第645話 長老会議との面会

 エルフ長老会議は二十人からの長老達と長老会議代表から構成されている。


 長生きな分、過去の歴史にも詳しく、実際に体験している事も多いのが長命のエルフだから、長老会議に列席している者は数百年を生きているのが当然という選考メンバーであった。


 その長老達をまとめるのが、エルフ自治区全体の長でもあるフィリオンだ。


 タウロ達が通された議会室には大きな長方形の長机が中央に鎮座しており、一番奥に金色の長髪に緑の瞳、一見するととても若く見える長老の代表であるフィリオンが座っている。


 タウロ達は手前の下座の席に座る事になった。


「よくぞお出でになられた、古の盟友、竜人族の者よ。私は長老会議の代表を務めるフィリオンと申します。──人族が同行している事には多少不快な思いもあるが、同胞であるグラスローという若いエルフが必死に面会を求めてきたのでその熱意に押される形で約束をする事になった。その、約束を果たしたと知らせを受けている。竜人族の古の盟友よ、それは本当ですかな?」


 フィリオン代表は席に座っているタウロではなく、その後ろで立っているラグーネに確認を取った。


「エルフ自治区の代表よ。先程から我らのリーダーであるタウロ・ジーロシュガーに対して失礼が過ぎるぞ。私はタウロの仲間の一人としてこの場に来ている。確認をしたいのなら、タウロ本人に聞くのが正道であろう!」


 ラグーネは人間嫌いの態度を不快に感じたのか、はっきりと指摘した。


「……失礼した。しかし、古の盟友よ。我々には人間と話す理由がない。──ただ、秘書官の報告ではあなた方がトロール大量発生の原因の元を滅したという。しかし、その内容があまりに荒唐無稽過ぎて信じられるものではない。その元がダンジョンもどきで、そこにはトロール大将軍やトロール皇帝が出現したとか……、ましてやそれを討伐したなど信じるにはあまりにも……」


 フィリオン代表はそう言うと、眉をひそめる。


 確かにトロール大将軍はA-クラス、トロール皇帝はSクラスの討伐対象だ。


 A-クラスについては、総力戦で討伐したと聞いたら、まだ信じられるが、Sクラスは出現するだけでも疑わしい上にそれを討伐したとなるとそれは竜人族のような伝説級の強さという事になる。


 それが目の前の子供をリーダーとする若い人間の冒険者チームとなると、長い事生きて色々な人間を見てきているフィリオンでも信じられない。


 過去には勇者一行も見てきているが、正直、人間の勇者でもSクラスには手をこまねいて竜人族に助けられるのがオチであった。


 信じられると言ったら、この竜人族の女性戦士ラグーネが活躍して討伐したという事になるのだろうが、報告ではそうでもないらしい。


 目撃したという門番エルフの証言では、この子供リーダーと人族が中心になって活躍していたというから、理解に苦しんでいた。


「……フィリオン代表。今ここで言葉を並べ立てても理解を得るのは難しいでしょうから、論より証拠、討伐したトロール大将軍、トロール皇帝の死骸をお見せした方が早いでしょう」


 タウロはそう言うと、マジック収納から大きな敷き革を出して、大きな机の上に広げた。


 そして、


「ここに一体ずつ出してもいいですか?」


 と確認する。


「……いいだろう。長老の中には鑑定スキル持ちの者が多い。私もその一人だ。うまく偽装していても以前のように騙されはしないですぞ?」


 フィリオン代表はどうやら、以前、人間に騙された事があるらしい。


 それも人間嫌いの理由の一つかもしれない。


「それでは、トロール大将軍のものから」


 タウロはそう言うと、マジック収納からトロール大将軍の死骸を机の上に出した。


「こ、これは! 確かにこれはトロール大将軍です」


「待て待て……。偽装処理されていないか『分析』を行うのだ……。むむっ……、これは本物かもしれない……」


「確かにこれは本物かと……」


 長老会議の議員達は自分の鑑定を駆使して目の前のトロール大将軍の遺骸を分析して偽者ではない事を確認した。


「それでは、一旦、こちらは収納して……。次はトロール皇帝の方を──」


 タウロはそう言うと、マジック収納に大将軍を収め、皇帝を出した。


「「「!」」」


 議員達はその死骸に戦慄して言葉が一瞬出なかった。


 トロール皇帝の死骸はその戦闘の跡が生々しかったし、その大きくて異様な姿にエルフの最大の天敵に対する本能的な恐怖を感じたのだ。


「こ、これは……」


 フィリオン代表が、ようやく絞り出すように一言そう漏らすが、それ以上言葉が続かない。


 それほどのショックだったのだ。


 それはもちろん、本物であるという事と、それがエルフ自治区のダンジョンもどきに現れたという事実に衝撃が強すぎた。


 皇帝は厄災と呼ばれるレベルであり、それがエルフの天敵であるトロール系となれば、エルフ自治区存亡の危機であったという事である。


 それが目の前に死骸とはいえ存在する事はエルフにとって寒気を催して恐怖するしかない。


 しばらくの間、長老会議の議員達は、顔を青ざめさせて天敵の死骸を見つめていたが、


「確認できたなら戻しますね」


 とタウロが気を利かせて提案した。


「あ、ああ……」


 フィリオンはその言葉に現実に引き戻されて応じた。


 マジック収納にトロール皇帝の死骸を戻し、机の上に敷いていた敷き革も戻すとタウロは改めて口を開いた。


「御覧の通り、僕達はエルフ自治区の脅威となるであろう魔物を討伐してきました。うちのグラスローとの約束通り、お話を聞いて頂けますか?」


「わ、わかった……。ただ、あまりの驚きに我々も休憩が欲しい。それからでよろしいかな?」


 フィリオンはそうタウロにお願いすると、換気の為に議会室の窓を開けさせるのであった。

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