8.太陽と月
「ピーシツォワゴには二人の妻がいて、お話の中では太陽っ子ツァムツォワゴと月っ子ノエツォワゴと呼ばれています。ツォワゴという接尾語は小さいものを表すようで、彼らの昔話に登場する神さまや動物や植物も、お話の中では人間の姿になって人間のようにふるまい、このツォワゴのついた名前で呼ばれるのです」
なんとかのミコトって呼ぶのと同じ感覚なのかな。いや、ちょっと違うかも。
彼らの楽しそうな話しぶりやハチャメチャな内容からは、そこで語られる神さまや動物に祈りを捧げるというのじゃなくて、もっと身近な親しみからという感じがする。
「性交を知らなかったピーシツォワゴは二人の妻にやり方を教えてもらい、まずは太陽の妻のところにいったけれど、ちんぽこの先が焼けてしまった。次に月の妻のところにいくと彼女は冷たかった、それでピーシツォワゴは月のところで動物たちをたくさん生みだしたのです」
ぎゃーえっち。どーしてタカムラさんはそういことをさらっと。
そういうふうにお話の中でいってるからなのだろうけど。そのままを紹介してくれてるからなんだろうけど。うう、イメージが。わたしの勝手なのだけどっ。
けどおもしろいな。太陽は日本ではアマテラスオオミカミ。いちばん偉い神さまだよね。それが奥さんなんだ。ピーシツォワゴは太陽より偉いのか、創造神だもんな。黒歴史だらけだけど。
ああ、でも、きっと。どっちが偉いとかそういうふうに考えちゃうのがダメなんだ。ブッシュマンの社会は平等で、お話の中でも、神さまも人間も動物も平等なんだろうし。
「おしゃべりと歌と踊りは、ブッシュマンにとって最大の娯楽です。今日のようにご馳走が食べれて幸せなひとときの、夜は踊りあかすことも珍しくありません。ほら、ゲムズボック・ダンスが始まります」
輪になって座っていた人たちが手を叩き、そのまわりを、何人かの男の人たちがステップを踏んでまわり始めた。みんな動きがバラバラで、ステップには決まりはないように見える。なんというか、自由だ。
見ていると、踊り手たちは小屋の間を縫って村中を踊り歩いていく。
「すねに巻いて音を鳴らしているのがラットルというガラガラです、ああして音を出して歩くのに意味があるのだとわたしは個人的に考えています。手に草を持っているでしょう? あれって日本のハタキみたいじゃないですか?」
タカムラさんが言い出したことに、わたしはきょとんとしてしまう。ススキの穂みたいな形をした植物は、確かにハタキみたいだけど。
「ひよりさんは、ハタキの本来の役割をご存じですか?」
へ? ハタキ? 掃除に使うのじゃなくて?
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