第526話 口止め交渉
タウロは冒険者ギルドで口座の凍結手続きと共に、Bランクチーム『北風の牙』が受けていたクエストの完了手続きを代理で行う為に、奥の特別室で男性受付に事情を説明した。
「『北風の牙』さん達のクエストに参加を?」
男性受付はタウロの口から支部の有名チームの名が出たので驚いた。
「はい。その証拠に依頼主である村長とリーダーのカンタロさんに一筆書いてもらいました。あと、これがクエストの依頼内容であった『調査と出来るなら討伐』の対象であったバジリスクの頭部です」
タウロは二通の手紙と討伐対象であったバジリスクの首をマジック収納から出すと提出した。
「ば、バジリスク!?えー!?──当初の話では大きな火吹き蜥蜴だろうというのが大方の予想だったのですが……!?」
「みたいですね。でも、ノルの村のみなさんの証言通り、バジリスクだったので僕達で討伐しました」
タウロはサラッ答える。
「よ、よく御無事で……。──いや、手紙の中身を確認する限り、『北風の牙』のみなさんは全滅しかけた……という事ですか。なるほど……、──わかりました。手紙も本物のようですので、クエスト完了と報酬の一部を『黒金の翼』のみなさんにお支払いします」
男性受け付けはバジリスクの首と『北風の牙』の手紙を見比べ鑑定すると、本物である事を確認して精算を始めた。
一旦隣の部屋に引っ込み、そこから報酬となるお金の入った革袋を持って来る。
「……それではこれが報酬となります。──それとこれは奥に待機している解体作業部の責任者から言伝られたのですが……、討伐したバジリスクの胴体を売る気はないか? という事です」
男性受け付けはタウロにお金を渡しながら、買取の提案をした。
「あ、忘れてました。でもバジリスクの胴体って売れるんですか?」
タウロはマジック収納の肥やしなるかもしれないバジリスクの胴体を思い出して聞いてみた。
「もちろん、売れますよ!というか伝説級の魔物ですから首と繋げてはく製として欲しがる貴族や金持ちは多いと思います。それに内臓、特に火炎袋や石化の視線の元となる眼球、肉なんかも研究対象になったり、あとは珍味として重宝されると思いますので捨てるところはないかと!」
男性受付は熱弁してタウロの説得に移る。
「珍味?それは良いですね。では、バジリスク三体分買い取ってもらっていいですか?お肉の一部はうちに回してもらえると助かります」
タウロは嬉々としてマジック収納からバジリスク三体分を出した。
「え……? うん? ……さ、三体!?」
男性受け付けは目の前に出された大小のバジリスク三体に理解が追いつかず、一瞬固まり、そして驚きのあまり大声を上げた。
「あ……!討伐したのは一体、という事になってたんだった……」
タウロは買取という話につい、他の狩ったバジリスクの遺骸まで一緒に出してしまった事に後から気づいて続けた。
「……すみません。今のは無しでお願いします。一体のみで」
タウロは口をパクパクさせて驚く男性受付にそう答えると大きな一体と小さい一体をマジック収納に納め直した。
「タウロ、何やってるの。それにいきなり数を出すと買い叩かれて値段が下がるから駄目よ」
沈黙を守っていたエアリスが、ちょっとずれたツッコミを入れる。
「二人共そういう事じゃないだろう。この場合、三体も伝説級魔物が出現していた事が問題なんだぜ?」
アンクがタウロとエアリスの失敗を指摘する。
「アンクさん、多分それ以上にソロチームで討伐したボク達も問題かと思います」
シオンがこれまた少しずれた指摘をしたアンクを指摘した。
「はははっ!そういう事か!私は何でキングバジリスクを出さないのかとそっちを疑問に思ってしまったのだが、それも間違いか!」
ラグーネはシオンの指摘を聞いて自分もずれていたかと笑って反省するのであったが、その情報を言うのが間違っている。
男性受付は情報過多で混乱していた。
「え……?ど、どういう事ですか? それにバジリスクが三体も……。あとキングバジリスクって一体何の事……、でしょうか?」
男性受付は一生懸命、タウロに回収されるまで目の前にあったバジリスク三体の情報と聞き慣れぬ魔物情報の整理をヒートしそうな頭で考えながら聞いた。
「えっと……、忘れて下さい……!このバジリスクはそちらの言い値でお売りしますから」
タウロは男性受け付けに名誉子爵の記章をチラチラ見せながら凄みのある笑顔で迫った。
「は、はい……!私は何も見てないし、何も聞いてません……!」
男性受け付けは相手がただの子供チームではない事を思い出して何度も大きく頷いた。
「ご理解頂けて良かった。それでは交渉成立という事で」
タウロは強引な交渉をまとめると内心安堵した。
一年振りに冒険者ギルドに現れて、伝説級のバジリスクを三体も仕留めました、と言ったらみんな疑惑を持つ。
タウロ達のいたノルの村周辺にだ。
目印となる狼巨石から奥は正直危険地帯で、他の一般冒険者が不用意に近づくところではない。
そのバジリスクが出現するような危険地帯を知られれば、必ず自分も伝説級魔物を討伐して名声を得ようと無謀な冒険者達が挑戦するのは目に見えている。
それはつまり竜人族の村に迷惑が掛かる事にもなりかねない。
竜人族の人々は迷いこんだ冒険者達を保護する事もあり、その度に色々動いて大変だと言っていたから、そういう事は避けたいのだ。
だからこそ、タウロ達は口止めに必死になるのであった。
タウロは男性受付に一筆書かせて守秘義務を負わせると、その手に金貨を一枚握らせて退室するのであった。
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