第652話 小人族の歴史
小人族城館内は大きめに作られている事もあり、扉なども頭を低くする事もなく部屋に入れた。
最初、応接室に通されたタウロ一行であったが、小人官吏が丁寧に応対してくれた。
どうやら、部屋の準備がまだ終わっていないので、ここで歓談してから部屋に通すつもりのようだ。
しばらくの間、小人官吏がタウロ一行相手に、エルフ族と再会できる日が生きているうちに来るとは思っていなかったという感想やイッスン派は人間族との共存を望んでいる事など、熱い語りを聞いていると、扉をノックする音があり、小人使用人が入って来ると「準備が出来ましゅた」という報告が小人官吏の下になされた。
「それではお部屋に案内しましゅ」
小人官吏はそう言うとタウロ一行を先導してくれるのだが、これが中々タウロ達にすると骨が折れた。
というのも、相手はタウロ達の約半分の背丈だから歩幅が狭く、付いて行くのにも気を遣う。
それに小人官吏はさらに歩き方がゆっくりなので、タウロ達はその歩みに合わせる為一定のタイミングで歩みを止めて調節しないといけなかった。
ようやく目的の部屋に案内されてタウロ達も内心安堵する。
小人族との付き合い方は気長にやるしかなさそうだ。
そう思って部屋に入る。
そこには小人族のタウロ達に対するもてなしの為の努力の跡がいくつも垣間見えていた。
それはまず、ソファーは小人用の物を二つ引っ付ける事で人専用にしていたし、机は脚の部分に板を挟む事で少し高くしている。
そして、寝室も小人用の大きなサイズのベッドを縦に二つ並べる事で、人用として対応していた。
「凄く努力が見られて、可愛らしい……」
タウロはあの小さな小人族の人々が、急いでこの準備をしてくれたのかと思うとほっこりして、思わずそう漏らした。
小人官吏は、その言葉に苦笑すると、
「何か必要なものがある時は、近くの使用人に声をかけてくだしゃい。──あと、小人族の中には可愛いと言われる事を不快に思う者がいるので、あまり口にされませんよう、よろしくお願いしましゅ」
と忠告した。
「あ、ご不快にさせてしまい申し訳ありません!」
タウロは検問所の小人責任者にも同じ指摘をされていたので、素直に謝る。
「いえ、私は気にしましぇんが、戦士系の職業や上に立つ者はそういう言葉を嫌うのでご注意くだしゃい。子供には言ってもいいんでしゅけどね。それでは明日の朝までごゆっくりどうじょ」
小人官吏は笑ってそう言うと、部屋を退室するのであった。
ちなみに、エアリス、ラグーネ、シオン、アグラリエル女史、小人責任者はそれぞれ別室で、子供型自律思考
改めて室内を見渡すと、絵画も少し小さめに感じるが小人族からすると大き目なものなんだろうなと感じた。
そして、思わず確認したのがトイレである。
小さくて用を足すのが不便だと困ると思ったのだ。
だが、それは杞憂だったようで、便器部分をそのまま人用に交換してくれていた。
「ほっ……。場合によっては我慢する事になるかと思った……」
タウロは苦笑すると、安堵するのであった。
しばらくするとタウロの部屋にエアリス、ラグーネ、シオンが合流してきた。
そこではみんなが気になった事は同じだったようで、ベッドの大きさやトイレについてなど、小人族サイズが可愛いという話が尽きないのであった。
翌日の朝、出された小人サイズの食事を摂ると、全員が合流し、イッスン派のリーダーであるホーシとの面会をする事になる。
「初めまして、私はイッスン派のトップでホーシと言いましゅ。みなさんの事は官吏から報告を受けておりましゅ。エルフ族自治区の代表に、旧ルネスク伯爵領の新領主殿、さらには竜人族に獣人族が一緒に訪れる事など初めての事なので感慨深いのでしゅ」
ホーシは黒い長髪を後ろで縛り、黒い目の小人族であったが、その小さい見た目と話し声に反して物腰は戦士のそれでどっしりとしており、大きく見せる威圧感がある。
「急に訪問して申し訳ありません。普通なら使者を立て事前に来訪を知らせるのが礼儀だとは思うのですが、それでは会うどころか検問所も通過できるか怪しいので直接訪れさせてもらいました」
タウロは失礼をお詫びする。
「いえ、我がイッスン派は以前から人族との接触を試みてたでしゅが、南の旧ルネスク領との領境は慎重なドージ派の勢力なので通過が難しくこちらからの接触は難しかったのでありがたいでしゅ。よくぞ来てくれたのでしゅ!」
ホーシはそう言うとタウロの訪問を歓迎してくれた。
「僕達もエルフ自治区側からでないと小人族のみなさんとは接触が難しいと聞いていましたからお互い仕方がない事だったみたいですね。──それでですが……、人族代表として小人族自治区とは交流再開をお願いしたいのですがどうでしょう?」
タウロはそう言うと、今度はエルフ自治区の使者アグラリエル女史に話すのを譲る。
「我がエルフ自治区もタウロ様と同じく小人族との交流再開を望んでいます」
と、アグラリエル女史が短く用件を伝えた。
「もちろん、イッスン派はその申し出について大歓迎でしゅ! ただ、お二人がこうしてイッスン派へ優先して接触を試みたように、他の二派は人族に対してあまり心証は良くないでしゅ。特に北のチービン派は人族への不信感から徹底抗戦を主張しているくらいでしゅから……。まずは、南のドージ派を説得する事が先決でしゅね。ただ、このドージ派は慎重を謳っていましゅが、考えている事は力を付けて人族と対等に渡り合おうという事なのでこちらも気を付けた方がいいでしゅ」
ホーシはそう言うと、タウロに注意喚起を行った。
そして続ける。
「それに、小人族は昔の件があって人族に対しては元々警戒心が強いでしゅから、その辺りも気を付ける事をお勧めするでしゅ」
「昔の件?」
タウロは気になって聞き返した。
すると、アグラリエル女史が、代弁してくれた。
「何百年も前の話ですが、小人族は人族の貴族の間でペット扱いされていたのですよ。その為、当時は小人族の売買がなされていました。ですが、今の王家がこれを禁止し、現在の自治区を作った経緯があります。と言っても、数年前までは両者の関係もかなり改善されていたんですが、前領主ルネスク伯爵がその嫌悪すべき過去の歴史を持ち出し、小人族を差別したので、それが原因で小人族はその過去の歴史を再認識する事になり、人族への警戒心を高め、自治区から出るのを極端に嫌っているのです」
「エルフの使者のご指摘通りでしゅ。イッスン派はそれでも、過去の歴史ではなく現在の人族の関係を大事にしようと訴えているでしゅ」
ホーシは前領主ルネスク伯爵が爵位を剥奪された事で人族の関係を元に戻そうと訴えていた。
「僕は過去の歴史を詳しく知りませんが、差別をする気はありません。それは僕の後ろにいる仲間達を見てもらえればわかり易いと思います」
タウロはそう言うと、エアリス、ラグーネ、シオン、ぺら、セトと人から人形までいる仲間を誇るのであった。
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