第501話 チートな昇格

 タウロ一行は叙爵と称号の授与が簡易的な場で行われ、それを証明する記章が与えられた。


 こうして正式にタウロはジーロシュガー名誉子爵、エアリスは王国名誉魔導士、ラグーネ、アンクは王国名誉騎士、シオンは王国名誉神官となり、一行は王国の施設、一般人の侵入禁止区域にも入れるようになった。


 これにプラスしてタウロは王家の紋章入りである小剣「タウロ」も所有しているから大抵の場所に咎められる事なく行き来できる事になる。


 その気になれば、何かしらの列にも並ばずに入れるから、爵位と称号万歳だ。


 タウロ一行は久しぶりに冒険者ギルド王都本部に顔を出す事にした。


 聖女一行に同行して以来、ずっと顔を出していなかったし、名誉貴族でも働かないと食っていけないのだ。


 と言ってもタウロはその冒険者の身なりからは想像できないくらい、開発した商品や技術でお金持ちになっていたから働かなくても食っていけるのだが、そんな素振りは一切見せないのであった。


 冒険者ギルドに寄ると、タウロの羽織るマントの襟には名誉貴族を示す記章が付けてある。


 それはエアリス達も一緒で、ちょっと誇らしい気持ちで自分達のランクであるDランク帯の掲示板に向かい、クエストを探した。そして、適当なものをみんなで選ぶと、受付に持っていく。


「あ、『黒金の翼』さんでしたね。お久し振りです。こちらのクエストですね。それでは確認の為、Dランク帯を証明する銀のタグの提示をお願い──」


 受付嬢はいつもの手続きの作業を行う為にタウロが首からタグを外すのチラッと見た時にそのマントの首元にある名誉貴族の記章に気づいた。


 受付嬢は無言で驚いて目を大きく見開いている。


「め、名誉子爵……!?」


 受付嬢は記章の形、色からすぐにその地位に気づいた。


「し、失礼しました!少々お待ち下さい!」


 受付嬢はタウロに問答無用で謝罪すると上司のいる奥の部屋に走っていく。


「早速、名誉貴族の力が……」


 タウロはそうつぶやくと苦笑するのであった。


 少しすると奥からクエスト管理責任者を名乗る上司が現れた。


「お待たせしました、タウロ・ジーロシュガー子爵様。ささっ、こちらにどうぞ」


 上司はそう言うと受付の仕切りである腰の高さのゲートを開いてタウロ達を奥に通す。


「何が起きるんです?」


 シオンがこの扱いに驚いて傍にいるラグーネに聞く。


「私にもわからないな。何か特別な扱いを受けているのはわかるが……」


 ラグーネもシオンに明確な答えが出るはずもなく、一番詳しそうなエアリスに視線を送って確認した。


 エアリスはその視線に肩を竦めると案内されるタウロの後についていく。


 ラグーネ達もそれに倣うと奥に入っていくのであった。


 奥に通されると、そこには広いスペースを確保した部屋があった。


 掲示板もあるが、普段見ている掲示板と違い、ちょっと豪華な作りになっている。


 どうやら、表に出されているクエストとは違い、爵位や称号持ちだけが引き受ける事が出来るクエストが用意されているようだ。


「ジーロシュガー様。今、確認したところ、『黒金の翼』様全員の昇格が決定していますので、今日から皆様は冒険者ランクC-となります」


 上司はハンカチで汗を拭きながら、昇格を伝えた。


「え?Cランク昇格には試験が必要だったと聞いていたのですが……?」


 タウロとエアリスは驚いて視線を交わすと質問した。


「元々、昇格に必要なポイントも貯まっていましたし、何より昇格について王家と宰相閣下などから推薦もありました。そして、名誉子爵様でもあられますから試験免除での昇格を上層部が判断したようです。えー、さらに──」


 上司はタウロ達の事が書かれていると思われる資料に目を通しながら話を続ける。


「──さらに……、あ、失礼しました!今回の昇格は名誉子爵様の地位と照らし合わせた結果、C+まで昇格してもらう事になっています」


 上司は資料の大事な部分を見逃していたのだろう、目を近づけて重要な部分を読んでタウロ達に異例の大幅昇格を伝えた。


「「「「「C+!?」」」」」


 タウロ達一行は声を揃えて聞き返した。


 さっきまでD+だったのに、いきなりC+に昇格は寝耳に水だ。


 慎重なシステムで出来ている冒険者ギルドとは思えない扱いであった。


「はい。こう言ってはなんですが、『黒金の翼』様は何もかも異例でして……。普通、名誉貴族の地位は国に貢献したBランク帯以上、ほとんどはAランク帯の一部の方が叙爵するものなので、ここにあるクエストもBランク以上の設定になっております。ですが、皆様はDランク+でしたから、この部屋のクエストを受ける事が出来ないことに。それでは国と冒険者ギルドが定めた名誉貴族様への扱いに対して失礼になります。ですから今回、冒険者ギルドは皆様の実力や推薦を加味し、検討した結果、Cランク+までの昇格、そして、次のクエストを完了しましたら、B-への昇格をする事が決定しております」


 上司の説明にタウロ達は驚き過ぎて固まっていた。


「僕達が……B-ランクに?」


 タウロは驚きから正気を取り戻すと、上司に聞き返す。


「はい。次のクエストは何でもOKです。そして、Bランク帯への昇格試験も免除させてもらいます。名誉貴族とは国や各ギルド、冒険者ギルドなどへの貢献度が高い者を指す事でもありますからこの決定は異例で、冒険者ギルドとしては超法規的な扱いですが問題ありません」


 上司は資料を最後まで読み切るとそう確信して答えた。


「……わかりました。それでは、このD+のクエストの手続きをお願いします」


 上司の説明に色んな意味で気が抜けた状態になったタウロであったが、手にしているクエストの紙を渡して手続きをするのであった。


 この後、王都周辺の村に赴き、逃げ出した貴族のペットの魔物である虎狼を捕獲して貴族に引き渡し、冒険者ギルドに戻ると、また、奥に通され無事B-ランクへの昇格が決定。


 Cランク帯を示す金色のタグはわずか数時間でBランク帯を示す白金のタグに変わるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る