第635話 森林の街

 森林の街は、意外にしっかりした城壁に覆われた緑の多い街であった。


 その中心にはエルフのグラスローが言う世界樹という名の巨木がそびえ立っている。


 だが、不思議な事にこの世界樹、その大きさに比べて近づかない限り、遠くからは一切視界に入らない。


 これは多分、世界樹自体に『視界阻害』系の魔法が掛かっているのだと思うが、タウロはその阻害系を打ち破る『アンチ阻害』を持っているから、効かないはずなのだ。


 それなのに、近くまでこないと気づけないのだから不思議なのであった。


 森林の街の立派な城門に到着すると、エルフの門番達が、タウロ一行の狼型人形ゴーレムを警戒し、手にした槍で立ちはだかる。


「止まれ、何者だ! 人間がなぜここにいる!」


「待て、私はこの方々の道案内をしているグラスローだ。ちゃんと村の長老から許可をもらっている。それに、こちらの方々は隣領の新領主タウロ・ジーローシュガー様、そして、その同行者である竜人族のラグーネ殿だ」


 エルフのグラスローは、ガロから素早く降りると、門番達にタウロ達を簡潔に説明して見せた。


「何だって!? 竜人族!? それは大変だ! どうぞお入りください!」


 タウロの領主訪問より、ラグーネの竜人族の事実に驚く門番エルフ達であった。


 そして、


「だが、人間については、上の許可がないと入れるわけにはいかない。ここで待て!」


 と続けた。


 その言葉にラグーネが、


「仲間が入れないなら私もここで待たせてもらう。まさか、古の盟友から竜人族の私の仲間がこのような扱いを受けるとはな……」


 とわざとらしく溜息を吐いて門番達をチラッと見る。


 続けてグラスローが、


「村の長老からも許可は出ている。それでこのような扱いを勝手にすると、後で問題になっても知らないぞ?」


 と指摘して長老からの許可状を門番に示した。


「くっ……。──確かにこれは、サイジョーの村の村長のサイン……。わかった、通っていいだろう……。しかし現在、自治区のエルフは人間を毛嫌いしているものが多いのも事実。用心の為、警備兵を付けるが問題無いな?」


 門番はそう言うと、仲間の門番に目配せして、すぐに警備のエルフ兵を二人連れてきた。


「……わかりました。それでは僕達もあまり目立たないようにしますね」


 タウロはそう言うと、マジック収納からフード付きのマントを取り出し、エアリスと二人目深に被る。


 シオンは元々、装備品である『双頭聖闇獣製革鎧』というもので黒色の靄を出して黒色のフード付きマントのようなものを作り出しているから、その姿をすぐに覆い隠せる。


 残るはラグーネであったが、彼女は普段使用している幻惑の魔法で人族に見せているのだが、それを解き、堂々と竜人族である鱗のある肌を晒す事にした。


 元々、狼型人形ガロに全員が跨っているからとても目立つのだが、それに加えてここは周辺地域と断絶中のエルフの街だ。


 内部に入るとすぐに他のエルフ達の注目の的になった。


「うん? 珍しい人形の乗り物だな? え、あれは?」


「鱗の肌……、珍しいハーフの蜥蜴人族か?」


「いや、あれはまさか……。言い伝えにある竜人族に特徴が似ている気が……」


「はははっ。そんな馬鹿な。──だが、エルフ以外でこの街で見かける異種族の者はほとんど顔馴染みなんだが、あれは誰だ?」


 と、タウロ一行に視線が集まる。


 一行は沢山のエルフの好奇の視線に耐えながら、このエルフ自治区の長がいる中心部の城館に向かうのであった。



 中心部の城館は、世界樹を背後に城壁で囲まれたまさに城であった。


 そこでまた、門番に止められ、タウロ達が人間だと騒ぎ、その後に竜人族のラグーネに気づいて再度驚く。


 その流れがあった後に現場責任者が出てきて対応してくれたので、そこでようやく面会を求めるのだが、当然予約がないからと拒絶される。


 そこで、タウロが交渉に出た。


「見ての通り私は隣領の新領主である貴族です。言わば、この自治区の長と同じ立場の人物です。さらに彼女は竜人族。その二人をあなたが追い返すわけですが、大丈夫ですか?」


「な、なんだ、大丈夫とは!?」


 責任者のエルフは子供であるタウロ相手に少したじろぎながら応じる。



「当然ですが、僕達が今日の宿屋を探して街に戻ると見慣れない人間と竜人族なわけですから、大騒ぎになるでしょうね。そして、その騒ぎの原因は門前払いをしたあなたになるわけですが、どうしますか? 僕達は今ここであなたの独断で追い返す対応をした事について、当然その騒ぎの中で吹聴します。上はどう思いますかね? 大騒ぎの原因になったあなたの判断を」


 タウロはこの責任者が自分が嫌いな人間と知り、独断で失礼な対応を取ってきたと感じていたから、それを追及する姿勢を見せた。


 その言葉に責任者は、「ぐっ……!」と何も言い返せなくなる。


「……今ならまだ、僕達は何も言いませんよ? 正当な扱いさえしてもらえれば」


 タウロはそう言うと、責任者のエルフは一言、「少し待て……」と応じて奥に消えていくのであった。


「この自治区での人間に対するエルフの印象って本当に悪いのね」


 エアリスはみんなにその感想を漏らす。


「申し訳ありません。中央では特に政情が不安定な分、その原因の一端になっている人間、ルネスク元伯爵の評判は最悪ですからね。その事で人間への差別は激しいのです」


 エルフであるグラスローが代わりに謝罪する。


「グラスローが謝る事ではないよ。差別はどこでも必ずある事だし、ここでは特にそうなる原因もあっての事だからね。でも、この状態で交流再開を求めるのは難しいかもしれないなぁ……」


 タウロは想像以上にこの自治区のエルフが人間を毛嫌いしているのをとても強く肌で感じるのであった。


 ─────────────────────────────────────

    あとがき


 ここまで読んで頂きありがとうございます!


 私事ですが、この作品を2020年11月16日に初投稿してから、早い事に三周年が経ちました。


 四年目もしばらく続くと思いますので、今後ともお付き合いの程、よろしくお願いいたします。<(*_ _)>


 ついでですが、作品の評価★、フォロー、♥いいね、コメントなど頂けましたら、もの凄く励みになりますので、そちらもよろしくお願い致します。


 それでは引き続き、「自力で異世界へ!」をお楽しみください!(。・ω・)ノ゙♪

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