第650話 小人族自治区へ
タウロ達一行は、翌日には鉱山の視察をした。
鉱山はまだ始動して日が浅い。
それに当初の目的であるオリハルコンもまだ見つかっていない。
しかし、鉱山長に任命したドワーフ自治区の円卓会議議長のガスラ、アンガス、ランガスの姉兄を持つローガスがかなり優秀で、他の鉱石類を早くもいくつか発見してくれていたから当分大きな赤字が続くだろうという予想は覆してくれた。
「まぁ、あるかどうかわからないオリハルコンについては気長に待ってくれ。そもそも、オリハルコンなんて幻の鉱石だぞ? そんなものそう簡単に見つかるわけがないわな! わははっ!」
とローガスは笑ってタウロの背中をバシバシ叩くのであった。
その視察後、数日の間城館で休養を取ってから、小人族自治区に向けて旅立つ事にした。
その日は、アンクと犬人族のロビン、エルフのグラスローが朝一番に見送る。
タウロ、エアリス、ラグーネ、シオン、セトは狼型
ガロはそんな仲間を乗せたまま、いつもの如く風を切るように街道を疾駆して目的地を目指すのであった。
小人族自治区は領都シュガーから西にガロの足で半日も向かうとすぐである。
馬車だと丸一日というところだろうか?
だが、しかし、直接の領境の検問所は、人族との交流は断ち、今は自治区内で力を蓄えるべきと主張している慎重なドージ派勢力が取り仕切っているらしいから、直接向かっても入領できない。
そういう事で、一行は一度領内を南進し、そこからエルフ自治区をまた訪れ、そこから領境を接している小人族自治区の西側から入領する予定だ。
西側の小人族の検問所は、人族との交流を続けるべきと主張しているイッスン派の勢力が仕切っているからである。
タウロ達はエルフ自治区への再訪問ですぐに歓迎されたが、理由を説明すると、エルフ自治区側もすぐに協力してくれる事になった。
それは、小人族自治区との検問所の解放である。
エルフ自治区は現在、タウロのジーロシュガー子爵領以外の検問所は封鎖したままになっていたからだ。
もちろん、エルフ長老会議は、ジーロシュガー領との交流再開に伴い、他の自治領との交流再開も目指しているのだが、それは人族との交流再開もセットで推し進めていたから、それは少し時間がかかるかもしれない。
しかし、他の自治区にしてみるとエルフ自治区とだけはあまりしこりがないから、交流再開にもあまり抵抗はないだろう。
しかし、人族もとなると事情が変わって来る。
そういう意味ではエルフ自治区も大変な選択をしたと思えるのだが、タウロに恩義を感じているエルフ自治区はこの後、驚くべき行動力で他の自治区との交流再開を果たしていくのだが、それはまた、あとの話である。
とにかく、長老会議はタウロ一行が小人族自治区との交流再開を目指していると聞いて、議員の一人を同行させてくれる事になった。
「それでは、よろしくお願いいたします」
エルフ長老会議の議員である金髪三つ編みの女性エルフ、アグラリエル女史がタウロ達に恭しく頭を下げた。
現在の代表であるフィリオン曰く、
「次の代表は彼女の予定です」
と評価するくらいだから、そんな人物を同行させる事がタウロに対して如何に期待しているかの表れだろう。
それに、小人族自治区との交流再開も出来れば、御の字と言ったところか?
どちらにせよ、アグラリエル女史はかなりの重責を持ってタウロ達に同行するようであったから、その表情は真剣そのものだ。
こうしてタウロ一行は森林の街で許可を取り、アグラリエル女史を伴って小人族自治区との領境まで向かうのであった。
大森林地帯を突っ切って到着した小人族自治区側の検問所は意外に普通の大きさであった。
「話に聞いていたより、全然小人サイズではないよね?」
タウロはちゃんと馬車が通れるくらいの大きさの検問所に安心する。
「うふふ、ジーロシュガー様。検問所はその自治区の玄関です。彼らが小人とはいえ、領境を接する自治区の検問所と自分達の検問所を同じ大きさにする事で、対等である事を示す意図がありますから」
アグラリエル女史はガロに跨って近づく小人自治区の検問所の大きさについて説明した。
話している間に検問所は近づいているのだが、門番が小人族なので検問所自体が大きく見えて、遠近感が中々、バグって感じる。
「なるほど……。──それにしても本当に小人族は小さいね……。大人の腰辺りくらいまでしかないんじゃない?」
タウロは初めて見る小人族の大きさに感心してエアリス達に声を掛けた。
タウロの指摘の通り、門番を務める小人族は大人をそのまま小さくしたサイズ感で立っていた。
鎧などの装備も当然小さいが、手にする武器は意外に大きく見えた。
槍は人族が使う大きさとほとんど変わらない。
当然持ち手は握れる大きさに合わせて削ってあるようだったが、それ以外は変わらない。
きっとそれくらい小さい体から想像できない程の力を持っているという事だろう。
「それでは私が、交渉してまいります」
エルフの同行者アグラリエル女史がガロから降りると、検問所に一人で向かう。
小人族の門番は、エルフがやって来たので驚いていたが、それに加えてその後ろには人族がいたのでさらに困惑気味に見える。
アグラリエル女史がその門番の小人族と少し話していると、門番の一人が小人用の小さい戸口から責任者に報告する為に奥に引っ込んだ。
しばらくすると、防壁の上から小人族が数人こちらを覗き見て指差している。
どうやら彼らも交流を断絶していたエルフ族と人族が一緒にいる事、その両者がこちらに接触を望んでいる事に大いに困惑している様子だ。
さらに五分ほど待たされていたが、責任者の小人が何か意を決したのか、下に降りて来てアグラリエル女史と話し始める。
そして、
「ジーロシュガー様、人族代表である事を証明する何かを提示して欲しいと、こちらの責任者の方がおっしゃっています」
とアグラリエル女史が少し離れて待っていたタウロに声を掛けた。
「はい!」
意外に早く通れそうだとわかって彼らの下に駆け寄ると、タウロは初めて出会う小人族にどう接して良いのかわからないから、せめて目線を同じにしようと膝を突く。
そして、
「僕は隣領である人族の代表ジーロシュガー子爵です。こちらが小人族代表宛ての各書状と爵位を証明する記章、そして王家の紋章入り小剣です」
といつもの通り提示する。
「ご、ご丁寧にどうもでしゅ!」
小人族の責任者はこちらに目線を合わせてくれる人族に会うのが初めてなのか、タウロの行為にびっくりしていたが、渡されたものを鑑定すると一つ頷き、
「本物と確認しましたでしゅ。現在、我が小人族自治区は三勢力に分かれており、私とこの検問所はイッスン派に所属しておりましゅので、その代表であるホーシ様になら会えるように案内出来ましゅが、それでよろしいでしゅか?」
責任者の小人族は誠意ある態度のタウロに丁寧に応じた。
「わかりました。それではホーシ殿に面会をお願いします」
タウロはお辞儀する。
小人責任者は余程タウロを好意的に受け取ったのか、
「案内は私がしましゅ。──あの大きな乗り物には私も乗れましゅか?」
小人責任者はガロを指差して確認する。
「ええ、もちろんです。それでは道案内よろしくお願いします」
タウロはアグラリエル女史と笑顔で視線を交わして、小人責任者に応じると、エアリス達が跨るガロを呼び、一緒に騎乗するのであった。
─────────────────────────────────────
あとがき
ここまで読んで頂きありがとうございます。
またまたですが、現在カクコン9開催中という事で、12月15日からまた新作を投稿しています。
タイトルは、
「竜の守人と最強幼女のスローライフ~追放された先で最強保護者になったみたいです~(仮)」
https://kakuyomu.jp/works/16817139556209382090
です。
内容はタイトル通りの感じとなっています。
初めてスローライフ?的な作品に挑戦しているので、生暖かい……、いや、暖かい目で、見守って頂けると幸いです。
★レビュー、❤いいね、フォローなどしてもらえたら作者が大喜びしますのでよろしくお願いします。
それでは引き続き、作品をお楽しみください(。・ω・)ノ゙♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます