2.遭遇!

「とはいえ、雨量は極めて少なく、夏には四十度を越し冬には氷点下十度にまで気温が下がる過酷な場所です。こんな不毛な大地ですが動植物は豊かで、この砂漠を移動しながら狩猟や採集で食料を得て暮らしているのが、ブッシュマンと呼ばれる民族です」

 流れるように解説しつつ、タカムラさんはすぅっと視線を横に向けた。つられてわたしもそっちに顔を向ける。


 草むらの中を五人の男性が歩いてきた。長い手足に細い体躯、縮れた頭髪に褐色の肌。身に着けているのは腰の周りの布だけだ。


 うわ、現地の人と遭遇しちゃった。挨拶した方がいいのかな? わたしは目線でタカムラさんに尋ねたけれど、タカムラさんは目の前を通りすぎていく彼らにじっと視線を注いだまま何もアクションを起こさなかった。


 身長の二倍はありそうな細長い棒を手にし、他にもいろいろ棒のようなものを入れた袋を肩にかけた彼らは、草むらの足元を見ながら歩き去っていく。

 すぐ目の前、視界に入っていただろう距離だったのに、ノーリアクションでスルーされたことにちょっと驚いて彼らを見送る。そんなわたしをタカムラさんが振り返った。


「現地の人たちには、ひよりさんと私の姿は見えないのです」

 ああ、なるほど。夢だからな。でも、わたしの夢の仕組みをタカムラさんに教えてもらうのもおかしな気がする。わたしの夢なのに。夢ってそういうものだっけ?


「昨日、毒矢を射込んでおいた獲物を追いかけているようです。あの人数で行くということは大物でしょう。ついて行ってみますか?」

「あ、はい」

 深く考えず頷きタカムラさんの後について歩きだしてから、わたしは気がつく。つまり、あの人たちはこれから狩りをするってことなのかな。わかってから目を凝らしてみれば、彼らが肩にかけた袋の中にあるのは弓と矢なような気もする。


「彼らは手に入れる食べ物のすべてを自然にのみ依存しているので、絶えず食料を求めて歩きます。狩りは成年男性の役割で、ああして弓矢や槍、掘り棒などを担いで一日中歩き回って獲物になる動物を探します。が、獲物にはめったに出会えず、見つけても毒矢を当てることに成功するのはまれなのです」

「え、そうなんですか」

 前を行く狩人たちからは自信が溢れていて、必ずや獲物を仕留める、というふうなオーラが出ている気がするのだけど。野性味のある外見でわたしがそんなふうに感じてしまうだけなのかな。


 声が聞き取りやすいようにという配慮なのか、わたしと並んで歩いていたタカムラさんは、微笑みのようなものを頬に浮かべた。

「彼らの使う弓矢の性能が低いのです。しかし道具は粗末でも、少人数のグループで月に一頭は大物を狩るそうですから、感心です」

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