第633話 驚くべき生態

 エルフ自治区最初の村の村長は、数分後にはタウロ達一行と面会してくれた。


 グラスローが間に入って、入領時の顛末を簡単に説明すると、


「おお! 竜人族の方がこの地を訪れるのは、旅の途中だと言っていた冒険者以来、久方ぶりの事です! 中央の長老会議には私が面会を求める旨の手紙を書きましょう」


 とすぐに記入してタウロに渡してくれた。


 その村長を含め、村の長老達が竜人族であるラグーネを見ようと続々集まってきた。


 集まってきたエルフ達はその特徴である金髪に緑の瞳に鼻筋が通った美形な面、そして華奢な体は共通しているのだが、みんな長老という割にはその姿は若く見える。


 村長は初老という感じでしわもあるし、衰えを感じる容姿なのだが。


「みなさん若く見えますが、年齢はいくつくらいなのですか?」


 タウロは興味本位で年齢を聞いてみた。


 確かハーフエルフであるフルーエ王子は、人の血が半分入っている為、成長が人並みに早いのだが、寿命自体は長いと言っていた。


 そして、通常のエルフは成人までに人の三倍くらいはかかると言っていたので、長老というからには百歳くらいはいっているのだろうか?


「村長は確か四百歳くらいでしたか? 私はまだ、三百を超えたところです」


「私は二百五十歳くらいですね。細かい数字は忘れました」


「この村の長老会最年少の私が二百歳くらいなのでかなり若いですね。はははっ」


 村の長老達はそう言うと、笑って若者自慢をする。


「ええ!? みなさんの寿命ってどのくらいなんですか?」


 タウロは書物によれば、エルフは人間の三倍くらいだと書いていたのだが、村長の時点で四百歳くらいだというから、計算が合わない。


「どうでしょうな? 中央の森林の街の長老会議のメンバーは、五百歳を越える方々も多くいらっしゃいます。ただし、戦争や病気などによって早死にする者がいる為、昔は平均寿命が三百ちょっとなどと人族からは言われていましたが、実際のところハイエルフだと八百歳ほど。我々普通のエルフでも長ければ六百歳くらいまでは生きると言われておりますよ」


 村長がそう説明すると、他の長老達もその情報が正しい事だとばかりに頷いた。


「そんなに!? なのにエルフって数としてはとても少ない種族だと思うのだけど……」


 エアリスは想像を越える寿命とそれに対する数が合わない事に気づいた。


「はははっ。私達エルフは生殖能力が人族とは違いますからな。人族は寿命が短いので次から次に子供を作らないと滅亡してしまいますが、我々はあらゆる種族の中でも一番寿命が長い分、その心配はあまりないのです」


 村長は笑って人との差を説明した。


 言われて見れば、村長宅までの間、珍しい客人であるはずの自分達を見物に来たのは、十歳程度の大きさの子供エルフ一人だけだった気がする。


「……ちなみに、この村の子供って今何人くらいですか?」


「? そうですな。五年前に生まれた子がいるので、それを合わせると五人ですかな?」


「村長、一人は三年前に成人していますので、四人ですよ」


 村長がタウロの質問を不思議に感じながら答え、その答えに他の長老が修正を加えた。


「おお、そうだった。はははっ! 今は四人です」


 村長は笑って村の子供の数を教えてくれた。


 過疎化末期の村くらい酷い……。でも、寿命が長いとこれでバランスが取れているのかな?


 タウロは声に出さずに感想を漏らす。


 エアリスも同じ気持ちだったのかタウロと視線が合って苦笑する。


「子供が少ないと遊び相手がいなくて困りそうですね。それに子供が多くないと数が減ってしまいますよ?」


 シオンがもっともな指摘をした。


「遊び相手? ふむ……、その様な考え方はした事がありませんな。実に人間の方は面白い発想をします。そうですね……、エルフの子供の遊び相手は、森の自然でしょうか。子供の間は森で遊び、勉強は我々長老の中から誰かが見てあげる事になっております。竜人族との古の盟約などもその時に伝承しておりますな。数に関しては、寿命が長い分、繁殖に興味が薄い者がエルフには多いですから無闇に増やす事もありませんよ」


 数百年生きている長老から勉強を教わるとかどれだけの量の歴史を教わるのか気が遠くなる話だなぁ……。でも、シオンの言う通り、このままではゆるやかに滅びていくのではないだろうか?


 タウロは村長の話に、少し心配するのであった。


「現在この世界に生きている種族は生き残るべくして生き残り、滅んだ種族は滅ぶべくして滅んでいる。必死に生きても滅びるのは生存競争の中で生き残れる程の強さがなかったという事という考え方もある。しかし、エルフは寿命が長すぎて繁殖能力が退化している分、昔より数がかなり減っていると族長は心配していたな」


 ラグーネは、タウロ同様エルフがゆるやかに滅びの一途を辿っているのではないかと指摘した。


 族長とは竜人族のリュウガの事だ。そう言えば、族長はいくつなのだろうか? かなり長く生きていそうな割に、見た目も若かったが……。


 タウロは一人、エルフの生態よりもそちらが気になるのであった。


 タウロ一行は、村長宅で一泊し、いつものカレーでお礼をした。


 ここでもカレーは喜ばれた。


 特に若い世代、と言っても二百歳くらいまでのエルフではあるが、カレーのようなスパイシーで刺激のある食べ物に飢えていたらしく感動していたのが印象的であった。


 それなりの歳を重ね、薄味の食事に慣れてしまった一定の年齢のエルフにとっては食事は栄養を取る為の作業の一つとして定着してしまい、食事に期待するところがないようだったが、まだ若いエルフ達はそうなる手前でこの味を知ってしまったから、タウロに作り方を聞く女性エルフが数人迫って来てエアリスが間に入る。


「そんなに迫らなくても、領都シュガーにお店を開くから遊びにくればいくらでも食べられるわよ!」


「領都シュガーとは? ──え? 旧ルネスク領都の事なのですか!? ……それは難しいわ」


 エルフの女性は、溜息を吐くと残念そうに答える。


 他のエルフ達も同様の反応を見せた。


「今は、交流が断たれていますが、それを再開する為に僕達はここを訪れています。もし、再開されたら遊びに来てください」


 タウロが笑顔でそう答えると、若者世代のエルフ達はタウロと竜人族であるラグーネに期待するのであった。

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