第510話 今後の冒険先

 タウロ一行は次の冒険先を絞る話し合いを王都のグラウニュート伯爵邸で行っていた。


 ダンジョン『バビロン』は専門家である竜人族に任せているから、行くのは無しとして、国内にはまだ行っていないところ、出入りが禁止であった禁足地、出入りが限られている土地もある。


 それに国内には最近、人工のダンジョンが王国南西部にも出来たというし、冒険には困らない。


 それに棚ぼたとはいえ、B-ランクに上がった事で時間のかかる特殊なクエストにも挑戦できるようになっているからやれる事は多い。


 名誉子爵、様様だ。


「タウロはどこに行きたいの?私は東部のオサーカス港湾都市から船で海を渡り島々を巡る冒険もいいかなと思っているのだけど」


 エアリスが以前行った事があるオサーカスの街を思い出しつつ、行った事が無い海の向こう側を想像して提案する。


「私は人工で出来たというホリーツク鉱山跡地のダンジョンとやらに挑戦したいな」


 ラグーネは竜人らしくダンジョン挑戦が好みのようだ。


「ボクは南西部に広がる大森林地帯と大山脈、自然豊かな地でそこに自治権を与えられて住んでいるというエルフやドワーフの街に行ってみたいです」


「俺は、……そうだなぁ。リーダーも言ってた宰相閣下のバリエーラ公爵領よりさらに南部かな。あっちは全く行った事がないし、ずっと南下したら多くの国が国境線を接しているからどこにでも行きやすいだろうしな」


 アンクはやはり、傭兵として各地に一番赴いるから詳しそうだ。


 アンクが行く先がほとんど戦場だった事もあるのだが、普段、その事を話す事は無い。


「みんな意見がバラバラだなぁ。でも、楽しそうな場所が多いのが良いよね」


 タウロはみんなの意見を聞けて楽しそうだ。


「──でも、ラグーネとシオンの行きたい場所が近いわね。確か同じ南西部でしょ?それにアンクが言う南部も近いからそっち方面でいいかもね」


 エアリスが率先して意見をまとめようとする。


「ホリーツク鉱山跡地と自治区が多い南西部か。今、冒険者もそっち方面が多いと聞くし、そっちに行ってみようか?──それにしても北部への意見は無いんだね」


 タウロはエアリスに頷きながら、意見をまとめつつ、苦笑した。


「「「「北部は──、ねぇ……」」」」


 タウロを除くエアリス、ラグーネ、アンク、シオンは視線を交わすと意味ありげに頷く。


 みんなの反応も仕方がないだろう。


 北部はなにしろ何かと因縁が出来た帝国が国境を接している。


 他の国も一応、国境を接してはいるが、帝国絡みである事は否めず、聖女と勘違いしてエアリスが襲撃を受け、暗殺ギルド討伐時にも帝国の影があった事からも、これ以上は関わりたくない。


 避けるのは当然だった。


「──それに、北部は行こうと思ったら、すぐにタウロとラグーネの能力で竜人族の村から行けるからいいんじゃないかしら?」


 エアリスがみんなを代表してもっともな事を口にした。


「……確かに。──それじゃあ、南西部に行く事に決定だね。数日後、『竜の五徳』さん達チームをダンジョンに送る仕事が終わったら、すぐに出発できるように各自準備しておいて」


 タウロは次の冒険先を決定すると、その場で出発の日まで各自自由行動にするのであった。



 タウロは色々と用事を済ませる事にした。


 まずは、父グラウニュート伯爵と弟ハクとのお別れである。


 当然ながらタウロは名誉子爵になり、グラウニュート伯爵家を離れる事になったから、改めて長旅に出る前に挨拶しておこうと思ったのだ。


「何だ改まって?──はははっ!そんな事か?タウロが爵位を得て家を出ようとも私達の息子である事に変わりはないだろう。ハクも弟である事に変わりはない。それにだ。お前は名誉子爵とはいえ、まだ、未成年だ。だから私達の保護下にある。困った時はいつでも頼れ。そしてたまには母さんの元に顔を出してくれ。あと手紙も忘れるんじゃないぞ?家族なのだからな」


 父グラウニュート伯爵はタウロの説明を聞いてそれを笑い飛ばし、家族である事を強調した。


 タウロはその言葉に救われた気がした。


 平民出の自分を嫡男として迎え入れてくれた両親だ。


 その好意を仕方がない事だったとはいえ、放棄して弟ハクに譲ることになった。


 だから、養子の縁を切られても文句は言えないところだが、それでも家族だと言ってくれるのだ。こんなに嬉しい事はない。


「ありがとうございます、父上。僕は素敵な両親に出会えて幸せです。──ハク、僕は兄として何もする事無く旅に出る事になってごめん」


「はははっ。──自分は兄上に対して感謝と尊敬しかないです。それに自分にとって一番の自慢ですよ。くれぐれも健康には気を付けて下さいね」


 弟ハクは尊敬するタウロに対して最大限の言葉を送った。


「出発は数日後だからその言葉は早いよ」


 タウロは照れ隠しも兼ねてハクの言葉を注意する。


「そうでした。この数日の間はどうするのですか?」


「フルーエ王子にも挨拶しておこうかなと思っているけど、それが済んだら旅支度に費やすと思う」


「ではその時に、改めて見送らせて下さい」


「うん」


 タウロは弟ハクと笑顔で抱き合うのだった。



 グラウニュート伯爵邸の表ではエアリスが出発前の馬車で待っていた。


「フルーエ王子のところにも挨拶に行くんでしょ?」


「うん。じゃあ行こうか」


 二人は友人に会う為に馬車に乗り込むと、王宮へと向かうのであった。

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