてその学生を見た。

 だけど学院が違う。

 気が付いた女子学生が向かってきた。


 

「おまえっ! 」

 ユウカも声を荒げた。


 朝からまずいやつに合ってしまったからだ。


「よっ変態」


 ギャルだ。


「何だよ、お前、何してんだよ。

 後、変態って言うの止めろ! 」


「なんで? あってんじゃん」


「あってねぇよ、

 じゃあな」


「おう。 もう女子に抱きついたりするなよー」


「誰が抱き着くか! 

 さっさとお前の学校へ行けよ」


「うっさい。

 今向かってるよ」


 2人は歩きながらな話す。




「つうか、おまえ、何でついて来るんだよ」


「それはこっちのセリフ。 なに? 今度はストーカー?

ウチの学校、こっちなんだけど」


「はぁ、こっちって言ったら」



 この方向に向かうとなると学校は二つだけだった。

 ユウカが通う成華学院と、街一番の巨大学校、名門、令嬢学園だ。

 令嬢学園は、まるで成華学院に見せつける様に並んでいる。


「おい、お前まさか、令嬢学園の学生なのか? 」


「そうだけど、何? 変態さん」



「変態じゃねって」


 そうであるならば2人が行く道が同じなのは当然だ。


「いや、お前が? 

 ありえねぇ、だってあそこ名門だろ。

 頭のいい奴しか入れないじゃん。

 おまえ、もしかして、悪い組織の奴なのか」



「はぁ? あんた馬鹿なの?

 うちがそんな組織とかな訳ないっしょ。

 ちゃんと受験して受かりました。

 てか、あんた、うちんこと馬鹿にしてっしょ? 」



 ギャルはユウカを細い目で睨めつけた。

 

「そうか。

それで、入ったけど勉強についていけなくなってぐれたって事か。

 納得」



「うっさい。

 ぐれてないし。

 なんなの、あんた。 ちょーウザいんだけど」



「わるいわるい、そんな怒んなよ」



「うっさい、変態! 」



「変態じゃねぇっての! 」



 歩きながら話すユウカ達を近所のおばさん達が、微笑みながら聞いていた。

 傍から見ているといい夫婦喧嘩である。


「変態じゃなかったら、何なのさ? 」


「ユウカ。 俺の名前はユウカだ」



「ユウカ? 」



 彼女の瞳孔が開く。


「何アンタ馬鹿にしてんの?

 それ女の名前じゃん 」



 ユウカは一番言われたくない事を言われた。

 やはり、ギャル。 人の事などあまり考えていない。

 このずばずば感。

 頭が良いとは到底思えなかった。


「おい、それは止めろ。

 女の名前じゃねぇし」


「そっか。

 いいじゃん、かわゆい名前だね。

 ユウカちゃん」


 ギャルは急に小さい子を相手にするかのように、ユウカの頬を突いていた。


 ギャルに名前を言わなければよかった。

 ユウカはつくづくそう思った。

 今日はやはり災難な日なんだと思わざるをおえない。



「ウチは舞。 

 桜華 舞っての。

 よろしく」



 桜華舞。 綺麗な響きだった。

 確かに、彼女のルックスは、とても整っている。

 モデルと言われても、疑いようのないほどだった。

 それに劣りもしない美しい名前。


 そんな彼女がギャル風の格好をしているからか、近づきにくさが一応ある。

 そうであっても、ギャルのファッション雑誌。

 それこそ、カットモデル、モデル雑誌の編集者からは、声は掛けられていてもおかしくはない。


「でさ、どうせ行く道、同じならさ、

 変態さんにちょっち、聞きたい事あるんだけど」


「おい、今名前教えたところだろ」



「あっ、ごめん。 こっちの方が呼びやすくて。

 あんとき、なんであんたボロボロになってたの? 」


 ユウカの名前など気にも留めていない。


「はぁ? いきなりなんだよ。

 あんときの話しなら、俺もあまり記憶がないんだ。

 お前とはぶつかったかなんかで、出会ってたみたいだけど」



「ふ~ん、そう。

 ならそれでいいけど」



 ユウカは普通の人ではあり得ないほど、傷だらけになっていた。

 そんな姿を見たら、誰だって何故そうなっているのか、疑問に思うのは当たり前だ。


 そんな切口から、ぼろを出す訳にもいかず。

 ユウカはただ話さなかった。

 あいつらだってまだ捕まった訳でもない。 どこかにいるのは明白だ。

 エリィーの事は何としても守らなければならない。

 それはきつくユウカの口を縛りつけていた。

 もちろん、それはエリィー自信の自由にも制限をかける行為になっている事は事実だ。

 正直ユウカはこの生活を止めたいとも思っている。

 だが、どうしたらいいのかは、誰にもわからない。


「なぁ、お前って弓道部とかなのか? 」



「はぁ? なんで? 違うけど」


「なんか黒い筒に入ってるもん背負ってんじゃん。

 だから、てっきりさ」



「あぁ、これね。 まぁそんな感じよ」



 どんな感じだ? ユウカにその感じというものがわからなかった。 まぁ、たぶん部活で使う道具って事なんだろう。


 話すことが無くなった・


「……」



「魔力」

 

 いきなりの舞の言葉。



「いや、お前、急になんだよ。

 何言ってんの? 」



「いや、別になんも無い」



 舞は気にもかけてないような素振りで前を向いた。


「なんだ、おまえそう言うのが好きとかなんかそういうやつか? 」


「ち、ちげぇよぉ、何でもないっつうの! 」


 舞は顔を赤くして答えた。


「はぁ、もう最悪。 とんだ奴と出会ったし」


 舞は、鞄を持つ手を肩にかけ歩く。

 その姿はとても堂々した歩き方で、周囲にもそれはかっこいよく映る。


「それはこっちのセリフだよ」



「アンタさ、幽霊とか変な力がこの世にあるって言ったら信じる? 」



「いや、信じないけど」



「どうして? 」



「ありえないから」



「じゃあもし、目の前で起こったとしたら、見たとしたら信じる? 」


「信じると言うか、もしそんなのがあるんだったら、この世界の考え方が変わってるよ。


 俺の持論だけどな。


 やっぱ、そう言うの好きなんじゃん、お前。 そんな身形でアニメとか好きなんだな」



「ちがうんだけど。

 もういいって。 興味があるとかそんなんじゃないし。

 はいもう、ウザいからもうこの話おしまい」




 会話して歩いていると、気づけばもう校門が前にあった。


「じゃあ、うちまだ歩かないといけないから」



「何だよ、皮肉かよ、お前」



「別に~。 じゃあね」



 鞄を反対の手に持ち替え、右手で小さな手を振って、すたすたと一人足早に行ってしまった。

 あんなのじゃなければきっと彼女はもっとモテるのだろう。

 素材が良いだけに、勿体ない。



 案の定、教室に入るとユウカはからかわれた。

 それは先生の、 「ユウカ君、後で職員室に来なさい」、と言うお言葉が発端だ。


「ユウカ君! 見つかってよかったね。 頑張って探したからだと思うけど、もう体は大丈夫なの? 」


 星が心配そうにしていた。


「あぁ、悪い。 未来さんにも迷惑かけちゃって」


「ううん。 そんなことは無いよ。 でもユウカ君、無茶しすぎかなって思ってて、すごく心配はしたけど」



 病院を抜け出しているんだから当然だ。



「危ない事に執着しなくても、お金とかに困ってるんだたら、本当に何でも相談してね。

 少しくらいなら、手伝えることぐらいあると思うから 」


 星は本当に優しい。


「うん。 ありがとう。 大丈夫、見つかったし、お金にも困ってないから」


 ユウカの胸が痛む。

 その痛みも合わせて、笑ってごまかす。


「あ、そうだ。 あの本。 もう少し借りてていいかな? 

 まだ読み終えてなくて」




「え? いいよ。 好きなだけ持ってて。

 ゆっくり読んでくれていいから。

 私はもう読んでるし、早く返してくれなくていいよ」



「悪い。 ありがとう」



「ううん」



 星の笑顔はまぶしいほど、温かかった。


 向こうから、黎たちが星を呼んでいる。

 彼女はじゃあね、と行ってしまった。


 それを見かねたように、桂川がつつきにやってくる。

 まるで、ここぞとばかりにやってくるハイエナだ。

 エリィーは今頃家で何しているのだろうか? とユウカは考えていた。






 「あぁぁあぁぁー 暇だぁー」



 家中を走り回ってみたが、特に楽しくは無い。 

 アニメもほとんど見終わっており、次話の放送待ちだった。



 「あぁ、いいよな。 自由に外を飛び回れる鳥は」


 エリィーはカーテンを開けて外を見ていた。

 外は曇り、雨が降り出しそうな天気になった。

 時刻はお昼過ぎ。

 急に外は曇り出したのだ。


「ん? なんだ、この気配は? 」


 エリィーは異様な気がする方向を眺める。


 小さな女の子が窓の外を走ってきた。

 大きなフードのついた黒い服。

 そのフードにすっぽりと頭を覆っていた。


「あやつ……、何者だ? 」



 黒フードから凄まじい力を感じる。


 彼女を観察していると、黒い少女はエリィーの見える範囲でこけた。


「な、なんだ、あのこけ方。 か、可愛い……」



 見たところはエリィーとさほど変わらなそうな子だった。

 エリィーはしばらく見ることにした。 いい暇つぶしになりそうだったから。

 

 その子は起き上がると、膝を抱えて傷口を見ていた。

 相当痛かったのだろうか。

 膝をすりむいているのが見えた。


「アイツは、何をしているのだ? 」


 エリィーは気になって仕方がない。

 もしかすると、自分を追って来た敵かもしれない。

 一応は警戒を怠らない方が良い。

 あんな小さな子が果たして命を狙おうとするのかは疑問だが。



 黒いフードの子は、辺りをきょろきょろと見回しては、何やら悩んでいるようだった。

 口に手を当てながら、悩む姿はまさに小動物。 見ているだけど、なんと守ってあげたくなる事か。



 暫くエリィーは、彼女を見て和んでいた。


 すると、フードをかぶった子はエリィーの覗く窓へ目を向けた。

 お互いの目が合う。


 フードの子は何かを言いたそうだ。

 純真そうなつぶらな瞳が、じぃっとエリィーを見ている。 



 エリィーは戸惑った。

 部屋からは出れないし、助けにもでれない。

 さらに、今までの行動を高々と見ていたと知られたらどういう顔をしたらいいのか。


 フードの子はじっとエリィーを見つめていた。


 エリィ―は気まずさからカーテンを閉める事にした。

 もどかしくて仕方がなかったからだ。

 後、見ていた理由からあまり見られていると良い気分がしない。



 しかし気になってちらっと、カーテンの隙間から覗いてみた。

 フードの子はダッシュで何処かへと行ってしまった。



「はぁ~」

 

 エリィーの緊張が解けた。

 

 ピンポーン。



 チャイム音だ。

 この音が響くと誘拐された日々が甦る。

 エリィーの体が緊張を思い出す。


 一体誰なのだろうか?

 またあの男だったら怖い。


 ピンポン、ピンポン、ピンポン!


 呼び鈴を連打されていた。


 な、何だ!? 扉の前にどんな奴がいるんだ?


 エリィ-はこの謎めいた行動に、誘拐事件を重ね合わた。

 絶対ヤバい奴だと。

 そっとドアに近づき、ドアスコープを覗いた。


「のわっ!? 」


 そこにはさっきのフードの女の子がいた。



 何をしているのだろう、 不思議そうにドアを見つめていた。

 だが、エリィーは開けようとはしなかった。


 以前の二の舞になる訳にはいかない。


 扉の前の女の子は、思いっきり扉を叩き始めた。


 何度もばんばんと扉をたたく。



 エリィーはびっくりして扉から遠のいた。



「なんだ、こいつは」

 

 このまま黙っててもらちが明かないぞ、と言わんばかりに、扉の前の女の子は叩くことを止めようとしない。

 姿も見られている為、部屋にいる事は分かっている。

 早く出て行こといった行動なのだろうか。

 それにしてもしつこすぎる。

 エリィーはいい加減しびれをきらせた。


「や、止めんか!

 何なんだお前は」


 ドアを叩く音が止まった。


「……開けて」

 

 それはとても静かで落ち着いた声。

 いきなりの拍子抜けた答えに調子が狂う。



「嫌だ! 

 何で開けなきゃならないんだ! 」



「……開けて」



「嫌だから。

 てか、お前誰なんだ」



「……開けて」


 まるでロボットの様に、起伏も変わらず、同じことをつぶやく。



「お前、会話する気ないだろ……」



「……………………」


「……開けてくれないなら、入る」


 扉は新しくしたばかり。

 しっかりとした造りの重い扉だ。

 その扉を小さな拳がぶち抜く。


 エリィーは目玉が飛び出しそうになった。

 そんな小さな手で、どんな力の持ち主なんだ。


 穴の開いた場所から、フードをかぶった子が覗く。

 何ともやる気のないような表情のくせに、やることが大胆過ぎる。


「何してるんだ! 困る。 またユウカが怒るじゃないか!

 止めろよ 」



 フードの女の子は何かを考えている。

 やり過ぎたと思ったのだろうか?

 空いた穴越しにお互いが覗っている。

 

 先手を打ったのはフードの子。

 彼女は、空けた穴から手を突っ込み鍵を開けだした。



 とてもゆっくりと扉が開く。


「……おじゃまします」


 開いた口がふさがらない。

 目の前にいるのはエリィーと同じくらいの子だ。


 勝手に入ってきた。

 


「お、おじゃまするな! 帰れー」

 


「……あなた、……何者?」


 それはエリィーのセリフだった。

 入ってくるなり、第一声がそれ。 何度も調子を狂わされる。


「お前こそ何者なんだ。

 勝手に人の家に入って。 ドアまで壊して」



 ドア? と言うような顔をしている。



「……あっ、」


 振り返ると、どうやらドアに穴が空いている事に気づいたらしい。


「……ごめんなさい」


 すごく申し訳なさそうな顔をしてあやまった。


 何なんだこいつは? 怒ろうに怒れん。

 とエリィーは自分の気持ちにむやむやしていた。


「……あなたは誰? 

 普通の人間じゃない」


「なるほど。 そっちが気になっていると言う事だな。

 そういうお前こそ誰だ。 お前も人間では無いであろう」


 それはエリィーも感じていた。


「私はフラnskfじtシksdsュン」


 何を言っているのか聞き取れない。


「お前、何語を喋ってるんだ? 」


「私はフラnskfじtシksdsュン」


 彼女は伝えようと、何かを言っている。

 だけど、何を言っているのか聞き取れない。



「もういい、ふざけてるのか、お前?

 で何しに来たんだ」


 何かのスイッチでも入ったかのように表情が切り替わるフードの女の子。


「……ここから、すごく強い力を感じた、……から

 ……アナタからも」


 何で上目目線なのか。

 その見た目は怪しそうなやつではあったが、どう見ても悪そうなやつには見えなかった。

 

「やはり。

 お前も魔力を感じる事ができるのだな」


 こくん、こくんと首を縦に振る。


 だとすると、私の国の事をしっているかもしれない。

 何か進展があったのか、こいつはどこから来たのか

 地球人でないのであれば、帰る方法があるかもしれない。 そして今自分の故郷がどうなっているのかエリィーは知るチャンスだと思った。

 この子なら、何か情報を引き出せそうだと思ったエリィーは、彼女を家に上げる事にした。



 女の子はちょこんとソファに座った。

 攻撃する気は全くない……のか?

 本当に真意がわからない子だ。



「お前はどこからきたのだ? ヴァルビンか、? シャンクセか?

 と言うか、知っているのか? 」

 フードの女の子は小さく頷いた。


「……ヴァルビン」

 

 ヴァルビンはエリィーの故郷の名前だ。 という事は何かこいつから聞き出せる。

 しめた。 とエリィーは思いを高ぶらせた。

 


「……と言う所は、とても悪い所だと聞いてる。

 酷い事をしていると」


「違うんかい! 」


 エリィーがこけた。

 フードの女の子はどうしたの? と言うような表情でエリィーを見ていた。


「……私が来たのはシェイクリピト」


「シェイクリピト! 」



「じゃあお前、もしかして結構賢いのか? 」



「……賢い? わからない。 でも、博士は私は強いと言っていたけど」



「博士? やはり、教授がどこかの子なのか?

 あそこは賢い奴のたまり場みたいなものだからな。

 研究や、何かの技術を求めるならシェイクリピトへ行けと言われたものだ」


 エリィーは同じ世界から来ている生き物に会えて嬉しかった。

 なぜなら、ここにはエリィーしかいないと思っていたから。


「して、どうやってここへ来たのだ? 乗り物か? 何かすごいモノでも発明したのか? 」 


「……すごい物。

 ……そんなの持ってない。 

 ……私、……穴に落ちた」


 穴に落ちた。 それはエリィーの境遇と一緒。



「なんだ、お前も落ちたのか?! あの穴に」


 エリィーはがっかりした。


「だったら私と一緒か。

 きっとお前も辛い思いをしたのだな。

 してあの穴は何なのだ? 」


 彼女は首を横に傾げた。

 それからなんの反応もない。





「次は私の番。

 ……あなたは何者? 」


「私は、……」



 エリィーは渋った。

 ヴァルビンの事を知っている。

 ということは、素性を知れば、彼女は襲い掛かってくる事が容易にあり得るからだった。



「……あっ」



 急に声をあげるのでエリィーはびっくりした。


「なんだ急に、」


「……これ、」


 彼女が手に持っていたのはエリィーの大好きなアニメのBDブルーレイディスクだった。


「ん? まさか、お前もそれを知っているのか? 」



 こくん、こくんと首を振る。


「なんだ! それを早く言え! 

 どこまで知っているんだ。

 実は私は全部持っているのだが、これは知っているか? 

 限定品のプレミアディスクなのだが」



 エリィーのテンションが上がっていく。

 女の子も目を星にして興奮していた。

 彼女は全くしゃべらず、ふんふんとエリィーの話しを興味深く聞いていた。


「そうか、お前も好きだったのか。 

 流石、頭のいいやつだな。 お前は! 」



「……これは知っている。 この時の彼女の取った行動が、好きすぎて、私は憧れている。

 感動したし、……泣いた」


「なに? お前もか! 私もなんだ。 そうだよな、このシーンは本当に泣けるんだ。

 私も、この話しには驚かされた。 まさかここまで泣かせてくれようとは」


 急に息が合いだす二人。



「だったらこの限定版の話しは見たか?

 結構微笑ましいんだ。あの二人が一転するところが見れるんだ 」



 フードをかぶった女の子は、ぶんぶんと首を横に振った。


「そうか! だったら見るか? 」


「……見たい」




 二人は仲良くBDブルーレイディスク を見た。


「……最高だった」


「でしょ。 この物語は本当にすごい」



「…ねぇ、……あそこに置いてあるポスターって、」


「お前あれも知っているのか? 」


「……うん。 あれはたしか、人類の為に立ち上がった学生が、悪い政府に利用されて、最後は信じたものをすべて失っちゃうって言う……可哀想なやつ」



「知っているんだな。 すごく悲しいお話だんだけど、でも最後には会えなかった人に会える、っていう感動があるんだよな」


「うん。……まさか、最後にそんなのがあるなんて思ってなかったから泣かされた」


「うんうん。お前も泣かされたのか。 私もだ。

 あれはずるいよな」


 二人して思い出して涙をこぼす。



「そうだ。 お前、アニメが好きなんだろ? 」



「……ん?」


 アニメと言う言葉をわかっていなさそうだった。


「こっちに来るといい。 お前にすごいモノを見せてやろう」


 エリィーはリビングを出て、ユウカの部屋に入ると、借りていた、クローゼットの中を開ける。

 ここは、衣装を入れるクローゼットだが、床にはエリィーの私物が沢山摘まれていた。


「じゃじゃーん」



「お、おぉぉぉぉぉぉ~」



「これに感動すると言う事は、やはりお主、中々価値の分かるやつよのぉ」



「……お前はすごいやつなのか? 」


「ふん。そうだ、私はすごいのだぞ」


 エリィーは高笑いしていた。


「何かみたいのはあるか? 」



「うん」



 手には9本ほどBDを持っていた。


 流石にエリィーも一枚ぐらいだと思っていたのか、予想外の行動に、押されていた。


「よ、ようし、今日は上映会だ。 好きなものを好きなだけ見よう」


「……おー」


 丁度彼女が拳を高く上げた時だった。

 ぶかぶかの袖が肘まで捲れて、その綺麗な白い肌があらわになった。

 その腕は傷だらけで、とても痛々しい痕が数多く残っていた。



「お、お前……」


 エリィーは本人には聞かなかったが、相当の虐待を受けていることを理解した。

 何本も縫われた痕、腕を一度切断されていることもわかる。

 

 彼女はBDを持って、てくてくとTVのある部屋まで歩いて行った。



「まったく」


 エリィーはとことんあの子に付き合う事を決めた。




 ――――暫くして。


「エリィー!! 」



 外から大声が聞こえた。

 ユウカだ。 ユウカが慌てて部屋に入ってきた。


「エリィー無事か?! 部屋にいるのか! 」

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