第17 来訪者

 ユウカが慌てて入ってきた。

「エリィー! 大丈夫か!

 また何かあったのか!? 」


「なんだ、うるさいの」



「居るのか! 良かった」


 いったんはほっとする。


「おい、何があったんだ。

 また、お前を狙う敵が来たのか? 

 何された? 」

 

 エリィーと一緒に横でTVを見ている小さい子が目に入る。


「誰だ? この子。

 お前の知り合いか? 」


「今良い所なんだ。 もうちょっと静かにしていてくれ」


 どういう事なんだ?

 ユウカには状況が読めないことだらけだった。



「何がどうなってるんだ。

 なぁ、ちゃんと説明してくれ」


「うむ、仕方がない、ちょっと私は行ってくるから、しばらく一人で見ていてくれ」


 女の子は膝を抱えたまま一度だけ、こくんと頷いた。

 意識はTVに釘付けだ。


「で、あれ何なんだよ」


「見ての通りだ」



「分かるかい! 」


「んーどこから離せばよいのか」


「いいから全部話せよ」


「うむ。そうか? 長くなるぞ」


「良いからちゃんと説明してくれ」


「分かった。

 あれは、丁度、喉が渇きだしてきた頃だ。 私はのどの渇きを潤そうとユウカの所に行くと、ユウカは気絶したように寝ていて、そのまま朝を迎えた。

 私も目覚めて、お前の毎日行く、学校とやらに行ってみたくて、お前について行きたいと言ったら、」


「待て待てまてまて、お前でどこまで振り返ってんだよ」


「ん? だから長くなるぞと」


「昨日の事から、朝起きたことは俺も知ってるだろ。

 そこはいいんだよ

 つうか、お前が喉乾いて起きたとかは知らんけども、」


「良いのか? 」



「なんだ、おまえツッコンで欲しいのか?

 お前ちょっと漫才の見過ぎか? 」


 ユウカは本気で、教育上、TVの時間を区切った方がいいんではないかと悩んだ。

 だが、確かにここずっと、ユウカは夜の記憶がないのは確かだ。

 違和感と言うより気づけば朝になっていることが多い。

 夜に何かしていたような感じはあるのだが、特に何をやっていたのかは思い出せず、ただ寝てしまったと言う結果がある感じだ。 

 何かしら、気疲れしているのだろう。

 子供と暮らすという事がいかに大変な事なのかを学んだユウカだった。



「で、俺が行ったあと何があったんだ。 

 そもそも、高い金払って、大家さんに怒られて、扉直したのに。

 あの故意的な穴はなんだ? 」


 ユウカも新しい扉に穴を空けられているのに腹がたっていた。



「いや、あれはだな。

 ちょっと色々あって。

 別に、あれは、その、やったやつが悪いと言うよりかは、私が悪いんだ」


 ユウカの目が曇った。


「エリィー、お前。

 また何かしたのか」



「な、なんで急にそんな怖そうな顔になるんだ」


「いや、私じゃないんだが、だけど私のせいなんだ」


「エ・リィ・-! 」 


 怒られると思ったエリィーは手で顔を覆った。


 エリィーのあたまにポンとユウカの手が乗る。 とても暖かい手だった。


「何隠してるんだ。

 いいから言ってみ。

 なんかあったんだろ」



 エリィーはユウカの本心を理解した。

 いきさつを話し始める。

 彼女が自分と同じ世界から来たこと。 

 突然現れた穴からやって来たこと。

 訳の分からない言葉を話し、新しく新調した家の扉を、ぶち抜いた事。

 魔力を持っている事。



「魔力 そういえば、ところどころお前といると聞くんだが。

 その魔力とは何なんだ? 」


「ん? そうだったな。 人間には魔力などないからわからいのも無理はない。

 ただ、どう説明しようものか。


 人間の分かりやすいように例えると、魔法少女みたいなものだ」


「は? アニメのか? 」


「そうだ。 とはいっても、あんな風に火を出したりとか、凍らしたりとか、何でもできるわけではないが、そう言う事が得意な奴もいる。 と言ったところか」


「んー、なんか、あんまり、理解がしがたいが。

 その魔力って言う力のおかげで、うちの玄関の扉をぶっ潰したり、家の玄関の扉に穴を開けたり、家の玄関をボコボコにできるって訳だな」



「お前、やけに、扉に執着しておるな……」


 ユウカは相当扉をボコボコにされた事に気を立てていた。

 なんせユウカの家は借り家だから、当然部屋に何かあれば大家に迷惑がかかるし、めちゃくちゃ怒られるのは当たり前の事だからだ。

 さらに、この場合の修繕費は借主に被があるので、実費での修理になってしまう。

 それは多額の費用になる。 高校生であるユウカには痛すぎる事柄だという事を身に染みて知っている。

 

 ユウカは今朝の事で、一つ引っ掛かる事を思い出した。 

 丁度話題に出たので聞いてみる事にした。


「なぁ、その魔力ってやつはさ、この世界の人間でも持つ事ができたりするのか? 」


「いや、それはない。 と思うぞ。

 と言うか、ありえん」



「そうだよな。 じゃあ、それを知っている人間がいる、って言うのはあり得るのか?

 俺みたいに、お前のような奴がこの世界には沢山いるという事なんだろ? 」



「うむ。 そこに私も驚いていてな」


「どいう事だよ? 」


「うむ。 今のお前なら、話しても少しは信じてくれるだろうから話そうと思うのだが。

 実は私は、この世界には穴に落ちてきたんだ」



「穴? 穴ってどういう事だ?さっき話しに出てきた、あの子が落ちたと言った穴か?

 それってブラックホールみたいなもんなのか? 」


「ぶらっと、ホール?


 難しい顔をする。

 

「いや、その何某は私には分からないが、何やら黒い穴が突如として現れて、私はそこに落ちてしまったんだ。 丁度私が殺されそうになっている時だった。

 そして気づいたら、この世界にいた。

 その穴には結果的に命を救われた事になるんだがな。

 それから、お前に見つけてもらって、今無事に暮らせていると言う所なのだが」



「つまり、お前にはちゃんと帰れる場所がある、という事なんだな? 

 はぁ――、良かった――。 俺、すごく心配したわ」


 エリィーはとても切なそうな表情を浮かべていた。


「まぁな。

 だが、私に帰れる場所などは無い」


「どう言う事だ? 」


 意味深な言葉にユウカは戸惑った。



「お前ももう知っているだろ。 本当はこんな形でお前には知られたくなかったが、私は罪悪人だ。 すべてのモノから嫌われ、恨まれている存在。

 そんな奴が、自分の国に戻って帰れる場所があるとでも?

 ただ、追われることに脅えながら暮らすだけ。

 それにうちの家族はきっと、もう……

 むしろこちらに来れたことが幸せだったと言うモノよ。

 本音を言えば、私の家族の事はとても心配だ。 残ってる皆は無事で生きていてくれているのか?

 それだけが、本当に心配ではある 」


「一体なにがあったんだ。

 あいつらが言っていた罪悪人とは何なんだ?

 お前は何をしたんだ? 」 


「それは……、

 そんなことよりも穴の話しだ。

 私がおかしいと思っているのは、その穴はどこに出現するのかわからないという事なんだ」


「穴……。

 確かに、その穴と言うのが本当にあるとして、どこに繋がってるのかわからない、それとどこに現れるかもわからないという事は、お前は帰れないってことだよな」


「ユウカは理解が早くて本当に助かる。

 そう言う事だ。 だからなんだ。

 私の世界のモノがこちらに来ること自体があり得ない事なのだ。

 私は不意に偶然落ちてしまったから、この世界に来た。 

 私の習わしでは、その穴はどこにつながってるのかすらもわからない。 ただ、まれに現れる時があると聞いている。

 だが、落ちたら最後、何人も戻っては来れぬと。 ただの一人も。

 なぜならそれは、どこにつながっているのかも、どうなっているのか、いつどこで、なぜ現れるのかもわからないほどに気まぐれな穴だからだそうだ。そしてその穴は本当にまれにしか現れないと。


 そんな穴に、ほいほいと何人も私の世界のモノが落ちると思うか?

 しかもこの世界ばかりに 」



「確かに、聞いた話が本当だとしたら、難しそうだ」



「そうであろう? それに私もこちらに来てからお前と出会うまで、ずっと帰る方法を探していたのだが、全くと言って、黒い穴を見つける事は出来なかった。

 ただの一度もだ。

 だから、この世界で魔力の事を知っている奴がいるのか? と言うと答えはノーだ。 と言うのが回答だった」


 

 エリィーのいう穴とは、いまだわかってはいない。 ただ、百年に一度現れるか現れないかぐらいなほどの穴で、見た者も少ない。

 ただし、その穴を見た者は、その穴から、この世界の何者でもない者が出てきた、と言うのである。



「この世界では私を知るもの等、一生現れる事はないと思っていた。


 なのに、ここ最近になって、急に、私のことを知る人物が現れた。

 これは私のいる世界の物だからこそなのだが、なぜ奴らがこの世界に来れるのだ?

 これではまるで、故意的に来ているようにも思えてならない」


「確かに、あの男もお前を狙ってきていたし、あのメイド服の女もそうだ。

 だとしたら、TVを見ている女の子もそうなのんじゃないのか? 」



「うむ。そうなのだ……ああっ! 」



「何だ、急に大きな声出して! こっちまでびっくりするだろ」


「しまった、あいつから話を聞き出そうとして、すっかり忘れていた。

 あやつ、凄まじい能力の持ち主だなまったく」



「何だ、何かの能力か?

 あの子は記憶か何かを書き換えられる力を持っているのか」



「いんや、ただ私が、アニメの話しに夢中になり過ぎてしまって聞く事を忘れてしまっていただけだが」



「おい! 」



「ただ、アイツも私と同じように魔力を持っていて、そしてあいつも、我が魔力を感じてここに来たという事は事実」


「じゃああいつもやっぱりお前の事を 」


 ユウカの表情が曇る。


「私も最初はそう思って警戒した」


「なら、部屋に上げるなよ」


「だぁ――、もう、仕方がなかったんだよ。 お前にも、いきさつは説明しただろ。

 あんな馬鹿力で扉を開けられて、勝手に入ってこられたんだ。

 私にはどうすることもできん」


「なら、お前もその魔力ってやつ? で対抗すりゃよかったんじゃ?

 持ってるんだろ? 」



「出来るのならそうしたい」


「ん? どういう事だ」


「私には膨大な魔力がある。 何人たりとも叶わぬほどの膨大な魔力がな。

 だが、こちらに来てそれが無くなりかけているみたいなんだ」



「えっ、どういいう事だよ? 」


「私にも詳しい事はわからない。 だけど空気が抜ける様に小さく小さく、抜けているみたいなんだ」


「じゃあ、お前の羽や角が無くなったのも」


「おそらくはそれが原因だろう」



「ちょっと待て! その魔力とか言うのが無くなってしまったら、お前はどうなるんだ? 」


「さぁ、そこまでは私もわからない。 実際そんなことになったやつにあったことが無いからな。

 だが、完全に魔力を失った老体を私は見たことがあった。

 あれは寿命とやらの方だが、体が砂よりも細かい粒子になって、どこかへ飛んで行ってしまった」


「何だよそれ、お前は大丈夫なのかよ」



「分からん。 ただ、今の所は大丈夫だ。 何ともない。 

 まぁ、元々こちらの世界に存在していない生き物なのだ。

 ここの環境と合わないのは自然の摂理。 至極当然のことだ」



「だったら早くお前の世界に帰らないと」


「良いんだ。 帰った所で私の未来は無い。

 それに帰りたいと言って帰れるものでもないんだから」



「何だよ、それ。 

 何か手はないのか? 」


「背もドンドンと縮んできてるいるみたいだしな」


「は? 何言ってんだお前」


「びっくりしたか? 一応言っておくと、私はこれでもお前より背が高いのだぞ。

 今じゃこんな見た目だがな。

 知識もどこか滞ってくるみたいだ」



 どう言う事だ? ありえない、ありえない事だ。 

 事実ならば確かにエリィーの話し方が、妙に大人びている事には説明がつくが。

 あり得るのだろうか? つまりこいつは地球外生命体で、そして今、刻々と死に近づいているような事を言っている。

 こんな事普段のユウカなら信じるはずがない。

 今まで嫌と言うほど、作られた超常現象の話しだけを聞かされてきた。

 なのに今目の前に起こっている事はその怪奇現象に、等しいような事なのにそれが目の前で立て続けに起こっている。


 ユウカの頭が混乱をきたす。 一度に情報が入りすぎた。


「……ねぇ、終わった」



 横から何処からともなく表れたフードの女の子に二人は驚いた。




「うわぁぁぁっ、び、びっくりした。

 えっと、こんにちわ」


 ユウカは取り合えず何を話したらいいのか、挨拶をしてみた。

 エリィーの方を向いていたフードの子がユウカの方を見た。



「……こんにちわ」


 この時ユウカの心は打たれた。

 なんて可愛い仕草をするんだ。と

 どちらかと言うと、犬猫のような癒しを与える様な存在だった。

 それにとろんとした、どこかやる気のなさそうな表情が、無知のようで可愛い。


「あの、ところで君は、」



 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~。


 フードの女の子のお腹が鳴く。


 時計の針は7時を回っていた。


「そりゃお腹もすくわな」


 ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~。


 それにつられるようにエリィーのお腹も鳴った。



「おい、なんで私の時だけ睨むんだ」



「今から、御飯にしようと思うんだが、君も食べていくか? 」



 「……ごはん? ……食べていいの? 」

 

 なぜ上目使いをしてくるのか。

 ユウカは頬が垂れてこない様にこらえるのに必死だった。



「エリィーちょっと手伝ってくれ」


「うむ。 わかった」


 彼女の事について色々ユウカは情報を得たかった。

 むろん、エリィーもそのことを承諾して台所へ向かう。


 フードの女の子はエリィーの後をちょこちょこと追いかけてきた。


「いや、えっと君はいいんだよ? 

 ゆっくりしていてくれ」


 話を聞かれたくなかったユウカは遠ざけようとした。

 

 エリィーの服の裾を握っているフード少女。

 その子は首を横に振った。


「良し、なら私のあの部屋から好きなものを持ってきて見ていいぞ」


 フードの子の目が輝きだした。


「……本当?良いの?  ……取ってくる」


 エリィーの機転が回った。


「さんきゅうな」


「これくらいお安い御用だ」


「で、あの子なんだけど」



「うむ」


「やっぱりお前と同じで穴から来たんなら、住む所とか無いんだよな? 」



「きっとその可能性が高いと思うぞ」



「そうか。


 とりあえず、あの子なんて名前なんだ」



「それが知らないんだ」



「何でだよ」



「何でもだ」



「答えになってねぇよ」



「だって、あの感じだぞ。

 聞いたところで、よくわからん言葉を話しだすし。

 流石にあれはお手上げで流した」



「何ちゅう酷い事を」



「だったらお前が聞いてみろ」



「あぁ、そうするよ。 ゆっくり話してくれるから聞き取りやすそうじゃないか。 素直でいい子そうだし。


で、害は無さそうって言ってたよな」



「うむ。 魔力は持っているが、一緒に居た感じ、問題はなさそうに見えるんだけど」


「けど? 」



「あの子、シェイクリピトから来たと言っていた」


「シェイクリピト? 」


「そこはとても科学と機械技術が発展している場所なんだ。

 何かとつけてあそこの発明はすごい。

 それこそ、どんなものを持っていてもおかしくない。

 それにあいつは博士と言っていた。

 つまりはそれ相応の知識と勉強を教養されているのかも知れん」



「なるほどな。

 一応警戒は怠らないほうが良さそうだな」



「それが良い。 後、彼女の腕に無数の傷口があった。

 何針も縫い付けてあった後や、きっとあれは皮を剥がれているのか、移植されたのかは分からんが相当の何かをされているようだった」



「どういう事だ? 

 何かの研究対象だったのか? 」



「その可能性もあろう。

 もしくは、酷い主で、沢山の虐待を受けていると言うことも考えられそうだ。

 だから、あのような性格になった、 と思うとそちらの方が近しい感じはするが」


「なんて酷い事を」



「いや、これはまだ推測でしかないからわからんが。

 あやつはアニメが好きと言っていた。 それも結構無類のだ。

 大概あそこまでドはまりするような者は感情が豊かで、相手の痛みを共感しやすい、優しい者が多い。 きっと何かしら辛い事やとても大きなトラウマを抱えたりしている可能性も見えなくは無いのだ」


「よし、わかった。 とりあえず、俺が色々と探りを入れてみるよ」



「うむ。 頼む」



 そうしている内に御飯が出来上がる。


「よーし、できたよ。

 みんなで食べよう」


 フードをかぶった子はちょこんと駆け寄って、椅子に座った。

 なぜこんなに愛おしくなってしまうのか。 ユウカは自分が怖くなってしまった。

 敵かもしれないのにこれは反則だ。


「じゃあ、いただきます」


「今日はスパじゃな」


「……すぱ?」


「そう。 スパゲッティーって言うんだ。

 カルボナーラってのを作ってみたんだけど、どうだろう?」



「……カル……、 ……食べてみる」



 初めて見るのか相当戸惑って、覚束ない手つきで、一口を入れる。



「……お、おいひぃ」


 とても感動しているのがわかる。


「そ、そうか。 良かった。 いっぱい食べていいからな」



「何だおまえ、なんかやけに今日優しくないか」



「ん? そうか? いつもこんなんだと思うけど」


「よし、私もおかわりするぞ」


「おう、いっぱい食べろ、食べろ」



「わーい。

 ユウカ~、 ここからとっていいのか」



「あぁ、いいぞ。 ソースはそこにある。

 好きなだけ取れ」


「はーい、わかったぁ」



 エリィーもスパは大好きだ。

 お鍋には大量にパックが漬かっていた。

 温めてあるパックを一つ出して、ゆでたパスタ麺の上にかける。

 白くてとろみのあるソースが絡みついて完成だ。


 仕上げにチーズをかけて出来上がり。


 エリィーは満足そうに食卓へ持って行った。


「本当に好きだな」


 ユウカも微笑ましそうにエリィーを見ていた。


「なんだ、食べ終わったのか? 」


 フードの女の子は物欲しげそうに俯いていた。


「御かわり、ついでこようか? 」



 ユウカの方を見つめると小刻みに首を縦に振った。


「相当美味しかったのかな。 

 よかった。

 どれくらい食べる? 

 沢山入れて大丈夫か? 」


「……沢山、食べる。 

 ……とても美味しい」


 ユウカも久しぶりに喜びに満ちた。

 簡単な事しかしていないが、それでもユウカは嬉しかった。


「はい、どうぞ」


「……ありがとう、 ……ございます」


「所で君、なんて呼んだらいいかな?

 俺はユウカって言うんだけど」


 フード少女は食べるのをやめ、フォークを置いた。 



「……私の名前はフラnskfじtシksdsュン」


「えっ? 」



 ユウカは聞き取る事が出来なかった。


 エリィーが満足そうな顔をしながら、スパを啜る。


「悪い、もう一回聞いていいか」


「……私の名前はフラnskfじtシksdsュン」



 全く分からない


「ほれ、見た事か」


 エリィーがぼっそとユウカに言い放った。

 流石にこれは言い返せない。


 とりあえず違う話題を振る。


「えっと、こんな時間まで居て大丈夫か?


 お家の人が心配してないなら良いんだけど? 」



「……お家の人? 」


 時計を見て急に欠相が変わる。


「……大丈夫じゃない!

 ……帰らないと大変だ」




 急に彼女がうろうろと狼狽え出したので、エリィーとユウカは帰ると何か酷い事をされるんではないかと踏んだ。


「なぁ、もし大丈夫なんだったら、今晩だけでも泊っていくか?

 今日はもう暗くなってるし、外も危ないから」

 

 動きを止める少女。


「……大丈夫じゃない」


 そう言うと再び動き出した。


「もし、伝えにくいんだったら、俺から家の人に連絡してあげるから、そんなに不安がることないぞ? 」



「……ダメ。 ……そんなことしたら余計驚かしちゃう」


 こんなに思い詰めている様なのに、感情が薄い子だった。


「そうなのか」


 だが、彼女を落ち着かせるすべはなく、ユウカは困り果てた。


「もし、お前が良いのであれば、今日はアニメパーティをしないか?

 私もお前ともっと語り合いたいし、丁度今夜、新しい話が放送されるんだ」


 そっと落ち着きを取り戻した。


「……うん。わかった。 泊っていく」



 いやいやいや、どういう事? とユウカは言いたかった。



「家の人への連絡は俺がしとくから」


「……ううん、大丈夫。 私が自分でする」


 そう言うと、胸のぽっけからスマホを取り出し、メールをし出した。

 最先端を行く子だ。

 二人は黙って彼女を見ていた。



「……終わった。 これで大丈夫 ……だと思う」




「分かった。 とりあえず、連絡も入れたし、ゆっくり御飯を食べよう。

 御かわりまだいるか?

 良かったら俺の分も食べるか?」



 少し考えてから少女は首を縦に振った。



「よぉし、待ってろ」



「ユウカ~私もおかわりしたいな」



「あぁ、自分で入れに来い。

 ここにいっぱいあるから」



「お前、この子にばかり優しくないか? 」


「そうか? そんなことは無いと思うけど」


「じゃあ私にも入れてきてほしいな」


「悪い。 手が離せないから自分で入れに来てくれ」



「ちぇっ」


 エリィーが口を尖がらせて席を立つ。


「はい。 どうぞ」



 フード少女は相当お腹が減っていたのか、ペロリと平らげた。

 エリィーといい勝負である。


「俺のも食べな」



「あっ、私も欲しい! 」


「今日はこの子にあげるから我慢しろ。

 お前にはまた作ってやるから」



「何だよ、私も今お前の分を食べたいんだけど」


「我慢しろって

 つうか、俺の分をお前平気で食べようとするな

 

 さぁ、どうぞ。

 たくさん食べな」



「何なんだよ、お前さっきからその子にばっかり優しいじゃないか! 

 私にも優しくしろ! 」



「さぁ、飯食ったら、早く風呂入って寝るからな」



 こうして騒がしい食事は終わった。




「お前ら、お風呂入って来いよ。

 俺ここ片づけてるから」



「はーい。 

 じゃぁ行こう。

 一緒に入るか」



 こくこくとフード少女はうなずく。


「よーしこっちだ」



 まるで兄弟のようにはしゃぐ二人だった。







「ユウカ」


「どうしたエリィー? 」


 エリィーは、彼女よりも先に、少し早く上がって来た。


「どうやら、全身が傷だらけだった。

 あんなに珠代の肌なのに勿体ない」


「そうか。 相当ひどいんだな」


「ん~ただ、あれは常、日頃つけられたものではないのかもしれん。

 新しい傷は特に見当たらなかったし。

 向こうで相当酷い目に逢っていたのかもな」



「ん~ 一回聞いてみるか? 

 あの子が答えたら、それでいいし、言わないなら、言いたくないのだろ。

 そっとしておいてあげればいいし」



「お前のそう言う所は尊敬するよ。

 ほんとに。 だからお前の周りは居心地が良いのかもしれんな」



 そうこう話しているうちにフード少女は上がってきた。

 エリィーの半ズボンのパジャマを貸したら素足がユウカにも見えた。


「ふはぁ~」


 フード少女はとてもたるんでいた。相当気持ち良かったのだろうか。


「なぁ? ちょっといいか? 」


「……私? 」


「あぁ」


「……何かした?? 」



 この上目遣いは天性のモノだろうか。


「いやちょっと気になって。 おまえの体せっかく綺麗なのに傷だらけだから、どうしたのかなって思って」


 ユウカのすごいところ。 思った事は何でもダイレクトに聞く。 これはとても、勇気のいることだ。



「……あっ、これ」


 何やら言葉が重そうだ。 言いたくないのかもしれない。 

 誰にだって思い出したくない記憶はある。


「……ほんとだ。 私の体、傷だらけ」


 ユウカとエリィーがこける。


「えっと、知らなかったのか? 」


「おまえ、記憶がないとか、何かされたとかか? 」


 彼女はそんな返答が返って来るとは思わなかったので、ちょっと驚いてた。


「……ごめんなさい。 冗談」


 冗談かい! と思いつつ、冗談が言えることに二人は驚いていた。


「……わからない。

 私は、……生まれた時から体、傷だらけだったらしい」


「生まれた時から? 」


「……そう。

 博士はそう言っていた。みんなは気持ち悪がっていた。

 ……だからなのかな? 私を穴に落としたのは」


「酷い。

 それじゃあお前は要らなくなってその博士と言うやつにこの世界に送り込まれてきたというのか? 」


 エリィーも質問する。


「……う~んどうなんだろう。

 その辺りは分からない。 

 ……だけど博士は行きなさいと言って、私を穴に突き落とした。

 、……きっと何とかなるからって」


「どういう事だ? 何がどうなってるんだ?

 つまりお前の博士はその穴を知っているのか? 」


 ユウカはもし、その研究とやらをしているやつがいるなら、エリィーを戻してやる方法があるかもしれないと意気込んだ。

 そしてその博士というやつが要らなくなってこの子を突き落ちしたのだとしたらとても許せなかった。


「……していた。 だけど、」


「だけど? 」


「……これ以上言葉が出てこない。

 ……ごめんなさい。 私が話せるのはここまでみたい」


 これ以上話せない? 二人はまだまだ聞きたい事があったが、とりあえず今日は休む事にした。



「お~い、もう寝るからな」



「うむ。そうしてくれ。私たちはここで鑑賞大会だ」


 フード少女も嬉しそうにしていた。


「ほどほどにしておけよ」


 2人の為に、リビングに布団を引いた。

 そのまま眠たくなっても寝れるように。


 本来はユウカ達がここで寝ているのだが、今日は2人に部屋を空け、ユウカはもう一つの部屋で寝る事にした。



 2人は楽しくやっていたのだろう。


 

 ユウカが目覚めた時には、やはりエリィーが隣にいた。


 なぜだか、目覚めるとエリィーが横で寝ている事が多い。

 ユウカが知らないうちに入り込んでくるのだろう。

 甘えん坊さんだ。



 さて、朝の支度を始めるか。 それは。 毎日の朝、ただ、いつもと違う事は。


「あれなんか踏んだ? 」


 もう一人いた事。



「……痛い」



「うわぁ、ごめん」


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