第502話 有名人

 タウロ達『黒金の翼』は結成から最短でのBランク帯冒険者への昇格、そしてタウロ個人は最年少での一流冒険者になった。


 王都の冒険者ギルド本部内ではこの偉業に他の冒険者達が色めき立った。


 タウロ達『黒金の翼』についてその実力は王都でも折り紙付きで有名になっていたし、子供がリーダーだったからかなり注目されていた。


 クエストで一緒した事ある冒険者からの評価も高かったから、悪い噂は大体嫉妬からの中傷で誰も信用していない。


 でもそれはDランク帯冒険者としての話であった。


 突然の名誉子爵への叙爵からのC+、そして、すぐにB-ランクへの昇格には事情を知らない者達に悪い憶測をさせる事になった。


「冒険者ギルド本部の上層部の弱みを握っているらしいぞ」


「俺は王家の弱みを握っているとみたな。そうでもないと王家から推薦なんてありえないだろう?」


「元々、グラウニュート伯爵家の子息だからな、可能性は高いな」


 などと言いたい放題であった。


 だが、まともな情報も流れ始めた。


「あいつの新たな家名で気づけ。ジーロシュガー子爵だぞ?」


「ジーロシュガー?どこかで聞いた事が……」


「馬鹿。巷で有名なジーロ・シュガーだよ。お前もそのシュガー製品の魔道具ランタンくらい持ってるだろう?そのジーロシュガーだよ!」


「!?……じゃあ、謎多き発明家ジーロ・シュガーってのは……?」


「「「あの子供冒険者って事か!?」」」


 この衝撃の新事実に冒険者ギルド王国本部のみならず、王都全域に瞬く間に広まった。


 もちろん、タウロの顔自体は有名ではないから、名のらなければ気づかれる事はない。


 それにタウロという名も、どこにでもいる名だ。


 田舎をはじめ、都市部でも長男を指す名として子供に名付けらる事も多いからそうそう気づかれる事はないだろう。


 だが、冒険者達の間では完全に顔バレしているから、その実力を知らない者には嫉妬の対象である。


 なにしろリーダーがまだ十四歳の子供で、他のメンバーも同じ歳のシオンに十代のエアリス、ラグーネ、一人アンクだけが年相応の冒険者に見えるから甘く見られても仕方がない。


 しかし、直接絡んでくる連中はいなかった。


 相手が若過ぎるチームとはいえ、その地位は名誉子爵である。


 尊敬と畏怖の対象であるから、陰口は叩かれても直接言う者はいないのだ。


「思った以上に名誉子爵は冒険者の間でも力があるね。直接絡まれないや」


 タウロは冗談で冒険者の集まる酒場兼食堂で隣に座っていたエアリスに漏らした。


「何を言ってるの。タウロは元々グラウニュート伯爵家の子息なんだから、元々失礼がある方がおかしいのよ?」


 エアリスが、もっともな指摘をした。


「それを言ったらエアリスはヴァンダイン侯爵家のご令嬢じゃない。今までそれを盾にした事ないでしょ?」


「それはパパの地位であって私のものじゃないから。それに私は女よ。家督を継ぐわけではないから自慢は出来ても威張れやしないわ。(まあ、タウロの奥さんになれたらそれを誇れるとは思うけど……)」


 最後はごにょごにょとエアリスは尻すぼみにつぶやく。


「?最後の方なんて言ったの?僕の何?」


 最後まで聞き取れなかったタウロはエアリスに聞き返す。


「なんでもないわよ!──それよりもB-ランクになったのだから、ゆっくりと冒険出来るわよ。これからどうするの?」


 エアリスの言いたい事はBランク帯から、クエストを引き受ける最低期限が無くなり、いつ受けても受けなくても降格処分などの罰が無くなった事を指摘していた。


「はははっ、そうだね……。みんなはどうしたい?昇格は嬉しい事だけど、Bランク帯ともなったらこれまで以上に危険が伴う。Dランク帯から一気にCランクを飛び越えてBランク帯のクエストを引き受けるのも危険だから当分はCランク帯のクエストで慣れるのが無難だとは思うのだけど……」


「確かにリーダーの言う通り、いきなりBランク帯のクエストは危険かもしれないな……。俺もバリエーラ公爵領での帝国兵という急な格上相手への対応が追い付かなくて怪我したからな。ちょっと慣れる為にいくつかCランク帯のクエスト入れてもらえると助かるな」


 アンクは負傷した反省から、タウロの提案に納得する姿勢を示した。


「私も賛成だ。それと同時に、名誉貴族の地位を生かして王都傍のダンジョンに竜人族のみんなを潜れるようにしてくれないか?」


 ラグーネが以前にも話した案を指摘した。


「ボクも賛成です。それとダンジョンについてはタウロ様は何か考えがあるような事を以前言っていましたが、それは何だったのですか?」


 シオンも賛成の姿勢を取りつつタウロの考えについて続きを促した。


「じゃあ、クエストについてはそういう事にしようか。そして、シオン、よく覚えていたね。実はちょっとダンジョン絡みで試したい事があってね。これが可能なら竜人族のみんなにとっても朗報になるかもしれない」


 タウロは意味深に告げる。


「朗報?それって最近、魔法陣の研究について徹夜していた事と関係あるのかしら?」


 エアリスが鋭い指摘をした。


「エアリスは本当、鋭いなぁ……。うん、実は竜人族のところの始まりのダンジョンで階層の領域守護者、二つ頭の聖獣討伐で入手した魔石の半分があるのだけど、それを加工してあるものが出来ないかなと研究していたんだ」


「「「「あるもの?」」」」


 エアリス達は首を傾げた。


「うん。まあ、詳しくは王都傍のダンジョン、『バビロン』に本当に入れるか手続等を確認してからにするよ」


 タウロはそう言うと席を立ち、お会計を済ませるのであった。

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