第520話 村長の頼み事

 第一村人の案内でノルの村の村長宅をタウロ達一行は訪れていた。


 小さな村だと思っていたが、丘の上にある村長宅は意外に大きい。


 聞けば集会所にもなっているから、その分大きく作ってあるのだという。


 タウロ達が室内で待っていると、白髪の老人が奥の部屋から現れた。


 この人が村長だろう。


 タウロが村長にお辞儀をすると、村長は相手が子供だったので驚いた。


「その歳で冒険者なのかい?歳はいくつかね?──十五歳?若いのう……。そっちの子も十五?本当に大丈夫かのう……。」


「これでも僕達、B-ランク冒険者なのでそれなりに戦えますよ」


 タウロは普通なら当然と思える反応に笑顔で応対した。


「そいつはたまげた!──はー、人は見かけによらないって言うが、その歳でB-ランクとはびっくりだ。……いや、それでも大丈夫かのう?」


「?」


 高位ランク冒険者と知っても、心配そうな村長にタウロ達は疑問に思った。


「一応、依頼したいのは、魔物の討伐なんじゃが……。実はアンタス山脈地帯の方からこちらの麓に降りてきたと思われる魔物が最近頻繁に目撃されているんじゃ。見かけた村人によると、鶏のような鶏冠を持った頭部に蜥蜴の体を持った大きな魔物だったいう。これが本当ならこの村では伝説になっているバジリスクかもしれないと、儂は睨んでおる。八十年ほど前、この村が一度滅びかけた時があってな。その魔物に睨まれた村人は一人残らず石にされたとか。祖父からの言い伝えの姿にそっくりだ。だから、その魔物が目撃されたら、すぐに冒険者ギルドに助けを求めるように言われていてな。近くの冒険者ギルドにはすぐ依頼は出したが、まだ、返事が来ておらん」


 ノルの村長は、他の村人には内緒に頼むと、付け加えた。


 どうやら、それを知った村人が必要以上に反応し、村を捨てて逃げ出すのを恐れているようだ。


「なるほど……」


 タウロはエアリス達みんなにどうしたものかという表情で、視線を送る。


 その反応を見て、村長も相手が強力な魔物と知って、依頼を引き受けるべきか悩んでいると思ったのだろう。


「仕方ない……。正式にギルドからやってくるはずの冒険者に任せるしかないか……。聞けばみなさんは道に迷ってここに訪れたとか。今日は一泊してから他の村にでも避難して下さい」


 村長は諦めムードでそう言うと、使用人にタウロ達の案内を頼んだ。


「あ、違いますよ、村長。そういう事じゃないんです」


 タウロが、誤解を招いたと気づいて弁解した。


「?」


「実はですね?ここに来る途中、その村長が言う特徴の魔物に遭遇しまして──」


「いや、いいのじゃよ!よく遭遇して無事に逃げのびてこられた。先程も言ったが睨まれると石になるというから、逃げのびただけで幸いじゃよ。そんな怖い思いをしたみなさんに討伐をお願いしようとしてすまなかったのう」


 村長は、子供のタウロ達冒険者に恥をかかせたと思って、タウロの話を遮って謝罪した。


「そうじゃなくてですね。僕達はそのバジリスクを討伐してしまったんです。だから、多分、もう心配しなくていいですよ」


 タウロは苦笑すると、そう訂正した。


「は?」


 村長は、タウロの言葉がいまいち理解出来ず、聞き返す。


「だから、大丈夫だという事です。証拠もあるので、お見せしましょうか?珍しい魔物だったので、マジック収納にそのまま保存してありますから」


 タウロが、そう言いながら、ここに出すわけにはいかないよね?とエアリスに聞いている。


「ほ、本当にあの伝説の魔物を討伐したのですか?」


「はい。外見は村長の言うものと一致しているので、そうだと思います」


「で、では、うちの庭で確認させてもらってもよろしいですかな?」


 村長は、この子供は何を言っているのだろう。そんなにすぐバレる嘘を吐いて大丈夫なのか?せめてほかの仲間が止めるべきではないか?と、思うのであったが、タウロ達は庭に案内した。


「それでは、出しますね。ちょっと大きいので、離れていて下さい」


 タウロはそう注意すると、村長宅の庭先にバジリスクの死骸を出す。


 バジリスクの死骸は、想像以上に大きく、でっぷりとした体形である。


 村長宅の屋根に届きそうなその大きさに村長と使用人は驚いて腰を抜かす。


「ひ、ひぃ!これは村人が目撃したというものより、大きいのでは!?」


 村長は、その場に座り込んで、気が遠くなりかけながらも、そう答えた。


「鑑定してみると、これは『キングバジリスク』という個体みたいですね。とても強くて僕達も手を焼きました。幸い僕達はみんな状態異常耐性持ちなので、石化される事もなく戦えましたが、確かにこれは火も吐きますし危険な魔物かもしれないですね」


 タウロは、能力の一つである『真眼』で魔物を改めて鑑定して告げた。


「本当よね。こんな魔物が麓に降りてきたらさすがにみんな驚くわ」


 エアリスも数時間前の戦闘を思い出して、首を振る。


「止めを刺したのは俺だけどな!」


 アンクが自慢げに胸を張る。


「アンクの大魔剣での攻撃力が無いと急所まで届かなかったのは確かだな」


 ラグーネがキングバジリスクの死骸をポンポンと叩きながら、仲間を褒めた。


「この魔物にはボクの攻撃がなかなか効かなくて残念でした」


 シオンが拳を一突きして見せて、悔しそうに言う。


「弱らせたのはタウロと私だけどね」


 エアリスはタウロの腕を取ると答える。


「ははは。そういうわけで、魔物は討伐したのでご安心ください。まだ、ご心配でしたら、数日滞在して周辺を見回りましょうか?」


 タウロが、村長に提案した。


「よ、よろしくお願いします!」


 村長は、何度も大きく頷くとタウロ達の提案に激しく賛同するのであった。

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