第524話 討伐後
バジリスクを相手になす術もなく全滅した『北風の牙』のメンバーは、不幸中の幸いで石化されて時間が経過しておらず、身体の一部も欠ける事無く無事であった事から、エアリス、シオン、そして光の精霊魔法の使い手であるタウロがすぐに治療した事で石化を解く事に成功した。
「ふう……。何とか石化も解けて肌も元に戻ってきたね」
タウロが汗を拭いながら、一息つく。
「タウロ。結局は私達がバジリスクを討伐しちゃったけど、どうするの?」
エアリスも治療を終えて一息つくと、タウロに確認した。
「どうしようか?それにこのバジリスク、キングバジリスクよりは小さいけどバジリスクの個体の中では結構大きい方だよね?これを全滅しかけた『北風の牙』より格下の僕達が討伐したと言っても説得力なさそうだなぁ……。よし、昨日討伐した小さい方のバジリスクと交換しておこう」
タウロはそう言うと、大きいバジリスクをマジック収納に納め、小さい方のバジリスクの遺骸の方をその場に出した。
「いまさら俺達に説得力なんてないと思うぜ、リーダー。一年もの間、冒険者ギルドのクエストを請け負う事無く雲隠れしてたわけだからさ。はははっ!」
アンクがタウロの小さな心配を一笑した。
「そうだった……。でも一応、『北風の牙』の立場もある事だしなぁ。僕らがまぐれで勝てたという事にしておこう。それでお互い、面子も保てそうじゃない?」
タウロはそう決めるとみんなに口止めするのであった。
その日の夜は、『北風の牙』のメンバーの目がまだ覚めない為野宿する事にした。
翌朝、リーダーのカンタロが目を覚ますと、他の仲間も目を覚ます。
そこでタウロが用意しておいたバジリスクの遺骸を見せて説明をし、討伐した事を報告する。
カンタロをはじめとした『北風の牙』メンバーは、タウロ達が討伐した事に一様に驚き、そこで改めてタウロ達にギルドランクを確認した。
「言いそびれましたが……、僕達、B-ランクなんです」
そう言うと、タウロがタグをそこで初めてカンタロ達に見せる。
「その年齢でB-だったのか!──なるほど、それならバジリスクを倒せた事も少しは納得がいく。だがそれでも、今回、討伐出来たのはまぐれだったと思った方が良い。次からは俺達がやられたとしても無謀な挑戦はしてはいけないぞ。ちゃんとした準備も無しにバジリスク級の討伐は厳禁だ」
カンタロは自分達の失敗も踏まえて、ランク的に下のタウロ達が自分達を助ける為にバジリスクに挑んだ事を危険と見て注意を促した。
それは二次被害を避けて逃げるべきだという事だ。
カンタロはそして続けた。
「……とはいえ、俺達が君の判断で助けられたのは間違いない。リーダーとしてお礼を言う。危険な選択をし、助けてくれて本当にありがとう」
そう言ってカンタロが頭を下げると他のメンバーも深々と頭を下げる。
Bランクチーム『北風の牙』はその器も十分、そのランクに相応しいチームであった。
こうして一人も死者を出すことなく、『黒金の翼』と『北風の牙』はノルの村に凱旋する事になった。
「他の男衆から討伐対象がいたとの報告は受けてましたが、無事で良かった」
村長は『北風の牙』がバジリスク遭遇に際し、一緒にいた村人はすぐ村に逃げるように促していたから、その後どうなったのかわかっていなかったのだ。
そして、一晩、音沙汰もなく過ぎたから、最悪の状況を想定していた。
だから、朝一番でタウロ達が帰って来て一安心したのである。
「無傷とはいかないが、このタウロ達の活躍でバジリスクを討伐出来たのは事実だ。もう、安心してくれていいと思う。まあ、俺達『北風の牙』は全滅しかけたから情けない限りだが……。それでだ。まだ、体があまり動かないから数日、ここに滞在させてもらっていいかな?」
カンタロは恥の上塗りと思いつつ、村長に回復の為に滞在期間を延ばしてくれるようお願いした。
「もちろんです!この村の為に体を張ってくれたみなさんを邪険に扱う者などこの村にはおりませんよ!いくらでも滞在して行って下さい!」
村長は、村の危機を救ってくれたタウロ達冒険者に感謝するのであった。
タウロ達一行は、『北風の牙』をノルの村に任せて、近くの冒険者ギルドがある街に向かおうかと話し合った。
「それならバジリスク討伐について、ギルドには君達が説明して討伐報酬は全て貰ってくれ」
カンタロはそう言うと、ギルド宛の手紙を書き、タウロに渡す。
「いえ、『北風の牙』に雇って参加させてもらった立場の僕達が全てを貰うのはさすがに図々し過ぎます。雇用主であるカンタロさん達の分はギルドで取って置いてもらうのであとで回収して下さい」
タウロは申し出を断ると、ノルの村を後にするのであった。
「リーダーは人が良すぎるんだよ。バジリスク討伐したのは俺達だぜ?」
道中、アンクが苦笑して指摘した。
「違うわよ、アンク。私達はあくまでもカンタロのクエストに参加させてもらった立場よ。それにこの辺りで活動する為の届け出を出す前に勝手に仕事したら、冒険者ギルドの規則に反するの。それを盾にして報酬全て取られてもおかしくないのに、カンタロ達は報酬を全て私達に譲ろうとしてくれたの。立派じゃない。タウロはだからこそ取り分をちゃんと平等にしたのよ」
エアリスが、復帰したばかりで世間への感覚が鈍くなっているアンクに説明した。
「なるほど。そういう事か」
ラグーネもエアリスの説明に納得する。
「さすがタウロ様です!」
シオンはいつも通りだ。
「一年ぶりの外だから俺も感覚がおかしくなってるな」
アンクもタウロの判断が正しかった事を理解した。
「はははっ!それはみんな同じだよ。──さあ、みんな、次の街に向かおう!」
タウロはそう言うと仲間の先頭に立って次の街を目指すのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます