4.草原

 丸々した胴体に四本の槍を突き立てられて、キリンは動かなくなった。


「大きな獲物は持ち帰るのも重労働なので、この場で解体して、ちょうどいい木もあるので、あの枝に肉をかけて干し肉にするのでしょうね。そうすると運びやすくなるので」

 遠目だからキリンの巨体を囲んで狩人たちが作業するのを見ていられた。皮をはぎ、細長く削がれた肉らしきものがどんどん枝にぶら下がっていく。不思議な光景だった。でも、これがあの人たちの日常なんだ。


 ぼんやり見入っていたものの、漂ってきた匂いが気になり、それがキリンの血や肉の匂いなのだと思うと、へんな味の唾が口の中に滲み出て、わたしはそれが我慢できなくなった。

「移動しましょうか」

 タカムラさんが言ってくれたのでわたしは一も二もなく頷いた。歩き出しながらタカムラさんは説明を続けた。

「彼らは一日かけて肉を日干しにし、干し肉を運んでキャンプに帰るのです」


「キャンプ……」

「キャンプというか、一時的な村ですね。三、四十人の集団で一家族ごとに小屋を作って三、四週間暮らします。周りに主食となる植物がなくなれば家財道具を背負って別の場所に移動するのです」

 俯きがちにタカムラさんの話を聞いていたわたしは、だから気が付いた。


 今、一歩を踏み出す間に、歩いていた地面の様子が変わった気がしたのだ。白茶けた草むらから、白っぽく固い地面に。目を上げて見回せば、さっきまで腰まで丈のある草むらの間にいたのに、えらく見晴らしのいい平原に景色が変わっている。

 あれ? と思ってタカムラさんを見上げてみても、わたしの不思議そうな表情に気づいていそうなのに彼はそれについては何も言わずに腕を上げた。

「あっちを見てください」

 目を向けてみれば、白っぽい砂地に筋が小川みたいに走っている。


「水のない川みたいですね」

 思ったことを言ってみると、タカムラさんはにこりと笑ってくれた。

「その通りです。モラポと呼ばれる涸れた沢です。そしてその周辺の今私たちが立っているような平らな窪地はパンと呼ばれます。ちなみに草原はブッシュフェルトと呼ばれます。百何十万年も昔の氷河時代の大洪水の名残が、モラポやパンなんですが、ブッシュマンは、こういう地形ができたのは、ピーシツォワゴと呼ばれる神さまのせいだと考えたようです」

「ピー……?」

「ピーシツォワゴ」

 タカムラさんはゆっくりとその名前をもう一度言ってくれた。

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