5.ピーシツォワゴ
「ブッシュマンの創世神話に登場する神です。カラハリの自然のすべて、動物や植物、太陽も月も星も風も、すべてをつくった精霊とも神ともされる存在です」
キリスト教の神様は七日間で世界をつくったのだよね、確か。そういうすごい神さまなのかな、ピーシツォワゴって。
「ある日、大きな男の姿になったピーシツォワゴが、ブッシュフェルトを歩いていたら、猛毒の蛇ガエツォワゴに金玉を噛まれ、あまりの激痛にのたうちまわり、足を引きずって歩いた跡がモラポ、水を飲みたくて作ったのがパンだと語られています」
全然すごくなかった! 何その残念なエピソード! そしてタカムラさんがさらっと金玉とか言ったー。なんかショック。
「それはともかく、モラポやパンの周りは他の平原部のブッシュフェルトと比べて食物が豊富で、居住地には欠かせないアカシアの林があるのもこうした土地なのです。ほら」
またまた促されて視線を投げると、白っぽい地面に数本立つ大きな木の間に藁を積み上げたみたいな簡素な小屋がいくつも並んでいた。あれが村?
「女性たちも採集に出かけているようです。この辺りを少し歩いてみましょう」
さっさと踵を返すタカムラさんに慌ててついて行くと、腰くらいまで背丈のある草むらの間から、褐色の肌の豊かな胸をあらわにした女の人の姿が見えた。
この人たちにとってはこの格好が当たり前なのだろうから、やらしく考える方が人間性を疑われるのだろうなと考えつつも、タカムラさんがどういう目で彼女を見ているかが気になってしまう。
「見てください。あの人が摘んでいるのはコムの実です」
これまでと取り立てて変わらない声と表情でタカムラさんはわたしを振り返った。
「カラハリの雨季は一月から二月で、その期間はカーン・メロンという棘のあるメロンやスイカ、そしてあのコムの実がたくさん採集できるのです。コムの実は甘くて美味らしいですよ」
確かに。指の先ほどの丸い木の実はぷっくりしていて甘そうだ。味を想像して物欲しそうな顔つきになっていたのか、そこでタカムラさんは眉をひそめた。
「一応注意を促しておきますが、ツアー中は決して現地の食べ物を口にしないでくださいね。そんなことは起きないとは思いますが」
「へ?」
「空腹やのどの渇きは感じないはずですので」
言われてみるとそうだ。この炎天下を軽く早足で歩いたりしてるのにのどが乾かない。そもそも、体感もおかしいことにわたしは今頃気がついた。日差しのキツさは感じるけれど暑くないのだ。こんなジャンパーを着ているというのに汗ばんでもいないし疲れてもいない。
これも夢だからなんだろうなー。あれ、そういえばさっきのタカムラさんの説明だと今はその雨季の一月か二月ってこと? 十一月の日本にいたのに? ははは、まあ、夢だからな。
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