第516話 王子との重要な話

 ラグーネの帰還を待っている間に、王都では王宮に呼びつけたハラグーラ侯爵をこれまでのありとあらゆる疑いのある罪状を並べて、騙しうちのような強引とも思える拘束を行った。


 この様な強硬手段に出たのは、ハラグーラ侯爵の側近である勇者アレクサの逮捕が大きい。


 名誉貴族とはいえ、子爵であるタウロと、称号持ちであるその仲間達の暗殺未遂という現行犯での逮捕もさる事ながら、ハラグーラ領内における、周囲の領地を害する禁忌の結界魔法使用の疑いもある。


 後ろ盾として、王太子の側近に付けていた人物達が、帝国の間者と思える人間だった事についても最初に勧めていたのはハラグーラ侯爵だったという疑いが濃厚であった。


 それはつまり、国家に対する反逆の疑いがあるという事だ。


 それらを考えると、王家が強硬に逮捕拘束する理由になる。


 それにハラグーラ侯爵にはこれまでも、ありとあらゆる犯罪の関りが疑われ、その度にもみ消していたと思われていたから、それらの疑いも含めれば上級貴族で国内派閥最大の長といえど、処刑は免れないと思えた。


 これには王家もそれを支持する軍や貴族達も緊張の瞬間であった。


 下手をしたら国を二分する内乱に陥る可能性も危惧されるからだ。


 その為、現在、王都のみならず、宰相派閥や中立派閥、その他、王家支持の貴族などはいつでも軍が動かせるように厳戒態勢に入っている者も少なくない。


 それほどの拘束劇であった。


「ハラグーラ侯爵派閥の上級貴族に動きは?」


 タウロは、王宮の一室でフルーエ王子に現状の確認をしていた。


 今回の事については、自分達が大きく関わっていたからだ。


「王都にいたハラグーラ派閥の貴族達は概ね自宅軟禁状態にしてあるが、ハラグーラ侯爵の息子と孫は、自領で領兵を編成し直し、訓練と称して領境に集結させているらしい。王都から脱した上級貴族の一部は領地に逃げ戻って、王都の動向について様子を窺っているようだが、これについては陛下が書簡を送って軟化させる試みを行っているところだ」


 フルーエ王子は内乱が起きるかもしれないと思って腹を据えているのか落ち着き払っていた。


「なんだかすみません。僕達の行動でここまで話が大きくなるなんて」


「何を言う!タウロ達は降りかかる火の粉を払ったに過ぎないではないか!……それに遠からずこうなる事はわかっていた事なのだ。いつまでもハラグーラ侯爵の横暴を放置しておく事は出来なかったからな。それは陛下もわかっていた事だ。それに、兄上の事があって陛下も今が決心の時と判断なされたのだ。幸い軍上層部もハラグーラ派閥関係者を拘束して、王家への忠誠を改めて誓ってくれたからな。王都が火の海になるのは避けられた」


 フルーエ王子は友人に感謝すると、戦争にならなかった事を安心して溜息を吐いた。


「どうやら僕の能力に関係している気もするので……」


 タウロはいろんな事を招き寄せているのは、能力『豪運』が仕事をしているのでないかと思ってしまうのであった。


「──それにしても、タウロが拘束した男。まさか、それが勇者だったとは……。それだけでもハラグーラ侯爵の罪は大きい。勇者スキルを持つ者を私的に囲って自分の手足として動かしていたんだからな」


 フルーエ王子の言う事ももっともだ。


 勇者は国の財産と言ってもよいスキルである。


 引き渡せとまでは言わないにしろ、その存在を隠し、悪用していたのは事実であったから、その罪だけでも重いだろう。


「ははは……。大勇者を知っているので、それに関しては僕もあまり色々言えないです」


 タウロはフルーエ王子の意見について苦笑するしかない。


 他にも真聖女や、天翔竜騎士など、世間でも知られていないスキル持ちをいっぱい知っているのだ。


「竜人族の事か?あれについては、王家との間に古い約定があるから問題ないらしい。とはいえ、タウロの手紙通りの常人を越えたスキル持ちが、そんなにいるだけでも普通なら脅威なのだが、知らなければその脅威も感じようがないだろう」


 フルーエ王子は、笑ってタウロの心配を一蹴した。


「──それに、今回はこちらのワガママで宮廷医師を派遣してもらってすみません」


 タウロは一番言いたかったお礼をこの王家の友人にした。


「いや、大丈夫だ。逆に医師達がタウロとエアリスに感心しきりだったと聞いているぞ?それにしても、皆は大丈夫なのか?」


「ご心配ありがとうございます。ラグーネについては、音沙汰なしなのでわかりませんが、アンクとシオンはやっと、起き上がれるところまで回復しました」


「そうか!無事で何よりだった。──ところでタウロ。新たな冒険に出る予定が大きく変わってしまったが、これからどうするのだ?」


「本当は南部地方に向かう予定でしたが、今回の件でみんな思うところがあって、一度、北に行こうかと話しています」


「北?……帝国に向かうのか?」


 フルーエ王子が、少し驚いた表情で、思わず声を潜めて聞き返した。


「いえ、さすがに帝国の虎の子の特殊部隊と事を構えましたから、そんな勇気はありません。竜人族の村の『竜の穴』で修行して一から鍛え直すのはどうかという話です」


 タウロは苦笑して一度否定すると、とんでもない事を口にした。


「そ、それは思い切った事を考えたな……。地獄のような場所なのだろう?」


「……らしいです。シオンは正直、あまり行きたくないと渋っていましたが、アンクが一人でも行くと言うので悩んでいる感じです。僕個人としては、冒険の中で成長していくのが理想なんですけどね」


「エアリスはどうなのだ?」


「エアリスはどちらでもいいらしいです。僕に従うと言ってくれています」


「そうか!ならばよい。──ところで、タウロ。今や名誉貴族とはいえ子爵にまで上り詰めたのだ。そろそろエアリスとの関係をはっきりさせてはどうだ?」


 フルーエ王子はお節介とはわかっていたが、二人の核心に触れた。


「エアリスとの関係ですか?僕ははっきりしていると思っているのですが……」


 タウロがフルーエ王子の真意が掴めず考える素振りを見せた。


「どのようにはっきりしているのだ?」


「もちろん、一緒に冒険を始めてからずっと仲間として友としてとても大事ですし、それにとても好きな相手です」


 朴念仁と思われていたタウロはさらりと重要な事を告げた。


「そうなのか!?」


 フルーエ王子も意外な答えに驚き、聞き返した。


「エアリスは美人だし、性格もいいし、何より冒険者として背中を預けられる仲間です。嫌いなわけがないじゃないですか」


 タウロの好きは冒険の仲間としての比率が大きく感じるものではあったが、どうやら異性としても見ているようだとわかって、友人達の関係が前向きに進んでいるようだと安心するフルーエ王子であった。

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