第651話 小人族自治区
小人族は成人した大人でも大きくて一メートルほどで、平均は八十~九十センチくらいだろうか?
つまり人間の約二分の一サイズが小人族の大きさであり、それは検問所を通り過ぎて中に入った自治区内でも色々と確認する事が出来た。
それは街道も通常の半分の大きさで、そこを通る馬車も半分のサイズだったし、通り過ぎる家もやはり小さい。
ちなみに馬車を引いているのは、小さい馬であるポニーで、それが小人族自治区での標準サイズで常識のようだ。
だから、街道を疾駆する狼型
なにしろガロは体長四メートルほどだから当然だろう。
ガロで疾駆して通り過ぎる際に小人族自治区の生活スタイルを見る限り、独自の文化を築いており、それらは全て本当にミニサイズであった。
住んでいる人も小さくしただけであり、家と小人を見る限りだと、何の変化も感じないのだが近づいていくと全体的に小さいものだから視覚的に頭が混乱しそうになる。
「うふふっ。なんだか小人族自治区は全体的に可愛いわね」
通過する村などを見て、エアリスがのどかな雰囲気に和んでそう感想を漏らす。
「小人族に対して可愛いは禁句なので、気を付けてくだしゃい」
道案内役の責任者小人が注意喚起した。
「そうなんですか?」
シオンもエアリスと同じ事を考えていたのだろう、聞き返す。
「はい。私達は血の気が多く、勇ましい事を誇りにしている者が多いのでしゅ。だから可愛いと言われると、軽んじられたと思って怒る者が多いのでしゅ!」
小人責任者は至極真面目にそう答える。
「そうなのね、ごめんなさい。これから気を付けるわ」
エアリスは素直に謝罪した。
「お願いしましゅ。──あ、そこは真ん中の道を進むのでしゅ」
小人責任者はエアリスに頷くと、タウロに三叉路の真ん中の道を指差さすのであった。
タウロ一行を乗せたガロは、半日もかからず、イッスン派勢力の拠点の街ハーリに到着した。
街は人間の街のように高い防壁に囲まれ、警備は厳重そうだ。
ただし、内部は全体的にやはり小人サイズで一番広いメインの大通りでさえ人族サイズの馬車同士が通れる程度である。
それはつまり、メイン以外の通りに大きな馬車で入ろうものなら、瞬く間に対向馬車と道を塞ぐことになり、地元住民に迷惑をかける事になるという事だ。
ガロはその点、ポニーが引く馬車より細いから、迷惑にはならなそうである。
しかし、大きな事に変わりはなく、地元の小人族の目を引くのは確かであった。
実際、ガロは注目を集めていたし、なによりそれに跨っているタウロ達も珍しい人族だからじろじろと見られていた。
「お母しゃん、大きい人でしゅ!」
「あらホントだわ! あれは人族かしら?」
「人族を見るのは数年ぶりでしゅ!」
小人族はタウロ達に対して珍獣を見るような視線を送ってきた。
「改めて立場が変わると僕達も見られる立場になるんだね……」
タウロは苦笑した。
「このまま、大通りを進んで城館前までお願いしましゅ。当主のホーシ様はイッスン派の長としてエルフ族や人族との交流再開を推進されている方なので、すぐに会ってくれると思いましゅ」
小人責任者はそう言うと、城館を指差した。
同行しているエルフのアグラリエル女史もそれを聞いてちょっとホッとした表情をする。
彼女は彼女でエルフ族の代表としての責任があったし、自治区の救世主であるタウロ達一行を無事小人族の代表に引き合わせる為に尽力する義務があったから、それらの責務を全うできそうであった。
城門前では、大きなガロとそこに搭乗するタウロ達に対して小人達は大いに警戒し、装備を固めた小人族の兵士がわらわらと出てくる事態になった。
「待つでしゅ! 私はエルフ自治区方面検問所の責任者でしゅ! ホーシ様にエルフ族、人族の使者とのお目通りをお願いするのでしゅ!」
小人責任者がガロから飛び降りて、小人兵士達の前に立ちはだかる。
「エルフ族と人族の代表!? わかったでしゅ! これは大変でしゅ!」
小人兵士の一人が、同族の仲裁を聞いて驚くと城館に走って知らせに行く。
その間、兵士達は念の為に警戒を続けて、タウロ達を囲む。
「人族はもっと大きいと思ったでしゅが、そうでもないでしゅか?」
若い小人兵士の一人が、子供の頃見た覚えがある人間と比べ、小さめであるタウロやエアリス、シオンを見て素朴な疑問を口にする。
セトは子供型自律思考人形、ラグーネは竜人族だし、アグラリエル女史はエルフだから、比較対象外だと考えての事であった。
「僕はまだ、成人前の上に身長は小さい方。こちらのエアリスは女性として平均かな? シオンも女の子でまだ、成長期だから低い方です」
タウロは真面目に応対した。
自分も小人族の事を詳しく知らないから、質問攻めにしたいくらいであり、それを考えると相手も同じ気持ちだろうと思ったからだ。
アンクを連れて来てたら、説明しやすかったなぁ。
タウロはそう考えると内心苦笑していた。
「成人前でこんなに大きいでしゅか!? うちの成人前の子供はこんなに小さいでしゅよ!?」
小人兵士はそう言うと、自分の背丈の肩より低めに手を当てて応じた。
その高さは六十センチ弱だろうか?
確かに小さい。
それはそれで可愛いのだろうなと思いながらも、小人族の子供も可愛いと言われたら侮辱と取られるのかわからないから、そうは言えないタウロであった。
しばらく小人兵士達の興味本位の質問に応じていると、城館から小人官吏がやってきた。
「使者の方々、今日はスケジュールを空けられないので、明朝、ホーシ様が直々に会われるそうでしゅ。今日は、城館の方に部屋を用意しましゅので、そちらにご案内しましゅ」
官吏はタウロ達大きな種族を見上げながら、案内する為に付いてくるように促した。
「それでは私の仕事は終わったでしゅね。お二人に良い結果が訪れるのを祈っているでしゅ」
ここまで、案内した小人責任者は満足げにタウロ達に告げた。
「ここまで来たら、帰りまで一緒にいましょう」
タウロは親切な道案内であった小人責任者を呼び止めると、もう一部屋小人官吏にお願いし、一緒に城館に泊まる事にするのであった。
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