第636話 門前払い
タウロ達一行は、しばらく城館前で待たされたが、感じの悪い門番の責任者が他のエルフと一緒に戻ってきて状況は一変した。
「お待たせしました! まさか竜人族の方がまたこの地を訪れてくれる時が来るとは驚きです! エルフ自治区の中心地、森林の街へようこそお越しくださいました! 私はこの森林の街、長老会議で秘書官を務めている者です。初めまして!」
責任者からどう説明を受けたのかわからないが、官吏姿のエルフはラグーネの姿を見て興奮気味に歓迎する。
だが、タウロとエアリス二人の人間を確認すると、少し眉を顰めた。
「竜人族の方のご案内ご苦労様、人間の方々。ここからは、私が案内しますので、もう帰って頂いて結構ですよ」
秘書官エルフは、タウロとエアリスをここまでの道案内か護衛だと思ったようだ。
どうやら、門番責任者は、タウロ達の事は詳しく説明しなかったらしい。
「僕は隣領の新領主タウロ・ジーロシュガー子爵と申します。この肩のスライムはぺらで、彼女はエアリス、僕の婚約者です。そして、獣人族の彼女がシオン。そして、竜人族の彼女がラグーネ。そして、狼型
タウロは丁寧に紹介をすると訪問の目的を口にした。
秘書官エルフは、驚きに目を見開き、タウロを足のつま先から頭のてっぺんまで確認する。
「人間の年齢については私よくわかりませんが……、十歳くらいですか?」
秘書官エルフはタウロが子供にしか見えないので、当てずっぽで年齢確認をする。
「僕は十五歳です。ですが、王家より旧ルネスク領を拝領し、ジーロシュガー子爵として統治する事になりました。──これが、その証明書と王家の紋章です。そして、今回の訪問目的は挨拶と交流再開の為の話し合いです」
「……確認しました。長老会議の代表であられるフィリオン様は忙しい身ですので、面会が可能になるかわかりませんが、私から確認してみましょう。竜人族のラグーネ様に関しては長老会議のメンバーで会いたいと願う方も多いと思いますので、城館に滞在してもらってよろしいでしょうか? 他のみなさんは、街の宿屋を用意しますのでそちらにお願いします」
明らかな待遇の差をタウロが感じ、どうしようかと一瞬考えるのであったが、次の瞬間にはラグーネが口を開いていた。
「私はタウロの仲間の一人としてここに来ている。その友人達への不当な扱いをする相手と会う気はないよ」
ときっぱり断って見せた。
タウロとしては、ラグーネに間を取り持ってもらおうかなという考えも脳裏を過ぎっていたが、これはこれで仲間として嬉しい言葉であった。
それはエアリスやシオンも一緒で、秘書官エルフに対して勝ち誇った表情を浮かべている。
「し、失礼しました! しかし……、長老会議代表は最近特に人間嫌いになっていまして……、余程の事がない限り予定をすぐに空けて頂けるとは思えません……」
秘書官エルフは謝罪するが、秘書官だけに長老会議のエルフ達をよく把握しているのだろう、中々応じる気配がない。
「代表との面会を予定して頂けるなら、ラグーネも同席させますが?」
タウロは竜人族というカードを交渉に利用する事にした。
「……長老会議の他のメンバーはそれで面会できるでしょうが、代表は難しいでしょうね……。代表はエルフには珍しく非常に合理的で生産性を重視される人物です。人間との面会はそれらの理由を埋めるものがないと不可能でしょう……」
秘書官エルフのこの言葉にタウロは可能性を強く感じた。
エルフは寿命が長い事で、怒らせるとそれだけで十年二十年は許してもらえない気が遠くなるような扱いをされると思っていたから、合理的で生産性重視なら話し合いの余地はあるはずだ。
エルフの中ではその考え方は異端な気がするが、気長でゆっくりなエルフをまとめて引っ張れるだけの有能さがきっとあるから代表を務めているのだろうと想像した。
「それではこの書状を代表にお渡しください。それで考えが変わるかもしれません」
タウロは念の為、説得が必要な時の為に用意していた書状を秘書官エルフに渡す。
「……あまり、期待はしないようお願いします。代表は頑固でもありますので、人間相手にそうそう折れる事はないと思いますから……」
秘書官エルフはよく知る上司の性格を想像すると、書状一枚で頷くとは思えなかった。
「……その時はまた、何か考えます。とりあえず今は、僕達が街に滞在する許可を頂けますか?」
タウロは最低限のお願いだけをする事にした。
「その程度ならば、私の判断で許可は出せます。──これを」
秘書官エルフはそう言うと、人数分の札を出して渡す。
どうやら、来訪した竜人族用にと複数用意して持ってきていたようだ。
「ありがとうございます」
タウロはお礼を言うと、エアリス達に頷き、ガロに乗ってその場をあとにするのであった。
「結局、門前払いに等しい扱いだったわね」
エアリスがタウロの代わりに不満を口にする。
と言っても全然不満げではなかったが。
「はははっ。対応としてはそうだけど、最悪な状況ではないから、一旦は良しとしようか。秘書官も話が通じない相手ではなかったし。──グラスローさん、この街で他種族も泊まれる宿屋はありますか?」
タウロはもっと最悪な状況も想像していたので、今は書状で長老会議の代表の心が少しでも動く事を期待する事にして、今日の宿屋を確保する為に有能な部下のエルフに確認するのであった。
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