第540話 二人のデート
タウロとエアリスはスウェンの街で初めてのデートをしていた。
と言っても、タウロはデートなんてした事がなかったから、普段と同じように街を散策し、どこに何がありどこのお店が安く、どこのお店が良い品質のものを扱っているのかをタウロの能力『真眼』を使って鑑定し確認する。
それらの結果をエアリスに話し、チームで欲しいものがあったら、購入を決めるというものであったから、それをデートと言っていいものか困るところではあった。
しかし、エアリスは終始笑顔でご機嫌だったので、間違ってはいないようだと、タウロは安堵する。
そんな中、
「ここのお店には品質の良い醸造アルコールが置いてあるから、購入していいかな?」
とタウロはふと何かを思い出したように、エアリスにお願いした。
「醸造アルコール?お酒でも造るつもり?タウロは未成年だから飲まないわよね?」
お酒を飲むのがアンクとラグーネで、エアリスは嗜む程度であり、タウロとシオンはまだ未成年で飲めない。
「ちょっと、『みりん』を作りたいなと思って」
「『みりん』?」
エアリスは首を傾げた。
いつもの事ではあるが、タウロは不意にこういった事をよく言いだす。
「うん。『みりん』があると色んな料理に使えるんだけど、今回はあるものを作りたいなと思って」
タウロは良い事を思いついたとばかりに言う。
「あるもの?」
「うん。ちなみにエアリスの思う簡単な料理って何?」
「簡単な料理?……うーん、サラダとかお肉料理とかかしら?お肉は焼いて塩でも振ればすぐ出来るし」
「そうだよね?簡単で定番の料理と言ったらお肉料理。そのお肉料理を美味しくする為のものを作ればみんな喜ぶかなと思ったんだ」
「それに必要なのが、『みりん』って事?」
「うん。あとは完成した時のお楽しみという事で、醸造アルコールを購入するね。──すみません!この中樽だと今いくつ売ってもらえますか?」
タウロの買い物は基本大人買いである。
特に食に関する時には羽振りがよく、良い品だとわかると店頭のものを買い占める事はよくあった。
エアリスもそれを承知しているから当然のように見守っていたが、店主は美女を連れた子供が醸造アルコールを中樽でまとめて購入しようとしてきたから驚きである。
「坊ちゃん。お酒でも造るきかい!?」
「いえ、料理用なので安心してください」
タウロは店主の驚き交じりの質問にも笑って答える。
「この中樽は店頭に並べている三樽とお店の奥の大倉庫に八樽あるが……、さすがに買っても持って帰れ──」
「じゃあ、それ全部買います」
タウロはそう言うと金貨の入った袋を出す。
「えー!?」
羽振りの良いタウロに驚く店主であったが、それよりもっと驚くのはマジック収納持ちでその中樽十一個が一瞬で消えてしまった事である。
お届け先を聞こうとした矢先に、それであるから店主はいろんな意味で度肝を抜かれるのであった。
「それじゃあ、『みりん』を作りたいと思います。タララッタッタタタタ♪タララッタッタタタタ♪タララッタッ──」
タウロは街の外れの広場で、マジック収納から調理用のかまどと机、椅子を用意すると、上機嫌で前世のどこかで聞いた事がある料理番組の音楽を口ずさむ。
エアリスはいつもの調子のタウロなので、デートだという事も忘れて楽しそうにその様子を眺めている。
「まず最初に、もち米、米麴、醸造アルコールを用意します。材料が揃ってるので創造魔法でも作れますが、今回はエアリスが見ているのでわかりやすくそれらを合わせて混ぜます……。──そして混ざったものを闇魔法で熟成させます。──これで、完成です」
タウロは簡単な説明で中樽一個分のみりんをあっという間に作ってしまう。
「え、もう、完成なの?」
エアリスはあまりに一瞬の出来事に聞き返した。
「これからが本題だからね。この『みりん』を使用してあるものを作るよ」
タウロはそう言うと、今度はマジック収納から色々な香辛料などを出し始めた。
そして、続ける。
「用意するものは、王都の市場やグラウニュートの領都などで入手したニンニク、生姜、唐辛子を細かく刻んで炒め、胡椒、砂糖、はちみつ、白ごま、ごま油、そして、創造魔法で作った醤油の実の中身と、今作った『みりん』を加熱しアルコールを飛ばした後に一緒に混ぜるよ」
タウロは慣れた手つきで、それらの分量を考えながら調理すると樽に入れていく。
「……材料を見る限り、料理ではないような?」
エアリスは話の流れから新しい料理を思いついたのかと思っていたから首を傾げた。
「ふふふっ。エアリス、これは画期的なものだから驚くよ?」
タウロは樽の中身を混ぜ棒で捏ねながら自信満々に答える。
エアリスはその樽の中身を確かめるように傍で覗き見た。
するとニンニクの独特の香りが匂う。
「最後にレーモンの汁を入れ、酸味と風味を足して完成!」
ニンニクの香りが強かったがレーモンの香りが足されて爽やかさがプラスされた。
「結局、これは何なの?」
エアリスには何かの液体であること以外に判断が付かない。
「ふふふっ!これはね?お肉が美味しく頂ける『焼肉のタレ』だよ!」
タウロは自慢気に言い放った。
「『焼肉のタレ』?」
「うん。お肉を焼いてこれに付けて食べるだけでお米が進む事間違いなし!あ、パンに挟んで食べても、とても美味しいよ」
タウロは善は急げとばかりに、マジック収納から新鮮な魔物のお肉を出して、かまどに鉄板を置き、その上で焼き始める。
フォークとお皿、たれ入れ用の小皿をエアリスに渡し、樽いっぱいのタレをおたまですくってその小皿に入れた。
「お肉焼けたから、タレに付けて食べてね。今回はパンに挟んで食べても良いよ」
タウロはそう言うと、エアリスの皿に薄焼きにしたお肉を乗せ、籠に入ったパンも渡す。
「……シンプルな料理だけど……」
エアリスはいくらタウロが自信満々に勧めていても、あまりに単純な料理だったので、どう評価しようかと考え慎重に肉を口に運んだ。
だが、その心配もあっさり吹き飛んだ。
「……え?……お、美味しい!──何これ!?本当にお肉に『焼肉のタレ』?を付けただけなのに、ちょっとピリっとする辛さとお肉を引き立たせる濃厚な味。レーモンの酸味と風味で後味もさっぱりしているわ……!」
エアリスはタウロに勧められるまま、薄く切ったパンに挟んで食べると、また、その美味しさに喜ぶ。
「……確かに、タウロがお米やパンに合うって言ってたのがわかるわ。濃い味がパンと一緒に食べる事で丁度良くなる!」
エアリスは先程の期待していなかった時とは打って変わって大絶賛である。
「これで僕が求めていたお肉最強のソースが、完成だよ!」
タウロは喜ぶエアリスの笑顔に満足しながら、一緒にお肉を頬張るのであった。
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