第691話 能力の恩恵

 タウロは新たに覚えた『チーム能力上昇』というわかりやすい能力について、城館の内庭で試す事にした。


 そのままの能力だと思うのだが、タウロもこれまでも実験してきてその能力の可能性を最大限引き出すようにしてきたから、今回はみんなと一緒に確認する事にする。


「『チーム能力上昇』って事は、俺達の各能力がそれなりに上がるって事だよな?」


 アンクが、過去にも聞いた事があるタイプの能力なので当然の想像でそう予想する。


「うん、そうだと思う。今の感じだとまだ、能力も発動していないみたいだから、とりあえず使用してみようかな。──『チーム能力上昇』!」


 タウロもアンクの言うような事を想像していたので、問題はどのくらい上昇するものなのか、また、発動時間は、あるのか、それとも半永久的なものなのか、効果範囲はあるのか、人数制限なのか、色々と確認する事は多いと思いながら発動した。


 するとどうだろう。


 タウロは自分の体が軽くなったような気がした。


 それに魔力が溢れてくる感覚もある。


「……これは、意外に上昇値が高いかも……!」


 タウロは想定以上の効果に思わず、そう感想を漏らす。


 エアリス達もタウロ同様、同じ感覚に捉われたのか、自分の手や体を見つめている。


 どうやら、しっかりみんなにも効力を発揮しているようだ。


「……タウロ、これはとてつもなく凄いかもしれないぞ?」


 そんな中、ラグーネが驚いた表情のまま口を開いた。


「どうかした? 効果は各能力の全体的な上昇っぽいのだけど?」


 タウロはラグーネが想像以上の反応で賞賛するので、少し大袈裟に感じて聞き返す。


「……いや、それだけじゃないぞ。私の『次元回廊』もパワーアップしたようだ」


 ラグーネはそう言うと、目を閉じて何か確認する素振りを見せる。


「「「えっ!?」」」


 これにはタウロだけでなく、その場にいた全員が驚いた。


 そんな『チーム能力上昇』系能力など聞いた事がないからだ。


「……やはりそうだ! ……これまでは出入り口の数は設置が限定されていたが、急にその感覚がなくなっているぞ。──ちょっと待ってくれ、試してみる!」


 ラグーネはそう言うと、『次元回廊』を開いて、その場からすぐに消えた。


「ラグーネさん興奮してましたね……」


 シオンが、ラグーネの様子にびっくりして、指摘した。


「ラグーネの言う通りなら私達のスキルにも影響があるという事かしら? もし、それが事実なら、タウロの『チーム能力上昇』はとんでもない能力よ?」


 エアリスもタウロの新能力がただの能力上昇系ではないかもしれないと告げる。


「……うーん、どうなんだろう? とりあえず、色々と検証してみないといけないよね?」


 そうエアリスに応じていると、そこにこの城館に滞在している竜人族の大勇者が、数人の仲間を連れてやってきた。


「タウロ殿、少しよろしいですか?」


「どうしました?」


 タウロは大勇者の真剣な問いに、聞き返す。


「ちょっと、鑑定させてもらってよろしいでしょうか?」


「はい? ──あ、いいですよ。ちょっと待ってください。『鑑定阻害(極)』を解除しますね」


 タウロがそう言って、解除する。


「……やっぱり、タウロ殿の能力でしたか! 仲間に確認しても急な能力上昇魔法は使用していないと言うので、不思議に思っていたのですよ」


 大勇者はそう言うと、笑う。


「え? という事は、みなさんにも僕の能力の影響があったという事ですか?」


 タウロは驚いて聞き返す。


「はい。タウロ殿の『黒金の翼』のメンバー全員に能力上昇が付与される仕組みになっているのですが、そのメンバーの質によって全体の上昇幅が変わってくる仕様のようです」


 大勇者はタウロを鑑定しながら、そう答えた。


「メンバーの質によって? それってつまり、竜人族のみなさんを『黒金の翼』に沢山仲間を入れている分、他のメンバーもその恩恵に預かれるという事ですね?」


「かいつまむとそういう事になるかもしれません。ですが、能力上昇は我々にも等しく恩恵に預かれるもののようなので、かなり驚いていますよ。スキルの限界まで能力を上昇させているメンバーが、タウロ殿の能力によって、限界を超える事になり、スキル名が文字化けになっていますから」


 大勇者はタウロの想像を超える能力に呆れて苦笑する。


「スキルが文字化け!?」


 タウロもこの意外な返答に驚いて聞き返す。


 つまり、自分の文字化けスキルももしかしたら、スキルとして限界を超えるものだから、文字化けしていると捉える事もできるからだ。


「ええ。──なぁ、みんな?」


 大勇者はそう言うと、後ろにいる仲間達に聞く。


 どうやら、彼らのスキルが文字化けになってしまったのだろう。


「タウロ殿のチームの一員になったおかげでスキルの限界を超え、また、鍛える余地が生まれましたよ。ありがとうございます!」


「このような事例は竜人族の歴史の中でも初めての事かもしれません。これから研究が必要ですね」


「こうなると、竜人族の者達はみんなタウロ殿の『黒金の翼』に入団させてもらった方がいいかもしれないです!」


 と他の竜人族の者達は、興奮気味にタウロに感謝や提案をするのであった。


 そこに、ラグーネが『次元回廊』を使って戻ってきた。


「タウロ、やっぱり凄──、……うん? 先輩達どうしました?」


 ラグーネは戻ってくると興奮してタウロに結果を報告しようとしたが、竜人族の先輩達が来ていたので、少し冷静になって今の状況を確認する。


「あ、ラグーネお帰り。今、僕の新能力の効果についてみなさんに教えてもらっていたところだよ。それで、君の結果はどうだった?」


 タウロはみんなが興奮気味なので一人冷静になって、結果を確認した。


「あ、ああ! そうだった。聞いてくれ! なんと、私の行った事がある場所はダンジョンなどの特殊な場所以外は、行けるようになったぞ!」


「「「おお!」」」


 これにはタウロのみならず、全員が驚いた。


 それはそうだろう、出入り口の設置数を気にする必要がないだけでも凄い事なのに、どこにでも移動できるというのは破格の能力である。


 もちろん、ラグーネの『次元回廊』は単体での移動しかできないはずだから、複数移動する為にはタウロの『空間転移』が必須にはなるのだが。


 タウロ達『黒金の翼』一行は、この恩恵に興奮を抑えられずにいるのであった。

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