第637話 信用を得る為に
タウロ一行は、エルフ自治区の中心である森林の街で宿屋を見つけて数日滞在していた。
というのもタウロが領主として秘書官エルフに預けた書状への反応がその間、全くなかったからだ。
「うーん……。長老会議での話し合いが長引いているのか、それともただ単に芳しくない状況なのかだけど……、秘書官から聞いた代表の合理的で生産性重視という特徴から察すると、僕の書状では心が動かなかった可能性が高いのかなぁ……」
タウロは秘書官エルフの話から、返事はすぐ来るかもしれないと思っていたから、これは期待外れだった。
「タウロの書状には何も不備はないと思うわ。お互いの発展の為の素晴らしい提案だったもの。もし、何か原因があるとしたら、前領主に対する悪感情が邪魔しているのではないかしら? タウロはその後釜だし。長老会議の代表と言っても、会議の長老達二十名のうちの一人なんでしょ? それら全員を短時間で説得するのは難しいと思う」
エアリスはこの数日間の人間に向けられるエルフの冷たい視線から、根深いものを感じていた。
だから、長老会議の説得は当然難しいものと考えていたのだ。
「……こうなると、何か短時間で気の長いエルフが即決してくれるような打開策が必要なわけだけど……。グラスローさんの案を試してみようか」
タウロはこの待機している数日間、エルフで部下になってくれたグラスローと今後のエルフとの交流や自領の内政、外交について話し合いをしていたのだが、その中で現在のエルフ自治区の問題点が食糧問題とその原因の一端となっているダンジョンもどきから湧いてきている魔物のトロール討伐の解決が急がれている事に注目したのだ。
トロールはただでさえ、エルフの天敵として有名な存在であったから、この森林の街がある広大な大森林地帯でその天敵が自治区内を荒らしている状況は一刻も早く解決したいはずであるとグラスローは指摘。
その問題をタウロ一行が解決すればエルフの人間に対する印象も大きく変わるのではないかというのが、グラスローがタウロに提案した事であった。
「それでは、トロールの発生源であるダンジョンもどきで、その元となっている魔素が溜まっている場所を浄化するという事ですね!」
シオンはタウロとグラスローの目的を察して具体的な解決方法を口にした。
「その通り。幸い僕とエアリス、シオンは浄化魔法が得意分野だからね。──浄化する間はラグーネに守ってもらい、グラスローさんには長老会議へ、トロール討伐と発生源の解決をした場合、交渉に応じてもらえる約束を取り付ける役目をお願いしようかな」
「任せろ! タウロ達は私がしっかり守るのだ!」
ラグーネは胸を叩いてみんなの安全を保障する。
「長老会議の説得……、ですか? わかりました……! タウロ様の為にも全力を尽くします!」
グラスローは真剣な表情で頷く。
「それでは、早速、エルフを脅かすダンジョンもどきのある場所に向かおうか!」
タウロは全員にそう告げると、宿屋を出るのであった。
タウロ達一行は、森林の街の北門から出る際、門番に北へ向かう理由を聞かれた。
人間だから南門から自領に帰るのならともかく、北はエルフの村々があるだけだからだ。
「エルフのみなさんの天敵であるトロールが湧いているというダンジョンもどきに潜って、その大元を断ってきます」
とタウロは堂々と公言して見せた。
「なっ!? 人間がそんな危険を冒す必要性がどこにある! そんな見え透いた嘘をついて何が目的だ!」
門番がそう指摘すると、他の門番も集まってきた。
門の前でそんな騒ぎになると、当然、周囲の通行人達も何事か集まって来る。
タウロはそれを確認すると、再度目的を告げた。
「僕達はエルフ自治区との間に、また、交流関係を再開したいと思っています。その為にはみなさんを悩ますトロール問題を解決する事でこちらが本気である事を理解してもらう為に命を賭けるつもりです!」
ざわざわ。
タウロの大きな声での決意表明に、集まってきたエルフ達は動揺した。
「人間が? そんな事信用出来るのか……?」
「しかし、トロールの大量発生はこの自治区で一番の問題になっている。俺の住む村も襲われているから、解決してくれるなら誰でもいいぞ」
「だからって人間の言う事など信じられないだろう?」
「あんな人間の子供が勇気をもって命を賭け解決すると宣言しているんだぞ!? 期待して何が悪い?」
エルフ達は期待半分信じられない半分に分かれていた。
思ったよりも期待が多くて内心驚くタウロであったが、トロールの大量発生にそれだけ悩まされているという事だろう。
「みなさん、今、信じてくれとは言いません。僕達は行動で示し、みなさんの人間に対する不信を晴らしたいと思います。その時、改めて僕達との付き合い方を考えてください。お願いします!」
タウロは集まってきた多くのエルフの前でそう演説すると、門番に向き直って続ける。
「──通してもらえますか?」
「……お前達の見張りに、俺が付いて行く。もし、口先だけだったら長老会議に事の顛末を全て報告し、領外に叩きだすからな」
門番の男はそう告げると隊長らしき男に了解を得て、タウロ達の乗る狼型
これはまだ、疑っているという事を示すものだったが、それと同時に、解決した時の証人になってくれるという事でもあった。
それに、ダンジョンもどきがどんなところかわからないが、今の今まで解決していない事を考えると十分危険な場所である事は想像できたから、そこに一緒に向かうという事は門番も命を賭けてくれるという事である。
タウロはこの門番の勇気に感心した。
「……ありがとうございます」
タウロは一言、門番に感謝を述べた。
「か、勘違いするな! 俺は大きな事を言うお前達が尻尾を撒いて逃げ出さないように見張るだけだからな!?」
門番のエルフはそう言うと、照れ隠しするとガロの背中に跨るのであった。
「それでは、目的地はダンジョンもどき。──ガロ、よろしく!」
「がう!」
ガロは一声鳴いて承諾すると、タウロ達を背中に乗せて森林の街の北門を潜り、北のダンジョンもどきのある場所へと向かうのであった。
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