第544話 お仕事選び

 スウェンの街に戻ったタウロ一行は、一躍有名人になっていた。


 いや、元々タウロの偽者一行のせいで、チーム『黒金の翼』と名誉子爵タウロの名は有名になっていたのだが、今回は事情が違う。


 その偽者を本物が退治したという話だ。


 偽者一行はタウロ(偽者)の『魅了』能力で全体的に評判が良かったから、それが偽物であった事への驚きが第一であった。


「以前の偽者タウロ殿一行にはクエストで同行したが、金払いも良いし、良い人だったんだがなぁ」


「なぜか突然現れてすぐに男女問わず人気があったよな?」


「本物はどうなんだ?十四歳で名誉子爵になるような人物なんだろ?」


「一年失踪していて、偽者が現れたら突然この北部に現れるって胡散臭くないか?」


「「「確かに」」」


 といった感じで、偽者に人気があった為、本物の出現には色々と懐疑的な意味合いでこの数日の間にタウロ一行は有名人になっていたのだった。


「……なんかやりづらいね」


 タウロ達が冒険者ギルド・スウェン支部に入るとそういう話が冒険者達の間でされているので苦笑した。


「私達は本物なのだから胸を張りましょう。それにこの一年で実力も付けたのだからギルドランクに恥じない強さも備わったはずよ」


 エアリスが胸を張ってタウロを励ます。


「そうだぜ、リーダー。この北部に来たタイミングが悪かったせいでおかしな事になったが、本物のリーダーが悪く言われる筋合いはないからな。気にする必要はないさ」


 アンクも、タウロの背中を軽くポンと叩いて後押しする。


「そうです!タウロ様の素晴らしさをみんなにこれから知らしめましょう!」


 シオンも握り拳を作ってタウロを励ました。


「冒険者だからクエストの結果で示せばいいのだ。行くぞ、タウロ!」


 ラグーネがアンクと同じようにタウロの背中を叩いて受付に行く。


「あ……、『黒金の翼』のみなさん。奥にどうぞ」


 受付嬢は本物のタウロ一行にまだ慣れないのか複雑な表情で出迎えると、Bランク以上の冒険者用掲示板のある部屋に通す。


 タウロ達はそれに対しては何も言わず、黙って掲示板に目を通す事にした。


「……結構、色々あるね」


 タウロは北部の大きな街の冒険者ギルドであり、帝国との国境近くの街という事からか珍しいクエストが多い事に感心した。


「本当ね。このクエストなんて珍しい薬草の採取だけど、予定期限が六か月よ」


 『黒金の翼』の長い間の基本クエストである薬草採取をまずチェックするのはエアリスらしい。


「こっちのクエストは国境線のアンタス山脈に入ってのBランク帯魔物の討伐だが、これも期限が六か月だ」


 ラグーネもこの支部にあるクエストの攻略難易度が高さそうだと驚き交じりにタウロに知らせる。


「ここの領主の依頼も混じってるな。かなり新しいみたいだ。何々……、王家直轄領軍事施設の責任者である将軍の個人情報収集……出来れば弱みになるものが好ましい、って、本当に犬猿の仲だな、こりゃ」


 この街の領主と軍事施設の将軍との犬猿の仲は将軍自身からも聞いていた話だから、アンクが呆れてクエストを掲示板に戻す。


「こちらのは国境付近の村を荒らす魔物の捕縛というのがありますよ。討伐じゃないのって珍しいですよね?」


 シオンがクエストをひらひらとなびかせながら報告した。


「とりあえず、エアリスの見つけた薬草採取と、ラグーネの見つけたアンタス山脈周辺の魔物討伐は長期間だから並行して受けようか。アンクのは却下として、シオンのは捕縛には他の冒険者も雇わないと厳しいだろうからそれも却下かな。──これならどうかな?『古代地下遺跡の守護者討伐』だって。あ、これ、A-ランクチーム『青の雷獣』から出されている同行チーム募集だけど、いいかな?」


 タウロは募集要項に、『※特に支援系を得意なチームを求む』と書いてある。


「これなら、リーダーは弓の使いで光魔法、闇魔法、どちらもいけるし、エアリスは魔法も治癒もいける。ラグーネは防御系の支援が得意だし、シオンも『光魔道僧』だから問題無し。俺は……、まあ、攻撃一辺倒だから求められてないが、四人もいれば喜ばれるだろう」


 アンクは基本的に物理攻撃担当だから、自分の役目は護衛役だな、と付け加えた。


「古代遺跡の守護者討伐? ダンジョンじゃないのね?」


 ダンジョンには人一倍詳しいエアリスは不思議そうにタウロの持つクエストを覗き込む。


「この古代遺跡の守護者というのは、ゴーレム系とか四足歩行の人面動物系、もしくはドラゴン系とかな?」


 タウロが予想を口にした。


「古代遺跡自体が本物なのかしら?」


 エアリスが可能性の低さを指摘する。


「詳しくは受付で聞いてみよう。あ、でも、みんなこれで良い?」


 タウロはみんなに確認をする。


「「「「いい(ぜ)(ぞ)(わよ)(です)」」」」


 四人がタウロの選択に口を揃えて承諾した。


 タウロはそれを確認して受付に持っていき、そして、説明を求めた。


「この薬草採取は、他のチームも引き受けてくれていますが、今のところ発見報告がありません。一応、過去の情報ですが、国境付近のアンタス山脈山中で見かけたという報告があるので、そちらを参考にしてください。アンタス山脈でのBランク帯魔物討伐は、オログ=ハイと呼ばれる新種と思われる人型魔物です。徒党を組み、頭もよく、一体一体がとても強いので北部の冒険者ギルドでは連携して討伐にあたっています」


「ああ、それなら、僕達も他所の冒険者ギルドで討伐しているので大丈夫そうです。最低討伐数はいくつですか?」


「そうなんですか!? 最低討伐数は『五体』です。高ランクの冒険者チーム複数での討伐必須なのですが、みなさんは……?」


 受付嬢は協力する他のチームの募集をうちでやるかという疑問も含めてタウロに聞いた。


「それなら、前回は『黒金の翼』単体で『十五体』討伐出来たので大丈夫です。──それじゃあ、最後の古代遺跡のクエストですが──」


「単体で十五体ですか!?」


 受付嬢はサラッと話を進めるタウロの言葉を流せず、驚いて話を戻す。


「じゅ、十五体ですよ!? オログ=ハイという魔物は、単純に上級冒険者チーム三組を相手にするような相手ですから、あまり、その誇張しない方が……」


 受付嬢はタウロが大袈裟に言っていると思ったのか、ほらを吹く子供に言い聞かせるように遠回しに注意した。


「マンデークの街で討伐実績があるので確認してください」


 タウロはその新種を発見して討伐したのが自分達だという事をタグを提出して確認してもらった。


「! ──も、申し訳ありませんでした! みなさんのお陰でオログ=ハイの情報共有が出来ていたのに、討伐したチームについては共有出来ていませんでした!──それとなんですが……、ギルドの賠償問題についてもお話が……」


「偽者一行のあれですか?」


タウロの口座から結構な額が使い込まれていた件の事だ。


「はい……。実は今、手続きの事で各方面と揉めている最中なのでもう少し、お待ちください!本当に申し訳ございません!」


 受付嬢は新種の魔物を唯一討伐した事と偽者の一件についてタウロ達に何度も平謝りするのであった。

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