第519話 北部へ
タウロ達『黒金の翼』一行は、『次元回廊』で王都に戻ることなく、初めて竜人族の村から徒歩で外に出て、北部一帯を回る事にした。
当然ながら、竜人族の村の位置はほぼ人跡未踏のアンタス山脈地帯の奥地にあり、人の身でそこを踏破して辿り着く事は滅多にない。
ごく稀に迷い込んだ冒険者が近くの竜人族に保護されて一時的に竜人族の村に案内される事もあるが、二度以上訪問した者はタウロ達くらいである。
それくらい人の生活圏から直接歩いて到達するのは難しい場所が、竜人族の村であった。
それを承知でタウロ達はアンタス山脈を越えて北部を巡る冒険をしようと言うのだ。
一見無謀としか思えない行為だが、族長リュウガをはじめとした竜人族も今のタウロ達なら大丈夫だろうと、止めないのであった。
「道案内については、ラグーネがいるから大丈夫でしょう。一度は他の先輩竜人族のみんなと一緒に下山したから覚えているよな?」
族長リュウガはラグーネに念の為に確認した。
「もちろん!道だけはあの時、必死で覚えたから大丈夫です!」
ラグーネは胸を叩くと自信満々で答えた。
そして、タウロ達は竜人族の関係者達に見送られて、下山する事になったのであった。
「……ラグーネ。かれこれアンタス山脈地帯を歩き続けて、二週間ほど経っているのだけど、道はこっちで大丈夫だよね?」
タウロは一旦、『次元回廊』で竜人族の村に戻って再スタートした方がいいのではないかと思う程、大変な二週間が経過していた。
その間にこれまで遭遇した事がないような強い魔物に出会い、討伐していたから、ドロップアイテムも結構溜まってきている。
「だ、大丈夫だ!──あ!ほら、あそこの狼に似た巨石が、人の生活圏に入る事を示す目印だから!」
指差す先には確かに、ラグーネがずっと竜人族が作った目印となる巨石が見えてくるはずと道中ずっと言っていた、狼に似た巨石があった。
だが、その巨石の方向がタウロは気になった。
「目印になるあの巨石が僕達から北の方向に見えるのはおかしくない?」
エアリスも同じように思ったのかタウロの言葉に頷く。
「そういやそうだな。山の天気のせいで太陽の位置の確認がなかなかできなかったって事もあるが、北にあるのはおかしいよな?本来は西に見えていないといけないはず。北だと、俺達はすでに人の生活圏にいた事になる」
アンクも数日ぶりに厚い雲から顔をのぞかせた太陽を指差して位置を確認した。
「……ラグーネさん。道間違えてませんか?」
シオンが、はっきりと指摘する。
「……えっと……、でも、ほら!無事、人の生活圏に到着したのだから問題ないんじゃないかな……!?」
ラグーネは一生懸命誤魔化そうとしているのがわかったが、タウロ達は目を見合わせると苦笑した。
「それじゃあ、無事、踏破したという事にしようか」
タウロはそう締め括ると、狼に似た巨石を目指して歩みを進めるのであった。
タウロ達『黒金の翼』一行は、狼巨石の麓を通り過ぎて、道なき道を下っていく事数時間、途中、強力な魔物に遭遇して討伐が大変だったが、ようやく囲いに覆われた小さな村の近くに到着した。
「あんたら、まさかアンタス山脈地帯の方からやって来たのか!?」
村の外で木を切っていた第一村人が、タウロ達に気づき、驚いて声を掛けてきた。
「道に迷っちゃって変なところを通ってきたみたいです。この村は何村でしょうか?できればどの辺りかも教えてもらえると助かるのですが」
タウロは第一村人の疑問には何となく答えずに、場所の確認をした。
アンタス山脈地帯を越えてきたと答えると、それはそれで問題がありそうだと思ったからだ。
「何だ迷子か?……そうだよな、アンタス山脈地帯を越えてこれる人間がそうそういるわけないか!──ここはノルの村という。位置的にはサート王国側のアンタス山脈地帯と、帝国側のアンタス山脈地帯との西の麓、丁度、国境沿いにある村だ。さすがにそれはわかるか!はははっ!」
第一村人の説明を受けて、一行はラグーネに視線を集中させる。
ラグーネはやはり、道に迷っていつの間にか北に向かっていたのだ。
それに下手をしたら山脈伝いに国境を越えて帝国側に入っていた可能性もある。
「ラグーネさん、これはどういう事かな?」
タウロはニッコリとラグーネに声を掛ける。
「す、すまない!」
ラグーネもさすがにこれは大失態だとわかったのだろう、頭を下げて謝罪するのであった。
「でも、国境を越えるようなポカはしなかったし、良かったじゃない。それに急ぐ旅でもないでしょ?」
エアリスが、平身低頭のラグーネを許すように言った。
「そうだな。無事、人のいるところに戻ったし、途中でみんなの成長が確認できたし、結果的には良かったんじゃないか?」
アンクもエアリスに合わせてラグーネを庇う。
「いい旅が出来たと思いましょう!」
シオンもみんなに合わせるように言った。
「……じゃあ、そういう事にしようか。それでは、あのう……、この村に宿屋はありますか?」
タウロはみんなが納得している様子なので、これ以上はラグーネを追及せず、第一村人に宿泊先を確認した。
「宿屋?そんな気の利いたものはないなぁ。来客は空き家か村長宅に泊まる事になっているが、あんたら冒険者か?」
「はい」
「それなら村長が人手欲しいって言ってたから、丁度良かったかもしれねぇな。村長のところまで案内するから付いてきな」
第一村人はそう言うと、村の出入り口に案内するのであった。
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