第521話 バジリスク討伐
タウロ達『黒金の翼』一行は、二週間ぶりに屋根のある安全な場所で休む事が出来た。
アンタス山脈地帯を彷徨っていた二週間は当然ながら野宿であったし、遭遇する魔物も強敵揃いでタウロ達にとっては『竜の穴』の修行が延長しているようで、気が抜ける時がなかったのだ。
だから、このノルの村での滞在は久しぶりにゆっくりと出来るものであった。
タウロは宿泊代にといくらか支払おうとしたが、村長はそれを受取ろうとしなかった。
依頼した冒険者でないとはいえ、厄介そうな伝説の魔物を討伐してくれたのだから、感謝しかない。
「それでは念の為、村の人が目撃したという場所周辺を見回ってきますね」
タウロ達は朝、村長宅から外に出かけた。
「昨日倒したキングバジリスク?って奴、強敵だったがあんなのが沢山麓に降りてくる事あるのか?」
アンクが詳しそうなラグーネに道中聞いた。
「どうだろう?我々竜人族の先輩達が作った目印の狼の巨石だが、あれは目印と同時に、魔除けの力もあって、そう簡単に魔物がそこを越えて麓に行かないようにしてあるのだ。だから、昨日遭遇したキングバジリスクも、その手前だっただろう?」
ラグーネが貴重な話をしてくれた。
「……道理であの巨石から神聖なものを感じたわけですね」
シオンが感心したように頷いた。
「でも、それも完璧ではないんでしょ?もしかしたら、村人が目撃したものは私達が討伐したものじゃないかもよ?」
エアリスが村長の証言から大きさが違う可能性が高いのを知っていた事から指摘した。
「うん。魔除けは魔物に強くこのまま進むと嫌な気分にさせるというものだから、中には鈍感で通り過ぎる個体があってもおかしくないな」
ラグーネがエアリスの指摘に答えた。
「それじゃあ、一応、エアリスの結界魔法でノルの村に近づけないようにして、あとは周囲を数日見て回り、安全確認してから他所に行こうか」
タウロが森の中を先頭で進みながら、みんなに提案した。
「それでいいかもね」
エアリスが頷くと、みんなもそれに納得した。
しばらくすると、タウロの磨きがかかった『気配察知』に何かが引っ掛かる。
すかさず、『真眼』でそちらを視ると、昨日のキングバジリスクより二回りほど小さいシルエットが二匹映った。
「いた!小さいけど、こっちの方が村人に目撃された魔物かもしれない」
タウロはそう言うと、森の中を走って魔物の元に向かう。
エアリス達もタウロの速度に合わせて森を突っ切る。
到着すると少し開けた森の一角で寛ぐバジリスクの姿があった。
バジリスク達はこちらに気づくと、早速、『石化の視線』を放ってくる。
だがタウロ達はもちろん、その状態異常攻撃は効かない。
しかし、森の木の一部はその攻撃によって石化した。
数本の木の石化した部分が、砕けて木が倒れる。
エアリスはそれをわき目に、魔法を詠唱するとみんなの火耐性を上げる。
アンクとシオンは二匹のバジリスクにそれぞれ向かっていった。
アンクは大魔剣を振り被ると、いつもなら飛ぶ斬撃を放つところだが、バジリスクにはそれが利かないと知っていたから、そのまま突っ込んで距離を詰める。
バジリスクはそれがわかって、火の息をアンクに吹きかけた。
アンクは大魔剣の風属性でその火を切り裂くと、そのままバジリスクの頭部に叩き落として切断する。
その一方で、シオンはもう一匹のバジリスクの脇に回り込み、火の息を回避しながら距離を詰めた。
「今度は、全力です!」
シオンは前回のキングバジリスク戦の反省を踏まえたのか、魔籠手の能力を最大限発揮してバジリスクのどてっぱらに拳を数発叩き込んだ。
シオンの攻撃によって、バジリスクのお腹に大きな凹みが数か所出来て、バジリスクは「グウェ!」と悲鳴を上げる。
そこに魔槍を構えたラグーネの一撃が、バジリスクの下顎から頭部に向けて放たれ、串刺しにするのであった。
こうして、二匹のバジリスクはあっさりと仕留められた。
「キングバジリスクに比べたら、全然弱かったね」
タウロはみんなの攻撃後に畳みかけようと、次の攻撃を用意していたのだが、それも不要であった。
「昨日の方が大きいし、魔法が通らなかった分大変だったけど……。これ子供かしら?」
エアリスが、バジリスク二匹を見下ろしながら、首を傾げる。
「どちらにせよ、このレベルなら、他の冒険者でも倒せるんじゃないか?」
アンクもあっさり倒せたので、心配なさそうだと判断した。
「一応、ちゃんと回収して村長さんには報告しようか。二匹いたのも目撃にはなかったし、他にいるかもしれない」
タウロはそう判断すると、マジック収納に二匹を回収して、一旦村に戻るのであった。
村に戻ると、人だかりが出来ていた。
どうやら、誰か来ているようで、村長がその人だかりの中心で、対応している様子であった。
タウロ達は邪魔にならないよう脇に移動してその様子を見ながら通過する。
「伝説のバジリスク?はははっ!それは大袈裟なものが出て来たな。多分それは火吹き蜥蜴の大きい奴だ。俺達、Bランク冒険者で十分討伐可能さ。本当に伝説のバジリスクなら俺達レベルのチームが複数で十分準備しないと討伐なんて出来ないだろうけどな!」
という声が、人だかりの中心、村長と対面している集団から聞こえた。
「ですが、昨日来られた冒険者のみなさんからは、キングバジリスクという個体の大きな死骸を見せてもらいましたので、本物かと……」
村長は、冒険者に言い返した。
「キング……バジリスク?なんだいそりゃ?バジリスクはバジリスクだぜ。それも村長がいうところの伝説でもな。キングバジリスクなんて聞いた事がない。はははっ!」
冒険者は村長の言葉を笑い飛ばしている。
「……あ!タウロ様方、お帰りなさい。どうでしたか、他にいましたか?」
村長は、信じてもらえず、業を煮やしたところで、タウロ達が帰って来たのに気づいて声を掛けた。
「うん?見かけない冒険者だな?」
Bランク冒険者達はタウロ達に気づきその姿から冒険者と判断したものの、この一帯担当の冒険者ギルド支部で見かけないチームである事に気づいた。
「こちらには初めて来るので」
さすがに竜人族の村から二週間かけて来たばかりとは答えられないタウロであった。
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