第649話 集合

 タウロ、エアリス、そして、途中、二人と遭遇したアンクは、城館に帰ってきた。


 その城館の庭には、見た事があるシルエットが並んでいる。


 それは岩人形ゴーレムの『ロックシリーズ』九体に、それを率いる子供型自律思考人形のセトであった。


 鉱山の街道整備や集落作りなどが一通り終わったから戻ってきたのだろう。


 一体『ロック』シリーズが足りないのは、ドワーフの集落の警備にでも置いて来たのだろう。


「あ、セトお帰り!」


 タウロがこの人形の仲間に歩み寄る。


 それ以上の速さでエアリスがセトに近づくとセトを抱きしめた。


 エアリスはセトがお気に入りなのだ。


 そこに、ラグーネとシオンも城館から出てきた。


「みんな揃っているではないか」


「あ、セト、お帰り! アンクさんも戻ってたんですね!」


 ラグーネとシオンがそれぞれ仲間が勢ぞろいにした事に笑顔で迎える。


 それで一行は、次はどこに向かうのかを話し合う事にした。


 セトは長い事、鉱山方面にいたのでそろそろタウロに付いて行きたいだろう。


「俺は今度もパスだな」


 アンクが意外にも自ら同行を拒否した。


「ドワーフのボーゼさんだけではまだ、駄目って事?」


 アンクが隊長の一人に任命しようとしているボーゼの名を口にした。


「ボーゼは北部の鉱山方面を任せるのが一番だろうからな。そうなるとこの領都や郊外、他の地域にも隊長が必要だろう? 俺としては領都に総隊長を据えて、各地域にも隊長を置き、治安維持に努めるのが良いと思うんだ。なにしろこのジーロシュガー領は元々伯爵領。無駄に広くていろんなところと領境を接しているしな」


 アンクは指折り数えながら、領主であるタウロに説明する。


「アンクがそう言うなら、そうするしかないかぁ……。──それで候補はいるんだよね?」


 タウロは先程、それらしい事をアンクが言っていたので、聞き返す。


「ああ。若いのが二人ほどいるんだが、そいつら、領民を守る為に強くなりたいと熱くてな。見込みがあるぜ」


「じゃあ、わかった。隊長候補についてはドワーフのボーゼさんの例もあるし、アンクが育てている若者や外からの候補も踏まえて検討する事にしよう。領内の治安維持は一番大事な事だからね。あとは引き続き街道の整備なんかだけど……、セト。雇った領民と『ロック』シリーズ四体ほどでエルフ自治領や小人族自治領までの街道整備を引き続きやらせる事は可能かな?」


 セトは強く頷くと両手で丸を作る。


「それじゃあ、お願いね」


 タウロはこの自分の分身のような存在になっているセトに全幅の信頼を寄せているから頼もし気に頷いた。


「領主代理であるロビンさんにはエルフのグラスローさんを助手に付けているから領内の運営は大丈夫として、今度は私達どこにいくの? 他に隣接している自治区は蜥蜴人自治区や小人族自治区が大きいわけだけど?」


 エアリスが具体的な名を出してタウロの判断を促す。


「次は小人族自治区かなぁ……。今、そこは三勢力に分かれて争っているんでしょ? それなら仲裁に入って解決出来たらスムーズに交流再開までいけそうじゃない?」


 タウロが頭の中にあったざっくりとした案を口にした。


「小人族自治区か。領兵の育成中にそれらしい情報はいくつか聞いているぜ。なんでも三勢力に分かれて争うきっかけとなった原因が、先代の伯爵の差別政策らしい。小人族自治区の領境に近い村出身の領兵がそんな話を教えてくれたよ」


 アンクが領内の情報を色々と収集しているのか話し始めた。


「小人族は現在、人族との交流を続けるべきと主張している自治区西部に勢力を持つイッスン派。今の人族と交流は持てないと判断し、もしもに備えて力を蓄えるべきと慎重論を唱えるこちらと領境を接している南東部に勢力を持つドージ派。人族とは決別して徹底抗戦を唱える北部に勢力を持つ過激なチービン派に分かれているらしい。だから交渉するならイッスン派がいいんだが、この西部のイッスン派勢力地は、うちとは境を接していないから、接触が難しい。だが、その西部と領境を接しているのが……、エルフ自治区だ」


 アンクは地面に枝で簡単な地図を書くと、そう説明した。


「……なるほど。他との交流再開を始めたばかりのエルフ自治区からなら、小人族自治区に入る事は可能かもしれないね! 良い情報だよ、ありがとう、アンク!」


 タウロは良い情報をもらえたと、アンクに感謝する。


「だが気を付けろよ? 小人族は元々好戦的な種族らしいから、揉めるとすぐ喧嘩になるらしいからな。小人族は文字通り体が小さいが勇気と腕っぷしに誇りを持っているから、その辺りは用心して上手く立ち回った方がいいぞ」


 アンクは部下の領兵達から聞いた情報を基にタウロに忠告をした。


「うん。慎重に事を運ぶよ! ──それじゃあ、行くメンバーはどうしようか?」


「私はいつも通りタウロと一緒に行くわよ?」


 エアリスが挙手して立候補する。


「私も当然タウロを守る為にも行くぞ」


 とラグーネ。


「ボクももちろん、タウロ様に付いて行きます!」


 とシオン。


 ぺらはタウロの肩の上でぴょんぴょん跳ねている。どうやらそれが行くというアピールなのだろう。


 セトも挙手し、ガロも「がう!」と、ひと鳴きしてアピールする。


「じゃあ、このメンバーで行くとして……。あ、そうだった、セトに新しい装備を渡さないと!」


 タウロはそう言うと、エルフ自治区、ダンジョンもどきの地で討伐したトロール皇帝の装備していた魔剣をマジック収納から出すと、手渡した。


「ちょっと、タウロ。その魔剣、禍々しいオーラが出ているんだけど……?」


 エアリスがちょっとセトの事が心配になって指摘した。


「この魔剣の名は『黒闇』。闇属性で攻撃力、防御力増加、相手に暗闇を付与する厄介な剣だよ。半面、装備者のステータスに弱体化が入るのだけど、セトは人形ゴーレムだから問題ないはずだよ」


 タウロはセトには状態異常系が全く通じないのを理解した上で渡したのだ。


 セトは魔剣を握ると、軽く一振りして頷いた。


 どうやら気に入ったようだ。


「他にもトロール皇帝の装備品で皇帝服、王笏や冠があるのだけど、これはどうしようか?」


 タウロはそう言うと、みんなを見渡し、欲しい人がいるか確認する。


「「「……」」」


 エアリス達は目を逸らす。それが答えだろう。


「魔物とはいえ、皇帝の装飾品だから夢ありそうなのになぁ」


 タウロは一同の冷たい反応に苦笑すると、マジック収納に戻すのであった。

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