第638話 迷宮もどきの出入り口

 タウロ一行は門番エルフの道案内で、自治区の大森林地帯の北側の森の中にある丘の裂け目に向かっていた。


 狼型人形ゴーレムガロが風のように森の中のうねった街道を走り抜ける。


「おお……!」


 門番エルフはこの初めての乗り心地に思わず感動の声が漏れた。


「乗り心地良いでしょ? ガロは凄いんですよ」


 タウロは門番エルフにそう自慢する。


 門番エルフが何か答えようとするとエアリスが、


「タウロ!」


 と鋭い声で名前を呼ぶ。


「──わかってる!」


 タウロはそう応じると、マジック収納からアルテミスの弓を取り出し、魔力で作り出す光の矢を番えると、前方に三本立て続けに放つ。


 矢は木々の間をすり抜けて飛んでいき、視界から消えるのだが、その直後に、


「ぎゃっ!」


「うぎょ!」


「きゅー!」


 と声が森の中に響く。


 ガロはタウロに言われるまでもなく、その声がした街道傍の木の根元に向かった。


 そこには今回の討伐対象であるトロールらしき三体が頭を射抜かれて倒れている。


「これは、ダークトロール!?」


 驚いた様子で魔物の名前を門番エルフが口走る。


「待ち伏せていたみたいだね。きっと通行人を襲っていたんだと思う。──ほら」


 タウロはそう言うと少し奥に入った森の中に入っていき、旅人の持ち物と思われるいくつかの荷物が血に汚れた状態で一か所に集めてあるのを見つけた。


「これは……!」


 タウロは遺品を『真眼』で鑑定するとどうやら近くの村の住人のもののようだ。


 もしかしたら、エルフ自治区の中心である森林の街に救援を求めて使いを出したのかもしれない。


 荷物の中に『長老会議宛ての手紙』というものが入っていたからだ。


 門番エルフはタウロからその指摘を受けて、眉間にしわを寄せる。


「……ダークトロールは、トロールの中でも悪賢く、上位の魔物です。ここで同胞達が襲われていたのでしょう……」


 最近、北の村々から訪れるエルフが激減していたので、理由が判明したという思いで門番エルフは理解したようだ。


 その後も、行く先々でトロール系の魔物に何度か遭遇し、タウロ達によって討ち取られて行く。


「街道沿いの森に結構潜伏しているね……」


 一行が何度目かのトロールの群れを退治してから、そう感想を漏らす。


 森の中には破壊された馬車の残骸や食い散らかされたエルフの死体の一部まである。


 トロールはエルフを大好物としている事から最大の天敵であり、門番エルフはこの光景を目の当たりにして、かなりショックを受けていた。


「それにしても、トロールはこんなに頭が良い魔物だったか? 明らかに森林の街と北側の村々との間を寸断する為に街道沿いに分散して身を伏せていたとしか思えないのだが?」


 ラグーネがトロールの行動とは思えないやり口を指摘した。


「そうね。これは誰かトロールに知恵を付けている何者かがいるわ。ダークトロールも確認されているし、……もしかしたらトロール将軍、もしくはトロール王辺りが生まれているのかも……」


 エアリスが事はかなり深刻なのではないかと、考えて最悪の可能性を口にした。


「と、トロール王!? それが本当だとしたら、軍を編成しないと対応できない問題ですよ!?」


 門番エルフはエアリスの言葉に、事態がより深刻なものである事を指摘する。


「……ガロ。アダムとイブの操作を任せるから、お願いね?」


 タウロはそう言うとマジック収納から男女大人型人形二体を出す。


「がう!」


 ガロがすぐに応じると、一見すると冒険者姿のアダムとイブは足取りも軽やかに森の中に入っていく。


「門番さん、この先にダンジョンもどきがあるんですよね?」


 タウロはそう確認すると、ガロにゆっくり進むように、指示した。


 そこは、すでに森林の街から馬車でも二日はかかるところにあったが、ガロで移動してきたタウロ一行は半日という短さで到着している。


「ええ。こんなに早く到着するとは思わなかったが……。これからどうするのですか?」


 門番エルフの問いに、タウロは上の空のようなポカーンとした表情であったが、


「……あっ! アダムとイブがダンジョンもどきの出入り口付近に到着したけど、トロール達が出入り口を固めているから密かに侵入するのは無理そうだね。視界を妨げるものが邪魔だったのか周囲の建物は完全に破壊され尽くしている感じだよ。……これ以上は近づけそうにないね」


 と人形との『視界共有』でアダムとイブの視線を通じて状況を説明した。


「……やはり、一旦街に戻り軍を編成しないといけませんね……」


 門番エルフは、タウロ一行だけでは力不足だと感じたのか、現実的な提案をする。


「それもありですが、僕達で数を減らしてみましょうか? それに表で騒げばボスキャラが出て来てくれるかもしれませんし」


 タウロはそう言うと、「ガロ、お願い」と、一言告げる。


 すると、ガロは一行を乗せたまま少し離れているダンジョンもどきの出入り口に向かって疾走した。


「わわわ……! だ、大丈夫なんですか!? 敵の数もわかっていないんですよ!?」


 門番エルフはそうタウロ一行に警告するのであったが、当人達はガロの背中の上で装備の確認を始めている。


 やる気十分であった。


「門番さんはガロの背中に乗ったままでいてください。それが一番安全なので」


 タウロがそう告げると丁度、森が開けてダンジョンもどきがある広い場所にでた。


 周囲は背の高い木々で覆われている為、日は高いが、木漏れ日程度で日陰が多い。


 そこではすでに戦闘が始まっていた。


 それはトロール系魔物軍団VS男女大人型人形アダムとイブによるぶつかり合いとなっていたのだ。


 圧倒的な数のトロール軍団に対し、わずか二体の人形が、手にした剣と盾を駆使して圧倒的な力で殺戮を繰り返しており、広場にはトロールの死骸が沢山転がっていく。


 門番エルフはこの光景に唖然としていたが、タウロ達は躊躇する事無くガロから降りてこの戦いに参戦する。


「みんな行くよ!」


 タウロがエアリス達に声を掛けると、アダムとイブの援護の為に、一行はそれぞれの得意技でトロールに応戦するのであった。

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