第692話 そして、また冒険へ
タウロの領主就任式から、数か月が経とうとしている。
その間、タウロは腹心であるエルフのグラスローによるサポートの元、領内の改革に努めていた。
交易所は毎日各自治区からやってくる商人達によってごった返し、責任者である元ブサーセン商会の代表であったソウキュウが毎日忙しく飛び回っている。
すでに交易所は増改築が決まっており、各自治区の商人達からもその為の資金も出資してもらっているから順調だ。
そう、各自治区の商人達にとっても、このシュガー領都の交易所はこの南西部地方の生命線と考えているのであった。
それにこのジーロシュガー伯爵領は各自治区の上層部にとってモデルとなる理想の地と考えているようで、ひっきりなしにこの地に視察に来ては、領主であるタウロの考えや思いを聞いて末永い交流を求める者が多い。
それにタウロの下には、各自治区の異種族の者達が、生まれに拘らずその能力を評価され、多数雇用されているので、それも注目を浴びている。
領主代理のエルフ、グラスローをはじめとし、領兵総隊長には小人族のシャル、その下の部下の隊長クラスにもドワーフがいたし、つい先日も巨人の部下を隊長に抜擢したばかりであった。
交易所のソウキュウは人だが、その部下にも獣人族の者や各自治区から派遣された将来有望な若者達が勉強の為に働いており、それらをタウロは歓迎している。
さらにタウロは、研究所なども設置しており、その責任者に伝説の魔導具士ジャン・フェローを据え、全面的に任せていた。
研究員も多種多様な人材が集まりつつあり、すでにいくつか商品化しようとしている。
その一つがマジック収納付きアイテムの低コスト化した商品であり、領主就任パーティーではすでに招待客に特別製のマジック収納付き鞄をお土産に渡すという太っ腹ぶりをみせて宣伝としていた。
さらには領内の冒険者ギルドと連携して、魔物討伐の効率化や資源の活用性をさらに上げる事が話し合われ、ジーロシュガー領内だけに限って、魔物の討伐の際には『黒金の翼』に所属する事で特別な恩恵に預かる事が出来るようにしている。
これにより、死亡率が高い職業である冒険者職が、ジーロシュガー支部だけ他の支部と比べて飛躍的に死亡率が下がるという結果を出す事になった。
これは、タウロの『チーム能力上昇』の恩恵であるが、当の冒険者達はクエストの際に渡される護符のお陰だと思っている。
その為、護符をくすねて裏で売買をするという悪い冒険者も現れたが、その辺りは『黒金の翼』の所属から外れた時点ですぐに効果が切れる仕組みになっているという説明一つで解決した。
ちなみに、タウロにとって嬉しい事がいくつか起きていた。
それは冒険者ギルドサイーシ支部でお世話になった恩人モーブのチーム『銀剣』がジーロシュガー領に移ってきた事だ。
もちろん、奥さんであるネイも一緒である。
なんでもこの領地に接する王家直轄領、秘境特区を冒険する事にしたらしく、その拠点としてこの地を選んでくれたらしい。
さらには獣人族でこちらもダンサスの村でお世話になったボブとモモの夫婦も赤子のタウロと一緒にシュガー領都に移り住んでくれた。
こちらは、この地が気に入ったという事らしい。
そんな両者も今は『黒金の翼』所属のチームや冒険者として活動をしてくれている。
ネイやモモにしたら、住みやすい地で、冒険者である夫が死亡率の低い『黒金の翼』に所属して、比較的安全に冒険者を続けてくれる事は嬉しい事だろう。
タウロはこの数か月でいろんな事を行い、投資する事で領内を良くしようと続けていたが、それは確実に実を結びつつあるのであった。
「よし、そろそろいいんじゃないかな?」
タウロが執務室で、仕事を手伝ってくれているエアリスやエルフのグラスローにそう問いかけた。
「え? だってここまでの頑張りの結果が出るのはこれからじゃない。それを確認しなくていいの?」
エアリスがタウロの言葉に意外とばかりに反応する。
「そうですよ、タウロ様。それらの結果を確認してからでも旅に出るのは遅くないと思いますが?」
グラスローも少し困惑気味に応じる。
「だって、グラスローがいてくれるからね。この芽吹いた花はグラスローが綺麗に咲かせてくれると思えるから。僕の意思をしっかり汲んでくれる事はこの数か月の仕事ぶりを見ていても間違いないし、安心して任せられるよ」
「タウロ様……」
グラスローは自分に全幅の信頼を寄せてくれるタウロに感動のあまり声を詰まらせる。
「もう、タウロ。それは私も同意するけど、本音は冒険したいだけでしょ?」
エアリスが見透かしたように指摘する。
「うっ……! ──はははっ! それもあるけど、本当に任せられるからね。それに、綺麗な花が咲くところは外から見てみたいというのもあるじゃない。それにモーブさん達『銀剣』は先に秘境特区に冒険に行っちゃったし、僕も遅れていられないなぁって」
タウロは笑って指摘を認めると、本音の一つを口にする。
「そうね……。タウロがそう言うのなら、わかったわ。じゃあ、どうする? ラグーネとアンクは新婚だから、一緒に冒険するかしら? まあ、私とシオン、ぺら(スライムエンペラー)にセト(子供型自律思考人形)とガロ(狼型人形)は行くとして、二人の代わりにアダムとイブ(男女大人型人形)でその穴を埋める事はある程度出来るとは思うけど……」
エアリスは指を折りながら新婚夫婦二人の前衛の代わりに、
そこに執務室の扉が開いてラグーネとアンクが入ってきた。
「おいおい、リーダーにエアリス。俺達が冒険に行かないわけがないだろう?」
アンクが呆れた様子で言う。
どうやら、二人、扉の向こうで話を聞いていたようだ。
「僕は何も言ってないよ? エアリスが仮定で言ってただけだから!」
タウロは笑って断りを入れる。
「ちょっと、タウロ、私が薄情な事を言っているみたいになってるじゃない!」
エアリスが、頬を膨らませてタウロを非難した。
「そうだぞ、タウロ。エアリスは私達に気を遣ってくれただけなのだから、そういう言い方はよくないぞ?」
ラグーネはそう言うとエアリスの味方をする。
「はははっ! ごめん、ごめん。それで、二人も行くんだね?」
「「当然!」」
ラグーネとアンクは息の合った返事をする。
「了解。それじゃあ、いいかな、グラスロー?」
タウロは笑顔でグラスローに聞く。
「……わかりました。すでにタウロ様が留守にする場合の体制は整っていますから、冒険に向かわれても問題ありません。それにラグーネ殿の『次元回廊』があるわけですから、時折、顔を出してくださいね?」
「うん。わかっているよ。それじゃあ、みんな。一週間後、支度を整えて秘境特区に向かうよ!」
「「「おお!」」」
執務室に元気よく返事が響くのであった。
一週間後──
タウロ一行は、準備を整え、久しぶりの冒険の旅に繰り出すのであった。
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あとがき
ここまで読んで頂きありがとうございます!
実は、ここでストックが1話を残して尽きております。
ということで、しばらくの間、「自力で異世界へ!」はお休みさせて頂きたいと思います。
ちなみに明日、3/11の18:59には公開を悩んでいた「仮」の「最終話回」も投稿予定です。
その最終話を見て、「これで終わりでいいや!」とご満足頂いた方は、それでOKだと思いますし、これを読んで「やっぱりそこまでの話を読みたいよね」という方がいるならば、続きを気長に待って頂けたら幸いです。
改めましてここまで読んで頂きありがとうございました!
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