第529話 近道

 タウロ一行は、タウロが本物である事を証明する為、北部国境付近で一番大きい街スウェンを目指す事になった。


「マンデーク支部長カイさんの話だと、真っ直ぐ横断して西には行けないみたいだね」


 タウロはスウェンの街方向に向かう乗合馬車を一台借りてその中で地図を広げ、エアリス達に指し示した。


「王国の軍事施設があるから進入禁止に指定してある領域が間にあるのよね?」


 エアリスが地図を指して言う。


「それならリーダーは名誉子爵だし、王家直轄領の施設全般の出入りが許可されているからそのまま突っ切れるだろ?」


 アンクが後ろから地図を覗き込んで指摘した。


「そうだった!一年前に言われた事だから忘れてたよ。でも、軍事施設領域まで入れるのかな?」


 タウロの疑問ももっともだ。


 軍事施設といったら、機密情報も多そうなものである。


 いくら色んな許可が下りる王家の許可証を持っているとはいえ、そう都合よくはいかないだ──


「──通れたね……」


 乗合馬車と一緒には無理であったが、検問所でタウロが許可証を見せると、通過する事を許された。


「意外にあっさりだったわね……」


 エアリスも検問所で兵士達が慣れた感じで通した事に軽く驚く。


「しかし、あの兵士、『話は聞いています。どうぞ!』と、通してくれたが、話とはなんだ?」


 ラグーネが検問所の兵士の対応について疑問を口にした。


「それは俺も気になった。初めてじゃないような口ぶりというかな」


 アンクも気になっていた事を言う。


「そうだよね?僕も一年前の通達が昨日今日来たのかなと思っちゃうような対応の仕方に感じた」


 タウロもみんなの指摘から、不審に思っていた事に賛同した。


「でも、このままスウェンの街まで近道していけるから良いじゃないですか!迂回路だったら一週間かかるところを直進なら四日なんですから」


 シオンは前向きに言う。


「そうなんだけどね?──まぁ、僕も早く本物である事を証明しないといけないから近道できた事を喜ぶのが先かな」


「──そうだな。今、リーダーは些細な事を気にしている場合じゃないか」


 タウロの偽物がいる事が一番の問題であったから、アンクにとってもスウェンの街に向かうのが一番の目標である。


 これには全員も同じ考えで頷くと、軍事施設のある領域を横断すべく歩みを進めるのであった。



 軍事施設のある領域はいたるところに検問所がある。


 タウロ達は三つ目の検問所で同じように、王家の証明書である金属の板を兵士に見せた。


「た、確かに。……おかしいな。みなさんは名誉子爵でもある冒険者チーム『黒金の翼』で間違いないですよね?」


「はい。それがどうかしましたか?」


「あ、いえ……。前回通過された時と雰囲気が大分違うなと……。自分は遠目にだったのですが、前回はみなさんフードを目深に被っていたのではっきりと姿を確認していませんでしたが、今回は雰囲気が軽いというか、和やかというか……」


「「「「「前回?」」」」」


 タウロ達は検問所の兵士の言葉に引っ掛かった。


 それはそうである、前回も何もここに来るのは初めてなのだ。


 だから目撃されているわけがない。


「ええ。数日前に軍事施設内を一通り見学されていかれたかと。あの時は六人でしたが……。うん?今回は五人……?タウロ殿、少々お時間を頂けますでしょうか?よろしければ詰所の方に来て頂きたい」


 兵士はタウロ達の人数に引っ掛かり、明らかに疑って道を塞ぎ、協力を申し出て来た。


 これは、詰所で拘束されるパターンだ。


 だがしかし、ここで抵抗しても誤解を招くだけだろう。


 これは多分、偽物のタウロ一行が先にこの領域に足を運んでいたという事だ。


 それなら、最初の検問所での対応にも腑に落ち落ちた。


「……みんな、大人しく従おう」


 タウロはエアリス達に抵抗しないように伝えると、詰所まで行き、大人しく拘束されるのであった。



「よく出来た王家発行の証明書だな。俺の鑑定能力でも本物と表示されやがる」


 タウロを尋問している兵士が、タウロが提示した証明書を手にして呆れるフリをした。


「本物ですから当然ですよ」


 タウロは拘束されて数時間。


 同じ様な尋問を何度もされていた。


「そんなわけがあるか! 名誉子爵である冒険者チーム『黒金の翼』は数日前に、うちに訪れている。その時にタグも記章も本物だと確認しているんだ。お前のタグは田舎街が急遽発行したタグじゃないか。どちらが怪しいかと言えばこっちしかないだろう。そんな奴の持つ王家発行の証明書が本物だと思うか?思うわけがないだろうが!」


 兵士は机を叩くと、憤った。


 そして続ける。


「ちっ。子供だと思って手加減していたが仕方ない。──おい、拷問するぞ。裏を吐かせる。こんな精巧な作りの偽物を用意するような連中だ。帝国が関わっているかもしれん。早々に吐かせよう」


 兵士は溜息を吐くと、嫌な仕事だと言わんばかりに部下に命令する。


「なぜ先に来た連中の方が、本物だと思うんですか? そちらが偽者だから王家発行の証明書を提示しなかっただけでは? それに機密が多い軍事施設内を見学して回った時点でそっちが怪しいと思うべきでしょう。僕達は領地内を通過しようとしただけ。目的が違い過ぎますよ」


 タウロがもっともと思われる指摘をした。


「……。俺の鑑定ではこの王家発行の証明書もこの小僧の身元も大した事がわからん。──おい、誰か! 研究所の上位鑑定士を呼んで来てくれ!」


 タウロの言葉に兵士は、もっともな指摘をされたと思ったのか、さらなる鑑定をさせようと命じた。


「……しばらく待て。もし、それで鑑定結果で偽物と発覚したらその時は、改めて吐いてもらうぞ」


 兵士はタウロ相手でも加減しない事を宣言するように厳しい顔つきで迫ると、床に固定された机と椅子しかない無機質な部屋から出て行くのであった。


「近道のつもりが遠回りになりそう……。みんなは大丈夫かな?」


 タウロは溜息を吐くと、他のみんなも無事か心配するのであった。

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