第539話 二人の進展

 タウロ一行は、北部でのとりあえずの活動場所にスウェン伯爵領領都にある、冒険者ギルドスウェン支部を選んだ。


 北部国境線に近く、大きな街である事も選ぶきっかけになった。


 帝国の情報収集には持って来いだろうし、何よりこの地の利点から、帝国の間者もこの街に拠点を置かないわけがないだろうと考えたのだ。


「一晩寝て十分休憩も取れたし、冒険者ギルドに行こうか」


 宿屋の食堂で、タウロがエアリス達に提案した。


「おいおい、リーダー。たまにはもう一日くらい休み取って、この街の観察とかしてこいよ。そうだ、丁度いいからエアリスと二人で行って来な」


 アンクが気を利かせたつもりなのか、それともこの街で遊びたいからか、提案してきた。


「そうだな。私もこの街に竜人族の仲間がいないか回ってこよう」


 ラグーネもシオンの腕を掴んでアンクの案に賛同する。


「?──みんながそう言うなら別に良いけど……、エアリスもそれで良い?」


 タウロは静かでいるエアリスに確認した。


「タウロがいいなら私も一緒がいいわ」


 エアリスは精一杯に控えめなアピールをする。


「──わかった!それじゃあ、僕とエアリスは一日デートしてくるから、みんな後はよろしく!」


 タウロは冗談のつもりなのか軽いノリで言うと、傍のエアリスは顔を真っ赤にした。


「……リーダーの口からデートなんて言葉が出てくるとはな……。おじさん、成長が見られてちょっと感動したぞ……」


 アンクが冷やかしなのか本気なのかわからないトーンで目頭を押さえる素振りを見せる。


「はははっ!後は若い二人に任せて、私達は退散しよう」


 ラグーネが小姑のような立ち位置なのか、シオンの腕を引っ張る。


「ボクも若いですよ?」


 シオンはラグーネの冗談がわからなかったのか、自分を指差して「?」を頭に浮かべた。


「ただの冗談だからいいんだよ。──ほら行くぞ」


 アンクがもう片方のシオンの腕を掴むと食堂から出ていく。


「デートって冗談にみんな食いつくなんてなぁ、ははは……。──うん?エアリス?」


 エアリスはタウロの傍で顔を赤らめて、もじもじしている。


「……デートでお願いします……」


 エアリスは勇気を出して消え去りそうな声でぽつりと言った。


「え……!?」


 さすがの朴念仁タウロも、このエアリスの恥じらう様子と直球な言葉に、本気を感じたのか何も言えなくなった。


 そういう事なの……?


 とタウロは内心思う。


 もちろん、タウロはエアリスの事について、最近は特に綺麗に思えたし、性格もよく、何より友人としても冒険者仲間としても相性が良く、とても好きだった。


 だから一緒にいて安心も出来る。


 だが、前世でも彼女を作らず、魔法陣研究に青春を捧げて来た身だったから、恋愛関係には疎すぎた。


 今世でも異世界での冒険が楽し過ぎて恋愛とは無縁だったから、その適性は疑わしい。


 しかし、エアリスにここまで言わせて気づかないほど馬鹿でもなかったから、それに気づいた瞬間、自分の顏が熱くなるのを感じた。


「そ、それじゃあ、行こうか……!」


 タウロは顔を赤らめて俯き加減のエアリスの手を掴む。


 エアリスも嬉しそうに顔を上げると、


「うん!」


 と答えて二人は食堂を後にスウェンの街で初めて、意識したデートをするのであった。



「……リーダーも、もう十五歳だからな。エアリスは十七歳。このくらいは進展してくれないとさすがに不憫すぎる」


 アンクが、ラグーネ、シオンの三人で建物の片隅からタウロとエアリスが出かけるのを見送りながらつぶやく。


「タウロもようやくエアリスを意識してくれたようだから、良いではないか」


 ラグーネは二人が楽しそうに歩いて行くのを見届け、嬉しそうに答えた。


「……お二人ってさすがにもう、付き合っていると思ってました……」


 この一年の『竜の穴』修行中もタウロの傍で頑張っているエアリスを見ていたので恋愛については同じく鈍い方であるシオンでもそう思っていたのだ。


「あの二人は恋愛に関して元が鈍いからなぁ。そこに来てリーダーがあれだろ?エアリスも自分の気持ちに気づいて積極的になりつつあったが、鈍すぎるリーダーにはそれでも気づかないという状況だったから、今回はエアリスが頑張ったよ」


 アンクは大人の恋愛上級者気取りで解説した。


「アンクは恋愛というより、娼館通いしているだけだがな」


 ラグーネが白い目でアンクをじっとり見つめる。


「お、俺の事はいいんだよ!ラグーネももう、十九歳だろ?そろそろ良い男の一人や二人みつけろよ!」


 アンクは矛先が自分に向いたので慌てて逸らそうとした。


「私はこれでも竜人族の村では言い寄ってくる男もいるのだぞ!」


 ラグーネはアンクを言い負かそうと自慢気に答える。


 そう、ラグーネは黙っていればとても美人だし、そのスタイルは抜群であったから、モテないわけがない。


 だが、『黒金の翼』の一員となってからは、その周囲に男の気配を感じた事がなかったから、アンクはそのモテるという事実に驚いた。


「そ、そうなのか!?……なら、なんで男の影がないんだよ」


 ラグーネに当然の質問が返ってきた。


「……私達竜人族は元々長命な種族。恋愛についても気長なのだ。もちろん、好きなタイプはいるし、その辺はちゃんと考えて行動しているからいいのだ」


 意外な言葉がラグーネから返って来てアンクとシオンは驚く。


「え、そうなんですか!?ラグーネさんの好きなタイプってどんな人です?」


 シオンが俄然興味を惹かれて質問した。


「……そうだな。日頃だらしなかったりしても、いざという時、背中を任せられるような頼りがいがあるギャップのある男が好きかもしれないな」


 ラグーネが気恥ずかしそうにだが、シオンに対して真っ直ぐに答えた。


「へー。その特徴なら、アンクさんタイプが良いかもしれないですね!」


 シオンがどう解釈したのか不意にアンクの名を口にした。


「「!?」」


 アンクはラグーネの好きなタイプの特徴を聞いて、誰だろうかと竜人族の知っている人物の顔を思い出しながら頭を巡らせていたから、シオンの言葉に意表を突かれた。


 ラグーネもシオンの指摘に意表を突かれたのか、アンク同様驚く。


「「ば、馬鹿を言うな!」」


 ラグーネとアンクは口を揃えてシオンの指摘を否定すると、後ろを向いて表情を隠すのであった。

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