3.キリン狩
「大きな獲物を探して弓矢で猟をするより、トビウサギの巣穴に棒を突っ込んで引き釣り出したり、スティーンボックという小鹿みたいな小型の動物は、罠を仕掛けておいて待っていればいいので猟はずっと簡単なのですが、肉の量が少ないのでキャンプ集団の全員に分配できないのです」
ああ、そうか。体の大きさが違えば、食べれる肉の量も違うよね、そりゃあ。
「百パーセント自然に依存した狩猟採集の生活は、少人数の集団で広い土地を移動できてこそ成立するのです。そしてそのような集団では、平等分配が基本原理ですからね」
みんなで食べ物を取ってきて、みんなで分けるってことだよね。
「ブッシュマンの大好物は肉で間違いないのですけど、ですから肉は貴重で、実は摂取カロリーの八十パーセントは植物で、女性たちが採集する植物の実や葉や茎や根が主食となっているのです」
うーん。やっぱり野性味のあるイメージと少しズレる。肉ー!! って感じなんだけどな。
そうこうしているうちに、ススキみたいな白茶けた草むらの中を歩いていた狩人たちが歩みを止めた。肩にかけていた袋を放り出し、長い棒や弓矢を持って草むらが途切れた平地に走り出す。
「ひよりさん、向こうです」
彼らにばかり気を取られていたわたしの肩を叩いてタカムラさんが平原の先を指差した。
ぽつんと、ひょろっとした樹木が一本だけあって、その横に、樹よりももっともっと大きな動物がいた。竹ぼうきみたいに枝を上に向かって伸ばしている樹の幹に体を隠すようにしているようにも見える。そして長い首を屈めてこっちを見ている。うん、絶対見てる気がする!
「あ、あれを倒すんですか?」
「そうですね」
タカムラさんは涼しい表情で簡単に頷いた。わたしはちょっと信じられない思いでその大きな動物――キリンをもう一度凝視した。
はっきりと顔をこっちに向けて、近づいて行く狩人たちに気づいているように見える。でも動かない。
「ある程度毒がまわっているのでしょう。もう一度、毒矢を射かけるようです」
タカムラさんの言うとおりだった。わたしの視力では矢が飛んでいくのはわからなかったけれど、キリンの前で弓を構えていた男性たちが後ずさって遠巻きにキリンを見ている。
「毒っていうのは……」
「ヤドクハムシという毒虫の蛹を潰して矢に塗るのです」
ひええ。一気にワイルドになった。キリンは動物園で愛でるもの、という感覚のわたしにはキリンを狩るというのがしっくりこない。
でも、そんなわたしの目の前で、キリンの脚ががくっと折れたかと思うと、大きな体がばたーんと横倒しになった。
狩人たちが手に手に長い棒を持って走って行く。彼らが棒を振り上げるのを見て、それが槍であることにわたしはようやく気づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます