第632話 エルフ自治区内
タウロ達一行はエルフ自治区の検問所前で半日以上も待たされる事になった。
「遅いですね」
シオンは暇とばかりに狼型
「竜人族との盟約もあまり重視されていないのかもしれないな」
ラグーネは溜息を吐くと、首を振る。
「そ、そんな事はないはずです! 現在、この検問所の責任者は不在なので、その代理として責任がある一番近くの村の長老達によって会議が行われているのだと思います」
検問所のエルフが門の内側から顔を出して、応じた。
「長老達?」
タウロはエルフ自治区のシステムがわからなかったので聞き返した。
「我がエルフ自治区では、基本的にその地域の長老達によって物事が決まっていきます。その中で一番の決定権を持っているのは自治区の中心である森林の街の長老会議二十人ですが、普段は各地域の長老達が会議を開いて問題の解決を行っています」
「それだと意見がバラバラになりそうじゃない……?」
エアリスが呆れて指摘をする。
「長老は文字通り、エルフの中でも歳を重ねた者達で、その見識には大差がないと言われています。ですから、竜人族との古の盟約についてもしっかり語り継がれてきており、その内容についてもエルフ内で語り継がれ、周知されています」
検問所のエルフはそう説明し、ラグーネと視線が合うと慌てて会釈した。
「その長老会議はどのくらいかかりそうですか?」
タウロがいつ判断が下されるのか聞いた。
「この数年の関係断絶状態以来初めての出来事なので、数日、もしくは数十日くらいでしょうか? 長老方は気長な方が多いので少し時間はかかるかもしれません」
「「「ええ!?」」」
タウロ一行は声を揃えて驚く。
エルフの寿命は長いと聞くから、時間の感覚も少し違うようだ。
「そんなに待っていられないぞ。竜人族の私が古の盟約に応じてくれるように求めていても待たせるのか?」
竜人族のラグーネが検問所のエルフに決断を迫る。
「若い私には判断が難しいのですが……、言い伝え通りなら竜人族の方を歓迎する事に問題はないと思うので……、わかりました! どうぞお入りください」
検問所のエルフはそう言うと自分の判断で門を大きく開き、中に入る事を許可した。
「王家の威光よりも竜人族の方が強いとはね……」
タウロが苦笑してエアリスにそう漏らした。
「この南西部一帯はそれぞれ歴史があるみたいよ。このサート王国自体は数百年ほどの歴史があるのだけど自治区のいくつかはその前から存在し、動乱時代を乗り越えて現在の形になっているみたいだから竜人族との関係性の方が古いという事はあるのかもしれないわ」
エアリスが貴族の嗜みとして覚えていた歴史をタウロに軽く披露した。
「竜人族の村は千年近くの歴史があるけどな!」
ラグーネがサラッととんでもない事を言うのであったが、それだけの歴史があれば、エルフ自治区に恩を売る機会も沢山あった事だろう。
古の盟約が結ばれた経緯はわからないが、エルフ自治区が出来た事に関係しているかもしれない。
それくらい重要視されているもののようである。
タウロ一行は、検問所の門を潜って中に入ると視界に広がったのは牧歌的な草原が広がるのどかな風景であった。
検問所とその周辺は石の壁で囲まれ、部外者の侵入を絶対に許さないと思わせるものであったから、中との違いに少し驚く。
「道案内に私が同行します。──あとは頼んだ」
検問所のエルフはそう言うと残り一人しかいないエルフに検問所を任せる。
こうして、検問所到着から半日経ってようやくエルフ自治区内部に入る事が出来たのであった。
道案内を買って出てくれたエルフは、グラスローと名乗った。
グラスローはガロに恐る恐る跨る。
そして、自治区の中心である森林の街への道を示してくれたので、ガロはいつものようにその大きな巨体に反して軽やかに空を飛ぶように疾駆した。
「風を切るとはまさにこの事ですね──」
グラスローはガロの乗り心地に感動する。
そして続けた。
「──私達エルフの中にはこのまま外部との接触を断ち、自治区内で完結するシステムを作る事が必要だと訴える長老達もいます。ですが、このような乗り物を体験すると外の世界を知る事がとても重要だと思いました……。──あ、右の道に入ってください」
エルフのグラスローは自治区の内情を少し漏らすと嘆息して道案内をする。
道の先は背の高い木々に囲まれた森に続いていて、道に陰を落として暗いくらいだ。
そこをガロが突っ切っていくと、急に明るい場所にでる。
どうやら、検問所から一番近い村に到着したようだ。
そこは木の上に家がいくつもあり、中には大きく太い木をくり抜いて中に住んでいるのか生活の灯りが見えるところもある。
木々同士には橋が掛かっていて移動が容易になっており、上からタウロ達とガロの姿を見てエルフ達が驚いている様子が窺えた。
「……今日は、ここに滞在して明日、森林の街へと向かいましょう。この村の村長は森林の街の長老会議の議員を務めた事もある長老なので、話を通しておくと問題がないと思います」
グラスローはそう言うと、ガロがひらりと降りると、木の上でこちらを見ているエルフの一人に、
「グラスローだ! 村長に竜人族の客人達を連れてきたと伝えてくれ!」
と声を掛ける。
その言葉に村のエルフ達は明らかに驚く様子を見せると、村長の下に数人が木々に通された橋や階段を駆けていく。
「村長にはすぐに会えると思うので、みなさんの目的をそこで直接お伝えください」
グラスローはそう言うと、他の木の上から降りて集まってきたエルフ達に説明をするべく間に入る。
「また、時間がかからなきゃいいけど……」
タウロはこの親切な道案内人グラスローの言う、すぐに会えるというエルフの感覚がどのくらいの時間が必要なのか皆目見当がつかないのであった。
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