第511話 王宮の大騒ぎ

 タウロとエアリスは王城へ赴いた。


 城門ではタウロが名誉子爵の記章をマントの襟に付けているので、衛兵がそれを確認して入城を許可する。


 エアリスはその連れの王国名誉魔導士の記章を確認されて通される。


 これまでは、王家の紋章入り小剣を出して確認を取ってもらい、入城していたからその手間は無くなった。


「改めて便利なものね」


 エアリスがタウロの腕に手を回して歩き始めた。


 タウロはエアリスの急な接近にドキッとするが、それを表に出さない。


「そうだね。でも王宮はさすがに王家の紋章を見せてフルーエ王子に面会をお願いしないといけないけど。──?」


 タウロはエアリスの胸が肘にあたっている事に少し意識したが、深呼吸して落ち着く。


 そして二人が進んでいく王城内、それも王宮へと続く道の方の人が慌ただしく動いて何か起きている事を感じた。


「何かしら、緊張した雰囲気が王宮の方から伝わって来るわね……」


 エアリスも気づいてタウロの腕に回していた手を離した。


 どうやら勇気を持って出た行動だったが、今の場面に相応しくないと思ったようだ。


 二人が王宮の入り口に近づくと衛兵にいつものように王家の紋章入り小剣を見せてフルーエ王子との面会をお願いする。


 もし、王子が忙しくても控室にはいつも通してもらえるから、その時にこのざわついた雰囲気について使用人などに聞いてみようと考えるタウロだった。


「タウロ殿、今日は王子殿下へ面会ですか?殿下は部屋におられるのですぐに面会は可能だと思いますが、この騒ぎなので……、少々確認させてください」


 顔見知りの衛兵がタウロとエアリスに気づくとそう告げた。


「何かあったのですか?穏やかではない雰囲気ですが……」


「私の方からはお答えしようがない事が起きているようでして……。下手をすると箝口令が敷かれる可能性もあるので詳しくは王子殿下にお聞きください」


 衛兵はそう答えると、他の衛兵にその場を任せ、確認に駆けていく。


 しばらくすると、許可が下りてタウロとエアリスは奥に通された。


 部屋に入るとフルーエ王子は落ち着かなく、部屋を行ったり来たりしていた。


「フルーエ王子殿下、ジーロシュガー名誉子爵とエアリス嬢がお見えになりました」


 フルーエ王子の腹心セバスが、知らせる。


「おお、二人共よく会いに来てくれた!丁度今、不味い事態になっていてな。王宮内で騒ぎになっているのだ」


 フルーエ王子は、二人を見て少し冷静になったのか、動きを止めて言った。


「何が起きているのですか?みなさん緊張感に包まれていますが……。衛兵の方には箝口令が敷かれるかもしれないとまで言われましたが……」


「……実はな。兄上である王太子殿下がその座を外される事になりそうなのだ」


「「えー!?」」


 タウロとエアリスは二人驚いて顔を見合わせる。


「先程、兄上が急遽、聖女一行の護衛責任者の任を解かれて戻って来たのだが、陛下との面会後にそのような話になったらしい」


 フルーエ王子は続けて説明してくれた。


 王子が伝え聞いたところによると、国王が面会の中で、


「お主が北の帝国に通じているのではないかという疑いがかかっているがどうだ?」


 と確認をされたらしい。


 これに対し、王太子は全く否定せず、それどころか緊張状態にある国境の軍を縮小して帝国に誠意を見せればその緊張状態も解けると言い始めた。


 上手くいけば、あちらから歩み寄ってくるだろうし、なんなら自分が帝国の上層部に面会して友好を結んでみせると説いたそうだ。


 さらには、最初はあちらも警戒して軍を差し向け侵攻を試みるかもしれませんが、その軍も王都で出迎えて一緒にお酒の一つも酌み交わせば仲良くなれる事でしょう。自分が仲介すれば丸く収まります!と熱く語ったという。


 これには国王、宰相も唖然としたそうだ。


 それはそうだろう。


 王太子の言う事は、帝国に対して無防備になり、王都まで侵攻を許せと言っているのだ。


 そこで自分が使者になり、間を取り持つと。


 そんな事をすれば、帝国は王都を攻め落とし、占領するだけの話だ。


 話し合いの余地などないだろう。


 同席していた官吏やフルーエ王子の兄達も王太子が熱っぽく語る姿に異常を感じたそうだ。


 そこで同席していた宮廷魔法士団に王太子を診察させたところ、王太子が洗脳されている可能性を指摘した。


 これには国王も宰相も事態を重く見て王太子が病床に臥した事にするらしい。


 だが、それは今の騒ぎの表向きの理由であり、一時的なものだろうと、フルーエ王子は言った。


「敵国である帝国との関係を否定しないどころか擁護しただけでも、危険なのに洗脳されている疑いまで掛けられたとなると、廃嫡は免れないだろう……。多分、病に臥せった状態で数日、時間稼ぎをして、王太子談として政務を行える状態ではないのでその座から身を引くという声明が出る事になると思う……」


 タウロとエアリスは何も言えない。


 確かに聖女一行での王太子の行動は、少し常軌を逸しているところがあったようにも思える。


 最近活躍して人気を得ているフルーエ王子に対する嫉妬も異常に見えたし、フルーエ王子から聞く王太子のイメージからかけ離れていたのも気になってはいた。


 だから、フルーエ王子からの洗脳の可能性を聞くと合点がいくのであった。


 フルーエ王子はため息交じりに「平和をこよなく愛する方だったのに……」とつぶやく。


 タウロはフルーエ王子の手を握り励ますのだったが、そうしながら今回の騒動について可能性を考えてみた。


 王太子は元々優しく聡明で平和を愛する人物だったというから、そこにつけまれたのではないかと。


 さらに弟フルーエ王子の台頭に心揺らぎ、そこも同様につけこまれた可能性がある。


 心の闇を揺り動かして情緒を不安定にし、違う圧倒的な価値観で救う。


 そして魔法なども利用して完全に洗脳したのではないだろうか?


 だがそれをやるには普段から信頼された人物による必要がある。


 王太子の支援はハラグーラ侯爵がしているから、そうなると一番怪しいのはハラグーラ侯爵本人だろう。


 だが、そんな事をする必要があるのかは疑問が残るところだ。


「王太子殿下の側近は今?」


 タウロはふと、気になった事を口にした。


「すでに拘束しているが、その中ですでに自害したものが三人いる。どうやらその者達は帝国の間者ではないかという報告も受けているが、これらは表沙汰にはできないから、二人とも、秘密にしておいてくれ」


 フルーエ王子は慕っていた兄だけにショックが大きいのか悲痛な表情を浮かべるのであった。

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