第644話 討伐での凱旋
タウロは狼型
帰りはガロの背中に乗ってダンジョンもどきから脱出だったから、意外に早く地上まで上がれた。
その移動の間、門番エルフはタウロ一行を絶賛していた。
「まさか厄災の一つに挙げられるトロール皇帝を、被害も最小限に討伐されるとは、ジーロシュガー様一行は英雄以外の何物でもないです! 私はエルフ自治区を救ったみなさんを目撃した生き証人として後世に語り継ぐ使命を今帯びました。これからは門番は辞め、みなさんの英雄譚を語っていく事にしますよ!」
ずっと、このような調子で、語っていた。
「いえ、正直、戦い自体は僅差だったと思いますよ。ガロやアダムとイブがいなかったらうちの誰かが死んでいたかもしれません。それにうちの攻撃の要であるアンクがいなかったのもかなり危険でした。今回はガロ達の防御無視攻撃『衝撃波』と物理防御の高さがあったので、多少強引な戦いに持ち込みましたが、それでもこちらに被害が出たのはやはり、Sランク帯討伐対象だったという事だと思います」
タウロはダンジョン産の謎物質で作ったガロ達がそう簡単に損傷するとは考えていなかったのだ。
しかし、トロール皇帝はそれが可能だった。
タウロは、アンクの強力な物理攻撃力がないので、ガロ達を攻撃と防御の両面で利用したが、それもトロール皇帝の魔剣やその能力でダメージを受けた。
あれが、ラグーネやシオンだったらと思うとぞっとする。
そしてなにより、『衝撃波』を至近距離から二発も食らって動けるのが異常なのだ。
それにタウロの小剣により脳天を串刺しにしたのに動けたのだから、生命力も尋常ではなかった。
あの時、エアリスがいつものチームワークで『雷針撃』の追加攻撃を行っていなければ、反撃のチャンスを与えていたかもしれない。
戦闘は相手に本来の力を発揮させる事なく畳みかける事が利口な戦い方なのだが、幸いその通りに事が進んだので、トロール皇帝はあの感じだと実力をほとんど発揮できずに死んだと考えるべきだろう。
それは、ガロ達の存在のお陰で手数が増えた事で、隙なく最後まで畳みかける事ができたのが良い結果に繋がったと思うタウロであった。
森林の街に戻ったタウロ一行は、別行動をしていたエルフの部下であるグラスローに北門で出迎えられた。
タウロ一行の英雄ぶりを目撃した門番エルフはすぐに他のエルフにタウロ一行の活躍を伝えると、すぐにエルフ長老会議への下にも伝令を走らせる。
「お帰りなさいませ、タウロ様。こちらの首尾は上々です。エルフ長老会議にはトロールの大量発生問題を万が一にも解決出来たなら、交渉に応じる用意があるという言葉を引き出せました。──その表情だと無事解決されたのですね?」
グラスローは主人であるタウロの表情から何か察して安堵する表情を見せた。
「ご苦労様、グラスローさん。ちょっと想定外の敵がいたけどこちらもなんとか問題を解決できた感じです」
タウロは北門前という事で、詳しい事を説明しなかったが、同行した門番エルフがタウロ様一行はダンジョンもどきに発生したあの伝説級の魔物トロール皇帝を討伐した英雄だぞ! と、声高らかに宣伝したのでその必要もないのであった。
「……なんと、トロール皇帝を討伐なされたのですか!? 皇帝を冠する魔物は揃ってこの世界では厄災級と言われています。それはつまり伝説を意味するSクラス。その中でもトロール皇帝はこのエルフ自治区において絶望的な程最悪の魔物です。それこそ、竜人族に助けを求めなければいけない程に……。それを討伐されるとは……、──私はとんでもない方にお仕えする事になったみたいですね。はははっ……」
グラスローはタウロが仕えるに十分な主君だとはわかっているつもりであったが、想像を越える活躍をした事を知り、笑うしかなかった。
「今回は運が良かったです」
タウロは笑ってグラスローに応じると、グラスローをガロに乗せて宿泊している宿屋までいったん戻るのであった。
人間であるタウロの一行の活躍は昼頃になると、森林の街全体にすぐ噂として広まる事になった。
なにしろトロールという魔物がエルフの天敵である事、そして、その皇帝となるとエルフ族の滅亡の危機を意味するものであったからだ。
そんな危険な魔物を対立していたはずの人族がエルフに代わって討伐してくれたというのだから、誰もが話題にしないわけがない。
もちろん、それが事実かどうかは、長老会議の発表待ちだが、その噂の元は北門の門番エルフからだと言うから信憑性が高い根拠のひとつになっていた。
どうやら北門の門番エルフはそれなりに自治区では有名人だったようだ。
そのお陰か、昼過ぎには長老会議から、面会の使者が訪れ、長老達が集う城館に招待される事になった。
数日前の扱いが嘘のようであったが、多分、噂の真相を明らかにして、この街の騒ぎを収めようという意図があっての事だろう事は容易に予想がつく。
タウロはそれに便乗して交流再開の為の糸口にしようと考えていたから、エルフ長老会議の面々と面会をすべく、一行は城館へと向かうのであった。
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