第525話 お金の行方
伝説のバジリスク出現に怯えていたノルの村を助け、そこを後にしたタウロ一行は、一番近い冒険者ギルドの支部があるマンデークの街の城門に到着した。
「城壁は高いけどあまり大きな街ではなさそうだね」
タウロが外から見た城壁の広さから小さい街である事は何となくわかっていたが、城門まで来てそれを再確認し、感想を漏らした。
「北部にはこの手の大きさで城壁が高い街は多いわよ。それに帝国との国境に近いからそれを警戒して防御重視なの」
エアリスがどこで学んだのか知識を披露した。
「エアリス中々詳しいな。それに付け加えると、北部地方は王家直轄領が多く、軍事拠点も多い。よく覚えてないが、この街は確かどこかの子爵の街だ」
アンクは以前来た事があるようでエアリスの知識に補足する。
「アンクが来た事あるなら、道案内お願いできるかい?」
タウロがお願いした。
「本当に傭兵時代、それも、駆け出しで傭兵団に所属してた頃だからなぁ。ここに来たのは国境紛争の時に立ち寄っただけだからほぼ覚えてないが、それで良いならいいぞ」
アンクは苦笑してタウロのお願いに応じる。
こうしてアンクの案内でマンデークの街にタウロ達一行は入城した。
「意外に人が多いな」
ラグーネが街中を眺めながらそう漏らした。
「そうですね。街の大きさに比べたら多いです」
シオンも人通りの多い道を進みながら同意した。
「俺が来た時とは全然変わってるなぁ。確か冒険者ギルドはこの通りにあったと思うんだが……。お、あった!ギルドの場所は変わってなかったか」
アンクは青い屋根の冒険者ギルドを発見して指差した。
これもまた、街の大きさに比べたら意外に大きい規模だ。
「へー、立派な建物だね」
タウロも感心してその建物に歩いていく。
冒険者ギルドは二階建てで広い敷地に建っていた。
タウロを先頭に入っていくと、中は街と同じく混雑して繁盛している様子だ。
受付嬢が、「次の方どうぞ!」と、活気に負けないように大きな声で順番待ちしている冒険者を呼んでいる。
「じゃあ、僕達も並ぼうか」
タウロはそう言うと、一番人がいない受付に並ぶ。
しばらくすると、タウロ達の番になった。
男性の受付がタウロ達を一瞥すると、
「初顔だね?ようこそ、冒険者ギルドマンデーク支部へ。今日のご用件はなんでしょう?活動手続きですか?」
と丁寧に対応してきた。
「はい。活動手続きをお願いします。あと、口座の確認だけ」
タウロは竜人族の村で口座の確認はしていたが、すでに三週間近く経っているから念の為お願いした。
そして、タグを差し出す。
「はい、それではこちらの書類に活動手続きのサインをお願いします。タグは少々お預かりします」
男性受け付けはテキパキと動くとタグを魔道具の上に乗せて確認する。
「!?──チーム『黒金の翼』のタウロ・ジーロシュガー名誉子爵様……ですね?──こちらが残高となります」
男性受け付けはタウロの肩書きを知って一瞬驚いたが仕事だ。
大きなリアクションをしないように澄ましてみせて応対した。
「ありがとうございます。──残高は……と。……?あれ、減ってる?」
タウロは毎月色々な収入が振り込まれるので、貯金が確実に増えている。
それをチェックして多くなる前に一定額引き出してマジック収納に入れているのだが、竜人族の村冒険者ギルド支部で最後に確認した時より、その額が減っていた。
こんな事は初めてだ。
というより、なぜ減っているのかわからなかった。
細かい確認はまた、申請が必要だから、男性受け付けにその確認をお願いする。
「わかりました。少々お待ちください」
男性受け付けはまた、タグを預かって奥に行く。
細かい確認ができる魔道具は奥にしか無いようだ。
しばらくして、男性受け付けが細かい取引が記載された紙を持って来た。
「こちらになります」
タウロはそれを受け取り、目を通した。
あれ? 最近、大きな額が何度も下ろされてる? 昨日もだ……。僕の名で下ろされているけどどういう事だろう?
タウロはその内容に首を傾げた。
「すみません。これ、どこで下ろしたかもわかりますか?」
タウロは男性受け付けに再度確認した。
「? さすがにそこまでは……。お客様自身が覚えていない事には……」
男性受け付けはタウロが不思議な質問をしていると思ったのだろう、困惑して答えた。
……誰かが僕の代わりにお金を下ろしているみたいだ……。どうしよう、念の為、ここで全額下ろして様子を見た方が良い気もするけど、さすがにここでこの額は無理だよね?
タウロの貯金は冒険者ギルド、ガーフィッシュ商会、そして、自身のマジック収納に収めてあり、冒険者ギルドのものは一番少ないとはいえ、タウロがオーナーを務める各カレー屋の収入や、『黒金の翼』設立時のダンサスの村にあるマーチェス商会の収益の一部は冒険者ギルドに毎月振り込まれていて、それは結構な額になっているのだ。
それを誰かに使い込まれているかもしれない。
「……すみません。一時的に口座を止めたいので手続き良いですか?」
タウロは誰かわからない相手にこれ以上自分のお金が下ろされないように対策を取る必要があった。
「え?──……奥の部屋へどうぞ」
男性受け付けは大口顧客であるタウロの申し出に驚いたが、拒否権はないから、タウロ達を奥の部屋に通した。
そこでタウロが不審なお金の流れがあると伝えると、
「……なるほど。口座を一時的に凍結させて下ろせないようにしたいのですね?──わかりました。凍結には数日ほど時間が掛かると思いますが、手続きをします」
と、男性受け付けは納得してくれた。
全額下ろすと言ったらこのような冷静な対応はされなかっただろう。
「竜人族の村で確認した時は大丈夫だったって事は、タウロの貯金が不当に下ろされたのって、この数週間なんでしょ?竜人族の誰かかしら?」
タウロと男性受け付けのやり取りを黙って聞いていたエアリスが、可能性について指摘した。
「どうだろう?竜人族の人がやるなら、いつでもやる事は出来たと思うし、このタイミングでいまさらやるかな?」
エアリスの指摘にタウロは否定的だ。
「恩人であるタウロの貯金に手を出す竜人族は絶対いないぞ!」
ラグーネもタウロの意見に賛同した。
「一体、誰がリーダーの貯金に手を出すんだ?やれそうな身近な人間は俺達だが、一番下ろすのが無理だったのも俺達だしな」
アンクは山の中で二週間ほど迷っていた自分達には犯行は無理だから当然の指摘をした。
「謎は深まるばかりですね……」
シオンが腕を組んで考え込む。
タウロ達は新しい街での思わぬ事態に困惑し、シオン同様、腕を組んで考え込むのであった。
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