第491話 侯爵領の守護者

 ヴァンダイン侯爵領の守護者。


 関係者からはそう密かに評価されている三人がいた。


 ヴァンダイン侯爵の令嬢エアリスが客人として迎え入れた謎の人物達の事である。


 それは何を隠そう竜人族出身の三人であり、エアリスの足の治療の為にラグーネが助けを求めた先輩達の事であった。


 一人は真聖女スキル持ちのマリア。


 二人目は天翔竜騎士スキル持ちのジン。


 三人目は天意魔導士スキル持ちのスレイン。


 三人とも竜人族の悲願であったダンジョンの元攻略組メンバーであり、冒険者レベルで表現すると伝説級である幻のSランク相当の上位実力者達である。


 三人とも共通する事は、タウロに一生の恩があり、その大切な仲間であるエアリスは守護する対象であった。


 だから、真聖女のマリアはエアリスを治療したし、徹底的に教育もした。


 限界を何度も超えさせて死の境を何度も経験させ、エアリスの能力を伸ばしたのだ。


 マリアにとって、エアリスはもう、大切な弟子であったし、大恩人の恋人として扱っていた。


 天翔竜騎士のジンも人族にしてマリアの地獄の教育をだが頑張ったエアリスを気に入っていたから、そのエアリスの家族や領地を守る事もやぶさかではなかった。


 天意魔導士のスレインもそれは同じで、魔法についてマリアと一緒に教えた事でエアリスを気に入っていた。


 何より大恩人の彼女というのも大きい。


 竜人族は恩をちゃんと返すが、タウロに受けた竜人族の恩は返すにはあまりにも大きすぎる。


 だったらその仲間や友人にも返して報いるという意識があったから三人は、ヴァンダイン侯爵家の守護者として守り続けると決めていたのであった。


 そこへ『次元回廊』でタウロ達が訪れた。


 外部からの侵入者に三人はすぐ気づいたが、ラグーネの『次元回廊』とわかり、警戒を解く。


 当然ながらヴァンダイン侯爵領内全域には天意魔導士スレインと真聖女マリアの二人がかりの大結界魔法が掛かっていて警戒はばっちりである。


 そして、真聖女マリアの『真の祝福』によって、大地は浄化され天からの真なる祝福を与えられた事で少なくとも百年は豊穣の地として栄える事になるはずだ。


「みなさん、ようこそ。そして、エアリスお帰りなさい。──察するに私達に御用ですか?」


 真聖女マリアが何かを感じたのか用事を察した。


「マリアに聞きたい事があるの」


「それは、みなさんの体に微量に漂っている不穏な魔力の事でしょうか?」


 真聖女マリアは、内容を話す前からすぐに気づいた。


「さすがマリア。そうなの、今、私達ハラグーラ侯爵領を訪問しているのだけど、そこの領都の雰囲気がその不穏な魔力?で覆われているの。その領都はその魔力で栄えているらしいのだけど、私達にはそれがどうにも怪しく感じて……」


「……ほう。この微量な魔力だけではあまり判断は出来ないが、高度な呪術の残滓を感じるな。──魔力で栄えている?それはもしや、他の犠牲で成り立っているのではないかな?」


 天意魔導士スレインが、真聖女マリアに代わって答えた。


「そうね。スレインの指摘通り、高度な呪術を私も感じるわ」


「私とシオンの予想では、外から魔力を集めてそれを領都に還元しているように感じたのだけど……」


 エアリスが感じた事を師匠であるマリア達に伝えた。


「──それは禁忌系の術かもしれないな」


 黙って聞いていた天翔竜騎士ジンが初めて、口を開いた。


 そして続ける。


「人の身でその領域に触れる事は禁忌扱いにされているのだが、何より質が悪いのは聖女系能力者でないと気づけないところにある。竜人族の者でも聖女系能力者以外は中々気づけない」


 天翔竜騎士ジンは竜人族の監視から逃れている禁忌の術に眉を潜めるのであった。


「……やっぱり、駄目な感じのものだったのね。マリア、今の私では対処できないから力を貸してくれないかしら?」


 エアリスは師匠である真聖女マリアに協力を要請した。


「それはもちろん、協力するわ。……ところでエアリス。ちょっといいかしら?」


 真聖女マリアは協力を承諾すると、エアリスを手招きした。


「?」


 エアリスは真聖女マリアの傍に歩み寄る。


「首飾りをちょっと外してくれる?」


 真聖女マリアはエアリスに『黒金の翼』の証明である首飾りを外すように促す。


「……はい」


 エアリスは神妙な面持ちの真聖女マリアに素直に従った。


「やっぱり」


 真聖女マリアが笑みを浮かべた。


「?」


 エアリスは何の事かわからずに戸惑う。


「エアリス、あなたのスキルに聖女が追加されているわ」


「「「「「えー!?」」」」」


 タウロ達は全員で予想外の言葉に驚いて声を上げるのであった。



「あ、そう言えば、『長命』を覚えたあの時……」


 タウロは帝国兵との戦闘後に得たスキル『長命』の時の事を思い出していた。


 覚えた条件クリアに<聖女達を救いし者>という言葉があったのだ。※473話参照


 てっきり、竜人族の聖女や、聖女マチルダの事で複数形の扱いになっていると思っていたのだが、よく考えるとあの時傍にいたのはエアリスだ。


 複数形が何人を指すのかはわからないが、あの時助けて能力を覚えたきっかけはエアリスの事だったのだと、合点がいくタウロであった。


「タウロ殿、『長命』を能力で覚えたのですか!?」


 天意魔導士スレインが、驚いた表情を浮かべてタウロに聞き返す。


 今はエアリスに聖女スキルが目覚めた事に驚いている時であったが、つい口から洩れた言葉で話が反れた。


「ええ。『長命』って、寿命が延びるって事ですよね?」


 タウロは驚かれたのでちょっと「?」となりながら答えた。


「確かに『長命』は寿命にも関係がありますが、病気にも罹らなくなるというメリットがあります。病気は我々竜人族やエルフの類でも避けられない事なのはよくお判りだと思いますが、とても貴重な能力なのですよ?竜人族でも『長命』を持っているのは、族長リュウガ様だけです」


 天意魔導士スレインの説明によって、自分の新たな能力について知る事が出来たタウロであったが、その傍で聖女と言われて困惑したエアリスが苦笑しているのであった。

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