第640話 強敵の出現
ダンジョンもどき内は、通常のダンジョンとは違い人工的な作りは一切なく、内部は自然に出来た空間だったので岩も剥き出しで足元も悪い。
ただ、内部はダンジョンと同じように壁は薄暗くだが発光しており、視界は保てている。
いくつか分かれ道があったが、タウロの能力である『真眼』にリンクした『気配察知』でトロールの居場所がほとんどつかめているので、そこが行き止まりなのかどうかも何となくわかった。
「左は行き止まりみたい。トロールの影が一切ないよ。でも、右側は広い空間があってそこにトロールが集団でいるよ」
タウロはこんな感じで察知した事を『意識共有』している狼型
アダムとイブはガロの操作の下、的確なルートを選んで進み、トロール達を先行して討伐していく。
タウロ一行は先行するアダムとイブのお陰でトロールが仕掛けたと思われる罠も引っ掛かることなく安全に進む事が出来た。
そして、どのくらい地下を進んだだろうか?
かれこれ二時間近く入り組んだ洞窟を進み続けていると、後続のガロがタウロに対し一言、「がう!」と吠えた。
それにタウロが気付いてアダムとイブとの『視界共有』を利用して洞窟の先を確認する。
今は丁度、何度目かわからないトロールとの遭遇戦が行われている最中だったが、その先はかなり広い場所になっており、アダムの視界の端にかなり大きなトロールが一瞬だが見切れた。
「……この先に出入り口で戦ったトロール大将軍クラスのトロールがいるみたい」
タウロはみんなに警戒を呼び掛ける。
「まだそんなのがいたのね。道理でトロール達の抵抗がまだ、激しいわけだわ」
エアリスは納得という感じで頷く。
「……そうなると、この先にいるのはヘタをするとトロール王クラスかもしれないな」
ラグーネが緊張感を漂わせながら、敵を推測する。
「と、トロール王!? もし、それが事実だったら大規模な軍を編成するか長老会議が総出で対処しないと敵わない事態ですよ!?」
ガロに跨って付いて来ている門番エルフは、トロール王と聞いて酷く慌てた。
それはそうだろう。
トロール王は単独相手としても、最低でB+冒険者三チーム以上、できればAランク帯冒険者チームでの編成が望ましいという相手だ。
それに現実問題、トロール王には部下となる魔物が無数にいるはずだから、冒険者ギルドはそれに対抗する為にトロール王討伐とは別にCランク以上の冒険者を数十人は用意するところだろう。
つまり、それくらいの相手という事だ。
「……アダムとイブにはそれ以上は進ませず、雑魚のトロールを手前に誘い込んで数をできるだけ減らす形にしておいて」
タウロは二体を操作するガロに指示を出す。
ガロは「がう!」と応じる。
タウロ達は現場に急行するべく先を急ぐのであった。
疲れ知らずの人形であるアダムとイブはタウロの指示通り、トロール王のいる大広間には突入せず、その手前でトロール達を誘い込んで獅子奮迅の戦いを繰り広げていた。
そこにようやくタウロ達も到着し、大広間にいるトロール王の様子を窺う。
「室内が暗いからあんまり様子をがわからないけど……。以前に聞いたトロール王とは少し様子が違わなくない?」
エアリスが薄暗い大広間に他のトロールとは段違いに大きいトロール王を見てエアリスは感想を漏らした。
と言うのも、タウロとエアリスは過去にトロール王がダレーダー伯爵領というところで発生して大騒ぎになった時に丁度、近くの薬草で有名な田舎であるダンサスの村で活動していたから、トロール王についての情報は討伐に参加した冒険者から話は聞いていたのだ。
「……確かに。被っている王冠も聞いていたのと形が違うし、薄暗いからわかりにくいけど、一見するとあれダークトロールみたいじゃない?」
タウロもエアリスに賛同して首を傾げる。
「タウロ様の言う通り、ダークトロールみたいな容姿ですね」
シオンもタウロの感想を裏付けるように目を細めて確認して応じた。
「ま、まさか……」
門番エルフはその証言から顔をみるみる青ざめさせていく。
「どうしたのだ? 顔色が悪いぞ、門番殿」
ラグーネが怯えた反応を見せる門番エルフに気遣って声を掛けた。
「……我々エルフが竜人族との古い盟約を交わしたきっかけをご存じですか?」
門番エルフは竜人族であるラグーネに聞き返す。
「うん? そう言えばきっかけは何だったかな? 確か何かの魔物を一緒に討伐してそれで古の盟約を交わしたのだったな」
「ええ……。それこそ数百年前、この地のエルフを絶滅の危機に追いやった魔物から竜人族が助けてくれたのです……。それをきっかけに討伐してくれた竜人族に感謝して古の盟約を結んだのだとか……。そして、その相手は伝説上の魔物と言われている、トロール皇帝だったのです……」
「「「トロール皇帝?」」」
「伝説では鋭利な王冠に裏地が黒い赤マント、ダークトロールのような闇の肌に魔法を遮断するローブを纏い、左手には宝玉で彩られた魔法の王笏、右手には魔剣を持つというのが言い伝えにある姿です。エルフの歴史の中でトロール皇帝クラスは千年以上前に討伐された魔王に次ぐ国を揺るがす災害の一つと言われています。人族で言うところの伝説級であるSランク討伐クラスの魔物です……。まさかと思いますが、あれがその……」
門番エルフは信じられないという思いで震えながら答える。
「言われて見れば、そのまんまの姿してますね」
シオンは猫人族の血を半分引き継いでいるから、暗闇でも視界が聞く。
そのシオンが、目を細めて確認するのだから、確かだろう。
「……何か僕達、とんでもないハズレを引いたみたいだね……」
タウロもさすがにそれを聞いて、事態の深刻さに気付いた。
なにしろ冒険者にとってSランクは勇者などの伝説級を意味し、それは現在、存在しないのである。
だから人間の冒険者は現在A+が最強で、それ以上はいないのだ。
これはもちろん、人間に限る。
つまりSランク帯は竜人族のような化物レベルに用意されたようなものなのだ。
そんな化物クラスにしか討伐出来ない相手、これはさすがに荷が重い。
「に、逃げるべきです……! これは生きて知らせるのが我々にとって最大の任務だと思います……!」
門番エルフは当然の主張をする。
「門番さんにはガロと一緒に避難をと言いたいところなんですが……。ガロは戦力として必要なので、後方で待機してもらっていいですか? 僕達にどこまで抗えるかわかりませんが、少しでも敵の戦力を削り、すぐ地上に上がってこないようにする必要性があります」
タウロは腹を決めた様子で、そう告げる。
「……なぜそこまで……」
「僕達は冒険者です。最低限やる事はやらないと……。あ、駄目だったらもちろんガロに跨って逃げるのでその準備はしておいてくださいね?」
タウロはそう言うとエアリス達に確認を取る。
「アンクがいないから攻撃面が心配だけど、やってみるしかないわね」
覚悟を決めたタウロに命を預けたとばかりにエアリスは晴れ晴れとした表情で応じる。
「そうだな。私も竜人族の端くれ。先祖達が倒した相手なら、私も倒しておくか」
ラグーネも気合十分の様子だ。
「ボクも頑張ります!」
シオンもタウロが戦うなら、逃げるという選択肢はない。
スライムエンペラーのぺらもタウロの肩の上でぴょんと跳ねてみせた。
「じゃあ、みんな、アダムとイブを前衛にラグーネ、シオンが続き、そして僕とぺらとエアリスが後衛、ガロは全体の様子を見て動いてね!」
「わかった!(わかりました!)(わかったわ!)(ぴょーん)(がう!)」
全員が応じると、トロールと戦闘中のアダムとイブを援護すべくタウロ達は前に出るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます