15.怪人アウチ

「ここ、カデにあった小学校を卒業して勉学を続け、海外で活躍する人たちも増えているそうですよ。ブッシュマンとしての経歴を著作にし、少数民族として差別と戦ってきたことを世界に発信したり、文字を持たない彼ら独特の言語の保存のために辞書を作ったり。口承のみのブッシュマンの民話を文字におこして残そうと励む研究者もいますしね」


 にこにことタカムラさんはまたわたしを見た。

「あの……わたしも。忘れないでいようと思います! ここで見たり聞いたりしたこと」

 すごい、調子のいいこと言ってるかな。でもほんとにそう思ったのだもの。

 タカムラさんの反応が少し怖くて、伏し目がちになるわたしの前で、前触れもなく彼は後ろを振り向いた。


「ついてきてしまったか」

 今までになく声が低い。え、と目を上げたわたしの視界に、まっくろなそれが飛び込んできた。ずんぐりとした不気味なその姿に短く悲鳴が飛び出る。そんなわたしの肩に腕を回して、タカムラさんはかばうように抱き寄せた。

「すみません、またイレギュラーです。あれが、お話の中からついてきたようで」

 え、と、えと。凍りつく頭をなんとか回転させてわたしは考える。

「人食いなんですか!? あれ」


「先ほどのお話に出てきたのは人殺しケベレ。これは怪人アウチでしょう、サルのような体に首の後ろにも大きな口があるといわれています」

 タカムラさんの解説に答えるように、わたしと同じくらいの背丈のそれが、くるっと背を向けた。首と肩の間あたりにぱっくりと口が開き、薄暗い中でもそこに並んだ牙がぬらっと光っているのがわかった。

 怖い! マジ怖い! しかもこっちに向き直ったふたつの目は、しっかりとわたしたちを捉えている。あいつにはわたしたちが見えてるんだ。


 悟ったのと同時に恐怖で体がすくむ。そんなわたしの肩を抱いたまま、タカムラさんはどこからか白い紙切れを取り出した。アウチが飛び跳ねる前動作のように膝を折る。怖い!

「ひよりさん、目を閉じていてください。目がくらんでしまうかもしれないので」

 そう言われてもとっさに反応できずにいるわたしの両の目を、タカムラさんの手が覆う。わたしはまぶたを閉じながらぎゅうっとタカムラさんのジャンパーにしがみつく。

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