第690話 式の成功とその後
領主就任&昇爵を祝うパーティーはフルーエ王子登場とその後のタウロとのやり取りがピークであった。
それは、王子自らタウロとヴァンダイン侯爵令嬢であるエアリスとの婚約を改めて祝福するという態度を示す事でさらにめでたい雰囲気が会場全体に伝わった感じである。
それに、この南西部地方にはまだ、しっかりと届いていないであろう情報もお披露目した。
それは王国の国家事業である地下迷宮『バビロン』の完全攻略を成し遂げたのが、タウロ率いる『黒金の翼』だという事実である。
「あのバビロンが!?」
「もはや、不可能とまで言われていた迷宮を完全攻略したのが、ジーロシュガー伯爵の冒険者チームなのか!?」
「先日、攻略されたという情報を聞いたばかりだったが、本当だったのか……!」
これは全国の冒険者のみならず、貴族も昔から知るこの国の悲願であり、それが建国数百年越しに達成された事に会場の者達は一様に驚いた。
フルーエ王子はどうやら、タウロとの関係性や個人の実績をはっきり世間に示し、タウロにちょっかいを出したら王家と自分が敵に回るぞ? と公表しているようであった。
タウロもこれはありがたかった。
正直、タウロはジーロシュガー伯爵としてどころか貴族として日が浅く、元も貧しい農民の出であるから他の貴族から軽んじられても仕方がない立場である。
だが、実績が十分である事は、示しておきたかったところであるから、フルーエ王子からそれを称賛してもらえた事で自ら自慢する形にならなくて良かった。
それに、その事により王家との結びつきが強い事も示せた事で交流のない各自治区や貴族からの反応もかなり良くなった事はこの会場の雰囲気を見れば明らかである。
それに会場にはバリエーラ宰相の代理としてムーサイ子爵も訪れている他、中立派貴族の関係者も多く列席している。
これはエアリスがヴァンダイン侯爵令嬢という事やタウロ本人がグラウニュート伯爵家の子息である事が大きな理由であるが、王都に縁のない地方貴族の中にはこんな場でないと知る事がない情報でもあり、それをフルーエ王子を通して知る事になるのであった。
タウロはこの雰囲気を壊さない為にも提供する食事にもかなり力を入れている。
ステーキやハンバーグなどのお肉は冒険中に得た最高級の魔物の肉を使用していたので、これは上級貴族でも滅多に食べられない代物であったから、列席した人々は大満足の食事になった。
デザートも王都やこの領都などの『カレー屋』でも、まだ、提供していないプリンアラモードを出す。
見た目もプリンと色とりどりの果物と生クリーム、そしてアイスやケーキが添えられた逸品である。
「なんと贅沢な……!」
「このプリンは、『カレー屋』で食べた事があるが、この冷たくて甘いものは一体!?」
「いろんな味が楽しめて、素晴らしいな……!」
これには列席している平民はおろか自治区の代表や貴族までが、その美味しさに唸ったのであった。
こうして、タウロ主催の領主就任&昇爵祝いパーティーは大きなトラブルもなく大成功で終わる。
「でも、本番はこれからなんだよなぁ……」
タウロのスケジュールはそのパーティー翌日からすでにぎっしり埋まっているのだ。
それは交流のない自治区代表との面会はもちろんの事、各貴族との面会である。
幸いフルーエ王子のお陰でそれらも、うまくいきそうな見込みではあるが、すぐに話がまとまるものでもない。
相手も自己の利益を考えるものだから、タウロとの交渉には時間をかけてでも、良い条件を引き出そうとするのは当然だからである。
この辺りは同席するエアリスやエルフで領主代理も務めるグラスロー、交易所を任せているソウキュウ、そして、グラスローに仕事を引き継いだはずの犬人族のロビンも一緒だったから何とか対等に渡り合う事が出来た。
とはいえ、連日、朝から晩まで、あらゆる要人との面会である。
これにはタウロも閉口せざるを得ないのであった。
そして、パーティーから三週間後の夕方。
最後の面会が終わった。
相手の自治区の代表が契約書にサインをすると、タウロと握手を交わす。
その時であった。
「特殊スキル【&%$#】の発動条件の一つ<種族の垣根を超えし者>を確認。[チーム能力上昇]を取得しました」
と脳裏に『世界の声』が鳴り響く。
タウロは内心驚きつつも、目の前の自治区の代表の前ではその表情を見せる事なく送り出す。
その代表の後姿が見えなくなるのを確認してから、ようやくタウロは安堵のため息を吐いた。
「タウロ様、お疲れ様でした。これでこの南西部地方一帯での交流はほぼ全て再開される事になりましたよ」
エルフのグラスローがタウロのため息を疲れからのものと解釈して労う。
「私もタウロ様同様、疲れましたよ。商人時代でもこれほどスケジュールが詰まった交渉はやった事がないですからな」
元ブサーセン商会会長だったソウキュウも額の汗をハンカチで拭いながら笑って言う。
「みなさん、お疲れ様でしたなのです!」
犬人族のロビンもみんなを労う。
「みんなお疲れ様。でも、タウロ、そのため息はもしかして別の事じゃない?」
エアリスだけが、タウロの変化に気づいた様子で聞く。
「はははっ。さすがエアリス。──実は、また、新たな能力を得たみたい」
タウロは嬉しそうに応じる。
「へー、どんな能力なの?」
「それがね?」
タウロは冒険者としてかなり役に立ちそうな能力でありそうな事をエアリスに話すのであった。
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