第522話 先輩冒険者チーム

 ノルの村の依頼で訪れたBランク冒険者チームは、「北風の牙」と名乗った。


 この辺りの担当冒険者ギルドではちょっとした有名チームらしい。


 タウロ達も名乗ろうした時だった。


「冒険者ならわかっていると思うが、他所の担当領域でギルドを通さない依頼を引き受けて討伐したりしていないよな?」


 ぎくっ!


 タウロは早速、バジリスクを二匹も討伐してしまっていたから、言葉に詰まる。


 本当は、名乗ってからマジック収納の中身のバジリスクの死骸を出すつもりでいたのだが、瞬間でとっさに止める事にした。


「も、もちろんですよ!」


 タウロは思わず、嘘を吐く。


 エアリス達も久し振りの討伐にその事を忘れていたから、とぼける素振りを見せた。


「……それで、お前達のチーム名は?名前くらいはあるんだろ?」


『北風の牙』のリーダーは、代表して話しているタウロに聞く。


 タウロは一年ぶりの旅に、名誉貴族を表す記章や、冒険者ランクを示すタグもマジック収納にしまい込んでいたからそれを出しそびれていた事に気づいた。


 それはエアリス達も一緒で、荷物のほとんどはタウロに預けている。


「えっと、まだ、Bランク冒険者さんに覚えてもらえるような名前ではないので……」


 タウロは今、名前を名乗って覚えられ、討伐対象であるバジリスクを横取りしてしまった事が発覚した時、怒られるかもしれないと思い、そう答えて言葉を濁した。


「おいおい、うちと比べて卑屈になるなよ?まだ若いじゃないか。これから頑張って強いチームになりな」


『北風の牙』のリーダーはタウロの態度に勘違いして励ます。


 悪い人ではないようだ。


「……ありがとうございます」


 タウロは誤解されたが、それでもいいかと思い直して答える。


「なんならBランクチームの特権である現地での助手冒険者の採用で討伐参加させてもいいぞ?どうせ目撃情報から周辺の探索をやって討伐対象を見つけないといけないからな。一応、バジリスクになっているが、そんなレアな魔物、滅多に遭遇する事ないし、多分、今回のは火吹き蜥蜴だと思う」


『北風の牙』のリーダーは、初心者チームと思われるタウロ達にも手柄を取らせてやろうと思ったのかそう提案した。


 傍で村長が冒険者同士の事情を何となく理解したのか、自分が口を挟んでタウロ達の迷惑になるといけないと思い、余計な事は言わないと決め、タウロに目配せする。


 何か変な気を遣われているけど、バジリスク討伐しちゃったから、否定も出来ない……。


 タウロは村長の気遣いを受け入れると、『北風の牙』のリーダーに、


「それでは、その形でよろしくお願いします」


 と握手して契約するのであった。



「リーダー、あのチームに任せて、俺達はこの村を後にすればよかったんじゃないか?」


 と、村の端にある空き地でアンクがタウロに疑問をぶつけた。


「村長さんには数日周辺を巡回して確認するって言っておいたから、ほっぽり出すわけにもいかないでしょ?かと言って他の冒険者チームの顔に泥を塗るわけにもいかないし、それなら契約結んでクエストに参加できる方がいいんじゃないかな」


 タウロは『北風の牙』チームの依頼を奪ってしまった事もあり、その辺りの兼ね合いを気にした。


「……仕方ないわね。タウロの言う通り、こっちの冒険者ギルドで仕事するという報告前だし、雇って貰えてその面倒も省けて良かったと思いましょう」


 エアリスはタウロの考えに理解を示した。


「でも、どうする?バジリスクはすでに二匹討伐、キングバジリスクも討伐した。もしかしたら、この近辺には捜索対象がいないかもしれないぞ?」


 ラグーネがもっともな疑問を口にした。


「それは大丈夫じゃないかな?あっちのチームはバジリスクの正体を火吹き蜥蜴じゃないかと疑っているわけだし。この辺りにその火吹き蜥蜴なら生息しているみたいだからそっちを手っ取り早く見つけよう」


 タウロは他の魔物を代用して終わらさせる提案をした。


「さすがタウロ様!それならすぐに解決して近くの冒険者ギルドに行けますね!」


 いつもの通り、シオンがタウロを褒め称えた。


「それじゃあ、みんな。バジリスクの件は秘密でよろしく」


 タウロは人差し指を立てて、みんなに念押しして確認すると、村長宅に戻るのであった。



 その日の夜、村長宅での冒険者歓迎の食事会がささやかに行われた。


『北風の牙』のリーダーの名は、カンタロと名乗った。


 槍使いで他のメンバーは女戦士、女神官、男弓使い、男盗賊の五人とバランスの取れたチーム構成になっている。


「冒険者業界で成功しようと思ったら、バランス重視でないといけない」


 リーダーのカンタロはタウロにお酒で顔を真っ赤にしてそうアドバイスを送っていた。


「そうですね」


 タウロはその意見に賛同であったから、頷く。


「お前らも見る限りバランスは取れているみたいだから、そのままで頑張りな。うちはCランクまでは攻撃一辺倒のバランスを欠いたチームで──」


 リーダーカンタロは自分達の経験を若いタウロ達に伝えようとしてくれていた。


 実際、タウロ達『黒金の翼』はB-チームで相手はBランクだから格上である。


 聞いておいて損はないはずと、タウロは酒臭さを我慢しつつ先輩冒険者の話を聞くのであった。


 話の内容はタウロが知っている事も多く、ちょっと飽きそうでもあったが、冒険者ギルドにおけるBランク帯冒険者の振る舞いに及ぶと、知らない事も多かった。


 貴族相手の政治的な指名依頼も増えるし、その為の駆け引きも必要になる。


 一流冒険者と呼ばれるBランク帯だが、あまり好き勝手に出来ない事も多いと嘆く場面もあった。


 タウロ達はB-ランクになってすぐに、『竜の穴』に潜ったから、実はBランク帯の事を何も知らない。


 だから、意外にこの酔っ払いのチームリーダー・カンタロの話す内容はためになるものであった。

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