7.昔話
「なぜ働かなくても不安にならないか。彼らの生活のすべてが自然から得られるもので成り立っているのと同時に保証されてもいるからです。平等を原則としてリーダーもいない彼らの社会生活は親族の絆や個人個人の良識的な行動でバランスが取られているんです。そのバランスは自然に対しても同じ。必要な分だけをもらい、それ以上は得ようとしない」
あればあるだけ手に入れようとし、自分だけが良ければいいと考える資本主義社会のわたしたちとは違うって言いたいんだよね、それは。
わたしは真率な気持ちになって改めて地面に輪になって座っている人々を見た。食事がひと段落してみんなくつろいでいるふうにも見える。
するとおもむろに、ひとりの男性が集まっている人たちに向かって長々と話し始めた。子どもたちはうつぶせに寝転んで聞き入る体勢になる。え、なになに?
「こうして大勢が集まると、お年寄りが昔話を語って聞かせてくれるんです」
リズムをつけて歌っているようにも聞こえるこれは、お話なんだ。言葉のわからないわたしにはさっぱりだけど、頬杖をついた子どもたちはみんな楽しそうに笑いながら聞き入っている。タカムラさんも楽しそうにくすくす笑っている。
「あの……」
「ああ、すみません。ピーシツォワゴのお話は本当におもしろくて」
「世界をつくった神さまですよね」
「そうです。……先ほど、獲物の肉を干すためにアカシアの木にかけているのをご覧になったでしょう?」
あれもここに生えているのと同じアカシアの木なんだ。キリンの背丈と同じくらいでここのより立派だったけど。
「アカシアの中でもゴーという種類なのですけど。あんなふうに吊るした肉を横取りしてやろうと、ピーシツォワゴがゴーというアカシアの木に化けたのです」
またまた碌なことをしない神さまだなー。
「お話の中ではギューツォワゴと呼ばれてますが、そのエランドという動物を狩った人々は、ピーシツォワゴが化けたゴーの木の枝に肉をかけて眠ってしまうんです。すると人々が寝ているうちにゴーが人の姿になって逃げてしまった。人々が目を覚まして、あれはピーシツォワゴだったのだ、と後を追いかけるんです。追っていって火をつけ焼き殺す」
ひえー、神さまを?
「もちろんピーシツォワゴは不死身の精霊なので死なないのです。死にそうになるたびにホロホロチョウやアフリカオオノガンという鳥をつくったり、ゲムズボックやエランド、ゾウやキリンなどの動物を創り出したのです」
なんとも不思議なお話だ。日本にもそんな神話があったようなとわたしは思い出す。神さまたちが何かするたびに新しい神さまが生まれて、それは自然や物を象徴しているのだ。
八百万の神さまたちと同じようにカラハリの自然の中にもたくさんの精霊、神さまがいるってことだよね。そう思うと親近感がぐっと強くなる。
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