第一話 タカムラさんと行くカラハリ砂漠
1.夢?
まっくらになった視界は、すぐに今度はまっしろになった。目が眩みそうになったけどすぐに慣れる。足場を失って空に浮いていた足も今はどこか地面を踏みしめている。
頭のてっぺんには強い日差し、さっきまでの秋晴れの心地いいひだまりとは違う、真夏の、殺人的なアレだ。
そして目の先には地平線。素晴らしく突き抜けるようなスカイブルーが段々と白っぽくなっていくグラデーションとの境、赤茶けた地面に背の低い木がぽつぽつと立ち、その間に白茶のススキっぽい草が生えていたりもするけど、目の前には、空と地面としかない。大草原だ。
わたしは、大草原に突っ立っている。瞬間、頭の中でシフトレバーがかくんと切り替わった。
これは夢だ。夢の世界だ。だって、わたしはさっきまで会社の中にいたんだよ?
秋まっさかり、道端で目を上げればじゅくじゅくに熟した柿が頭の上に落っこちてきそうな恐怖を覚え、きれいなイチョウ並木の歩道は踏み潰されたギンナンで悪臭が漂い、天高く馬肥ゆる焼き芋がおいしくて栗やかぼちゃもおいしくて牡蠣もおいしくてサンマの漁獲量がニュースになって、そんなスペシャルシーズンな日本にいたはずなのに、どう見てもここって日本じゃない。
夢だ。どういうわけか掃除中に眠ってしまったわたしは夢を見ているのに違いない。
「ここは、カラハリ砂漠ですね」
わたしの隣で涼やかな声がした。青いジャンパーにチャコールグレーのスラックスのタカムラさんだ。井戸の中で見えなかったけどズボンはこんな色だったんだ。にしても靴はストレートチップの黒いビジネスシューズだ。砂漠を歩く格好じゃない。
わたしも、靴こそ紺色のキャンバス地のスニーカーだけど、服装はタイトスカートにブラウスにベストの事務服三点セットの上に緑色のジャンパーだ。
上着がジャンパーなのは良かったかもだけど、真っ青なジャンパーのタカムラさんと真緑なわたしが並ぶのは目に優しくない。なんなら環境にも悪い気がする。この赤茶けた背景に人工色すぎる。おかしい。やっぱり夢だからな。
ぼーっとどうでもいいことを考えるわたしの頭の上ではタカムラさんの流暢な説明が続いていた。
「カラハリ砂漠。アフリカ大陸の南、国で言えばポツワナの西半分とナミビアの東と南アフリカ共和国にもかかって位置する広大な盆地です。全土はカラハリ・サンドと呼ばれる細かい砂で覆われていて、砂漠と呼称されてはいますが、ご覧の通り、草木がみられるので砂漠という感じではありませんよね?」
「は、はい!」
授業中、いきなり先生に指名されたときみたいに、わたしはびくっと元気よく返事をした。
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