第527話 冒険者活動再開

 タウロ達一行は一年振りの冒険者活動という事で、マンデークの街で一時活動する事にした。


 そして、すぐに冒険者ギルド・マンデーク支部でチーム『黒金の翼』は有名になる。


 一応、タウロは名誉子爵を証明する記章については、普段、マジック収納に入れて黙っていた。


 だが、余所から来た子供がリーダーの一流冒険者チームである。


 目立つなという方が不可能であった。


 それにタウロ達はチーム単独でBランク帯のクエストを一日で完了させてしまう。


 これには支部内の他のBランク帯冒険者チームも息を呑んだ。


 なにしろBランク帯クエストの多くは時間を掛けて攻略するのが当然という難しいものが多く、Cランク帯、Dランク帯の冒険者チームを助手に雇って複数チームでクリアする事が常識となっている。


 それが効率が良く、生存率が上がるからだ。


 だが、『黒金の翼』はBランク帯魔物の討伐をソロで引き受け、現地で道案内を雇う以外、他に助手となるチームを全く雇わず、短期間で攻略、帰還してくる。


 もちろん、苦戦した様子は無く、子供のリーダーが涼しい顔で「大変でした!」と言われても違う意味で説得力がない状態だ。


 一般冒険者の中には、ズルしているのではないか?と疑う者もいたが、Bランク帯の冒険者達は、Bランク帯のクエストがズルでどうにかなるものではない事をよく知っている。


 さらに伝説の魔物バジリスク討伐を『北風の牙』と一緒に果たしたチームである事も、一部の上位冒険者のみ閲覧が許可されているマンデーク支部クエスト報告書から知られていた。


 これが、『黒金の翼』単体だったら説得力はなかったかもしれない。


 だが、報告書は支部の有名チーム『北風の牙』が作成したものだ。


 そのチームリーダー・カンタロが、自分達はなす術もなく全滅しかけて、そこを『黒金の翼』に助けられた。と記述されているのだから、単独討伐したようなものだろう。


 討伐内容については『黒金の翼』のリーダー・タウロが、「バジリスクは強かったけど、どうにか倒せました」の一文だけで、終わっていたからその時の状況を推し量れないのがもどかしい、とクエスト報告書を閲覧した上位冒険者の感想であった。



「リーダー。報告書のあの内容、わざとだろ?」


 アンクが、支部で噂になっている、


「バジリスク討伐クエスト報告書」

 報告者:『北風の牙』カンタロ『黒金の翼』タウロ共同


 の内容について指摘した。


「だってあれ以上説明のしようがないじゃん。僕達、状態異常耐性持ちだから石化を恐れず突っ込んでいけるけど、そんなの書いても参考にならないでしょ?」


 タウロがこういうのも仕方がない。


 報告書というのは、今後の冒険者達の魔物討伐の参考にもなる。


 だが、参考にならない討伐状況を記して、真似される方が危険なのだ。


 だから、タウロは「子供の語彙力」ではこれが精一杯という文章で済ませた。


 受付の男性からは、もう少し詳しく書いてもらえませんか……?


 と、求められたが、タウロがわざと擬音多めで「ここでズバッとなって、グサッと止めを」と答えるから、男性受付はお手上げである。


 他のメンバーに説明を求めたがタウロに任せているの一点張りで全員拒否。


 結局、バジリスクの実物もあるから、冒険者ギルドはその報告書で手を打った形である。


 他の冒険者からするとバジリスクの討伐資料としては役に立たない内容であった。


「それよりも、久し振りの冒険者活動は楽しいな!」


 ラグーネが、冒険者ギルドの外に出るとそう漏らす。


 もう、活動を再開して四日が経つ。


 わずか四日でタウロ達『黒金の翼』は、すでに三件のクエストを完了するという結果を残していた。


 これが、Cランクや、Dランククエストならやれない事も無いのだが、Bランク帯クエストとなっては次元が違うから、その評価は新天地でうなぎ上りである。


「今日の討伐対象だったオログ=ハイは強かったですよね!」


 シオンが楽しそうに言う。


「トロルの上位種らしいが、確かに硬いし強かったな、あれは」


 アンクも同意して頷く。


「そうだな。数も多かったし、ああいうのが相手の時は人を雇った方が良いのかもしれない」


 ラグーネはクエスト受注の時に男性受け付けが再三、助手を雇いませんか?と、言っていた事を思い出した。


「今回のクエストは仕方ないよ。そもそも、受付も『オログ=ハイ』という魔物を知らなかったし、自然発生した魔物でもなさそうだからなぁ。どっちかというと発生原因の調査に人が必要なのかなと思う」


 タウロも討伐後能力の『真眼』で『オログ=ハイ』なる魔物の死骸を調べたが、「人為的に生み出されたトロルの上位種の死骸」という情報だったのだ。


「この国境線って珍しい魔物が多いわね。クエストも『正体不明の魔物調査、またはその討伐』とか数件あるし。この支部のBランク帯ならではなのかしら?」


 エアリスが不思議そうにタウロに質問した。


「どうだろう? 今回の『オログ=ハイ』に関しては人為的に生み出されたというのが、どうにも引っ掛かるんだよね……。強力な魔物なら竜人族の村周辺の未開の地であるアンタス山脈地帯にも沢山いるけど人為的という事は自然発生ではないわけだから、胡散臭くない?」


 タウロは『真眼』の鑑定結果を踏まえて答えた。


「ここは北の帝国との国境線だし、色々ありそうね……」


 エアリスもタウロの返答に理解を示すと、あまり関わりたくないという顔をするのであった。

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