12.撃退
そう言われても。タカムラさんの口振りだときっと、人食いは村の人を襲うために隠れてるんだよね。怖いよね、これから何が起こるかを考えると。
「村人たちは気づいているのです」
ストーリーを知っているのだろうタカムラさんが言い切るので、わたしはおずおずと村の中を見渡してみた。採集から戻ってきたばかりの女性たちが、がやがやしていたと思ったら、小玉のスイカを手に持って踊り始めた。へ? なんで?
「幼い子どもがひとりだけ、村に残って留守番をしていたのです。その子から人食いがいると聞かされて女性たちはスイカ・ダンスを始めたのです」
「な、なんで?」
「まあ、見ていてください」
どうやらスイカ・ダンスっていうのは、ステップを踏みながらスイカをボールのように後ろの人にパスしていく踊りみたいだ。女性たちは賑やかに歌い踊りながら人食いが隠れているナンテのさやの山に近づいていく。
ハラハラしながら積み上げられたさやの山に目を向けたわたしは、ばっちり見てしまった。赤っぽくしわしわになって重なったさやの隙間から、ぎょろっと二つの目が覗いていたのをっ。ぎゃあ、怖いよー。声をあげなかったわたしを褒めてほしい。わたしたちはここの外の存在だったのだとしても。
ダンスに興じる女性たちは、人食いが潜んでいることなんて知らぬ気にステップを踏む足で次々にナンテのさやを蹴り飛ばしていく。そうしていく間に人食いのまわりの山がもっと積み上がり、目玉もさやの奥に埋もれてしまった。な、なるほど!
すると女性たちは手に手に包丁? ナイフ? を取り出して人食いがいるところを突き刺した。ぎゃー。
何度も何度もその場所を切りつけていた女性たちはやがてすーっと離れた場所に集まり、何事もなかったみたいに食事を始めた。
遅れて戻ってきた男の人たちも一緒になって平べったいそら豆みたいなナンテをむしゃむしゃ食べて、さやをまたぽいぽいと積み上げ、それから村中であっという間に荷造りを終え、人々は村から出ていってしまった。
「人食いの仲間がやってくる前に逃げ出したわけです。ね、大丈夫だったでしょう」
もぬけの殻になった村の中で、タカムラさんは楽しそうに声をあげて笑った。
「はあ、なんていうか。たくましいですね……」
「そう、たくましいのですよ」
タカムラさんの微笑みは「にやり」と表現するのが合っていそうなものだった。なんだか意地悪そうでもある。
なんでだろう? 内心で首を傾げていると、またふっと、まわりの空気が変わったのを感じた。重苦しい白黒の空間だったのが、また眩しい日差しの下になった。乾いた風を頬に感じて、お話の中の空間では、大気の動きさえ感じずにいたのだと気がついた。
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