第646話 エルフ自治区との交流再開

 休憩を挟んでからのエルフ長老会議の面々によるタウロ達の扱いは一転した。


 それは、タウロが竜人族であるラグーネを連れている事、エルフの天敵であるトロール討伐をしてくれたどころか、厄災とも呼ばれる伝説級の魔物、トロール皇帝討伐までもしてみせた事は、エルフにとってそれは相手が人間であろうともそれは立派な英雄的行為であり、これを無下に扱う事は許されないだろう、と休憩時間の間に意見が一致したのだ。


 エルフ長老会議の代表を務めるフィリオンもそれに同意すると、休憩前とは全く違った対応をしてくれる事になった。


「……手の平くるっくるだなぁ……」


 タウロは見事な手の平返しに苦笑してそうつぶやくところであったが、エルフは自尊心が強く種族としての誇りを強く持っており、意見を早々に変える事はないので、これは変わり者らしいフィリオン代表の最終的な判断で即決したのかもしれない。


「先程は失礼しました……。──我々長老会議の者達は全員がそれこそ数百年を生きてきており、あらゆる経験、知識を積み重ねてきております。その中で、タウロ殿一行の英雄的行動は古の盟友である竜人族以来の事であり、人間かどうかなど些末な事であると判断しました。過去の諍いはありますが、タウロ殿ならそれを払拭する人物だと考えます。あなたが求められている交流の再開は、前向きに検討いたしましょう」


 フィリオン代表はそう言うと、タウロに握手を求める。


 タウロは何でも時間がかかるというエルフの早い判断にホッとすると握手を交わすのであった。



 こうして、エルフ自治区との交渉が始まった。


 お互い、トップ同士という事で、意外に話は早く進んだ。


 人間というだけで敵意を向けられていたとは思えない程、非常に好意的にタウロ側の条件にも理解を示してくれたし、交易所を再開した事についても協力的な姿勢を見せてくれた。


 ただし、彼らはエルフである。


 交流再開と交易所再開がどちらともドワーフ自治区が最初だったと聞いて、少し、嫌な顔をした。


 というのもエルフとドワーフの不仲は有名であるからだ。


「むう……。ドワーフ自治区に一番を取られましたか……」


 フィリオン代表は子供がすねるように、少し悔しそうである。


「あははっ……。これからはエルフもドワーフも種族関係なく仲良くして頂けたら嬉しいです。彼らは悪い種族ではないですし、お互い歩み寄れると思うんです」


「お気を遣わせましたな、申し訳ない。──ドワーフ族とはなんと言いますか……、競争相手というか好敵手というか価値観の違いからそりが合わないだけで、敵視はしていないのでご安心を。それに我々はこの数年間、全ての種族と関りを断っていましたから、その交流再開の最初の相手が、嫌いだった人族とライバルのドワーフというのが、皮肉なものだなと思った次第です」


 フィリオン代表はそう言い訳して苦笑する。


 なるほど、他の種族ならばまだしも、対極的な人族とドワーフ族と最初に交流再開する事の皮肉さに自戒を込めて嫌な顔をしたのか。


 タウロはそれを理解して、一緒に苦笑した。


「ですが、それはエルフ族がこれからどの種族とも交流を再開するという表れになるかと思いますよ。毛嫌いしている人族やライバルのドワーフ族と最初に交流を再開するならうちとも大丈夫だろう、と。まあ、あまりの心境の変化に他の種族が驚くだろう事も想像が付きますが」


 タウロはそう言うと今度はおかしさに笑う。


「そうですな。他の種族には驚かせておきましょう。それに、タウロ殿はエルフ自治区を救った英雄だ。もし、交流再開の為に訪れてくれていなかったら、今頃はトロール皇帝の軍団にこの森林の街も襲われていただろう事は容易に想像できますから。そんな救国の英雄相手に、交流を渋る事などできません。我々エルフ自治区は全面的にタウロ殿を支持しますし、交易に関してもそちらの望む形を最大限譲歩する所存です」


 フィリオン代表はこちらの想像する以上に、タウロ一行に対して、恩を感じているのか、最上級の返事をくれた。


「はははっ! さすがに交易に関してはお互いwinwinの関係になれる形でお願いします。そうじゃないと、歪な関係になりそうですから」


 タウロはフィリオンの言葉に少し修正を入れる形で交渉をして、わずか二日という交渉期間で交流と、交易に関する条約を結ぶ事になった。


 なにしろフィリオン代表が、タウロの求める内容に全てイエスと答えるのだから交渉もすぐだったのだ。


 さすがにこれにはタウロも心配になってこちらから求めれてもいない譲歩をしたりして話を進めたが、フィリオン代表以下、長老会議のメンバーも反対しないし、なによりタウロのこの譲歩には、


「さすが、人族の英雄だ。救った相手への慈悲が素晴らしい……!」


 と、完全にイエスマンと化していた。


「……ちょっと心配だけど、対等な条約結べているから問題ないよね?」


 タウロはエアリス達に振り返って確認を取りつつ、円満にエルフ自治区との交流再開が行われる事になるのであった。



「もう、お帰りになられるのは寂しいですな……」


 フィリオン代表が城門まで見送りに来るという最大限のもてなしをする事で、他の人嫌いなエルフの不満も完全に抑え込む形になった。


 それに、この数日の間でエルフの人間に対する悪感情はかなり変化している。


 なにしろタウロがエルフ自治区の為に、トロール皇帝討伐した事、それに竜人族がそれを支持している事、それによって自分達が命を救われた事など余程不義理な者以外は恩を感じずにはいられなかったからだ。


 そしてタウロ一行はすでにエルフ自治区を救った英雄として、広場に像の建立が決定しているくらいだったので、帰国の際はタウロ一行に対してエルフ達は驚くほど好意的に見送るのであった。

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