第639話 圧倒的な討伐戦

 ダンジョンもどきの出入り口付近での戦闘は、壮絶なものであった。


 数では圧倒的なトロール系魔物が、出入り口から次から次に溢れて来るのだが、疲れを知らない男女大人型人形ゴーレムアダムとイブが前面に立って怯む事なくトロールを討ち取っていく。


 時折、そのアダムとイブに棍棒を振りかざしたトロールが一撃を加える事もあるのだが、全くびくともしないで攻撃を与えたトロールを剣で突き殺す。


 とはいえ、アダムとイブだけではこの数が地上に上がって来るのを完全に防げるものではないから、取りこぼしをタウロ達が仕留めていく感じである。


 狼型人形のガロはその巨体から繰り出す前足の一撃や後ろ足での蹴りでトロールの頭を吹き飛ばし、門番エルフはガロに跨って、ただその圧倒的な強さに驚いている様子だ。


 そんなエルフでは想像だにしないようなトロール討伐であったが、出入り口付近で変化があった。


 それは大きな盾を持ったトロール達が横一線に隊列を組んで出てきたのだ。


 後方にも同じような隊列で続いて出て来る。


 アダムとイブはその隊列を崩すべく襲い掛かるが、押し出された大きな盾に阻まれ、手にしていた剣が折れた。


 タウロはそれに気づいてすぐにマジック収納から予備の武器として戦槌を二本取り出し、アダムとイブに投げて渡す。


 そんなアダムとイブの弱点は攻撃力だろうか?


 ダンジョンの謎物質で作り上げているのでその耐久性は折り紙付きだが、人型なので重量がない分どうしても攻撃は軽くなる。


 だから、装備一式を与えてその欠点を補っているのだ。


 もちろん、人型という事で、敵の弱点に合わせた装備を使用する事ができるのでそれは強みである。


 敵が盾を前面に構えて進むならその盾を破壊すればいい、という事でタウロは戦槌を二人に渡したのであった。


 アダムとイブを操作しているのはガロだから、その意をすぐに汲んで盾の破壊を優先する。


 トロールは盾を前面に押し進めながら、後方からは投石を目的としたトロールが現れた。


「みんな気を付けて、敵に飛び道具ありだよ!」


 タウロの警告と同時にトロール軍団の後方からタウロ達の頭上に投石の雨が降り注ぐ。


 エアリスはそれに構わず魔法を詠唱し始めた。


 それはその攻撃を防いでくれる仲間がいるからである。


 ラグーネがタウロ達の前に出ると、自慢の『鏡面魔亀製長方盾・改』を構え、物理攻撃耐性の高い『範囲防御』を展開した。


 大人の頭ほどもある投石はその『範囲防御』によって全て跳ね返される。


「じゃあ、こっちからもプレゼントよ!『雷鳴神威』!」


 エアリスがそう叫んで天に黒壇の杖を掲げると、頭上に一瞬で暗雲が立ち込め、雷鳴と共に無数の雷が嵐の如く地上を襲う。


 その無数の雷は真下にいたトロール達を薙ぎ払い丸焦げにしていく。


「さすがエアリスさん、大軍相手に敵なしの威力です!」


 シオンがそう感心すると盾トロール相手に奮戦中のアダムとイブに協力すべく前にでる。


 敵トロール軍は中枢部隊が丸焦げで陣形どころではないから攻め時と判断したのだ。


 アダムとイブが盾を戦槌で粉砕していくのに対し、シオンはその拳で盾の表面を掌底で軽く突く。


 いや、そのように見えるというべきか。


 シオンが盾を突くと、それを構えている盾を貫通して衝撃波だけがトロール自身に届き、次々に後方に吹き飛んでいく。


「シオンも打撃戦では敵なしね」


 エアリスもその光景を見て感心する。


 いや、みんな十分凄いんだけどね?


 タウロは仲間の強さ具合に感心するのであったが、自分の事は除外しているのであった。


 ド派手なエアリスの魔法がきっかけだったのか、さらに出入り口からダークトロールを従えて完全装備をした三メートルはありそうな大きなトロールが出現した。


「あ、あれはトロール大将軍!? タウロ殿、撤退した方が良い! 敵は先にこちらの切り札魔法を使用させるまで出て来るのを待っていたと見るべきです!」


 門番エルフは敵のボスがトロールを考えもなく大量に地上へ送り込んでいたのでなく、エアリスの魔法を計算していたのだと、考え撤退を勧めた。


「テキハ キリフダヲ シヨウシタ。イマガ ハンゲキノ チャンスダ!」


 トロール大将軍も、それを認めるようにニヤリと口元を歪め、こちらにわかる言葉でそう宣言する。


「じゃあ、アダムよろしく」


 タウロが想定内とばかりに一言命じた。


 その瞬間であった、アダムは戦闘でボロボロになっていた冒険者装備を片手で引き剝がし、胸部を出す。


 そこにはくぼみがあり、次の瞬間、そこから衝撃波を放ってトロール大将軍の周囲にいるダークトロールごと敵のボスを吹き飛ばした。


 相変わらずの威力というべきだろうか、衝撃波は上位の魔物であるダークトロールとそれを指揮するトロール大将軍を薙ぎ払い粉砕するのであった。


「い、一撃……!?」


 門番エルフは強敵のはずであったトロール大将軍が登場から一分以内で退場した事に頭が追いつかず、一言そう漏らすとガロの背中の上で呆然としている。


「よし! 残党を一掃しつつ、ダンジョンもどき内に入るよ!」


 タウロは敵のボスを倒したにも拘らず、油断する素振りもない。


 それはエアリスやラグーネ、シオン、ぺら、ガロも一緒で、討ち漏らしたトロールを掃討しつつ前進する。


「あ、このトロール大将軍の装備、凄いよ」


 タウロは出入り口の奥で即死しているトロール大将軍の死骸を回収するとその装備に注目して続けて言う。


「──魔法の鎧兜一式と盾に、剣は『蛮族の片刃剣』だって。魔法兜鎧一式は装備者の体形に合うように変化するみたいだし、『蛮族の片刃剣』は麻痺属性ありだよ。これは相当凄い装備じゃない? これはアダムに上げようかな」


 タウロはそう言うとアダムに装備させる。


「タウロ、ダンジョンもどき内部は私の『気配察知』系が通じないのだけど、そっちはどう?」


「こっちは『アンチ阻害』のお陰でわかるけど、まだ、内部には結構いるみたい。アダムとイブを先頭にラグーネ、シオン、エアリス、僕、最後はガロと門番さんで入ろうか」


 タウロがそう告げると全員は頷き、ダンジョンもどきに潜るのであった。

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