第490話 栄える秘密?

 聖女一行は盛大にハラグーラ侯爵領都に歓迎されると思いきや、意外にそうでもなかった。

 歓迎式典は領都の派手さに比べたら、とても質素であった。


「どうやら、王太子一行との間に距離が出来たのが原因でしょうか?」


 聖女の付き添いであるルワン王国のドナイスン侯爵はハラグーラ侯爵側の対応に少しを不信感を覚え、そう分析した。


「感じが悪いわね」


 聖女マチルダは、自分の事を棚に上げて愚痴をこぼした。


「王太子も道中からこちらに何も言わなくなりましたからな。我々への気遣いは最低限のものになりました。それとこのハラグーラ領都の栄え方をここまで確認しましたが、正直なところ、聖女殿の『祝福』が必要とは思えません。……多分、箔付けくらいにしか考えていないのかもしれないです」


 ドナイスン侯爵はルワン王国関係者の集まった部屋で自分の考えを告げた。


「侯爵の言う通りですね。バリエーラ公爵領での扱いはそれなりのものでしたが、こちらは一応名誉の為にそれに合わせているものの、必要最低限関りを持ちたくないようです。ハラグーラ侯爵は今、領都にいるはずですが、聖女様に一切顔を見せる様子がありませんし、その嫡子であるドスグ男爵も歓迎式典で挨拶をしたっきり、見えなくなりました。今回のサート王国の付き添い役の一人に選ばれた孫のスグロー殿に後は任せたつもりのようです」


 側近の一人が、ハラグーラ侯爵側の対応について、不信感を露わにした。


「どちらにせよ、祝福の儀を予定通り終わらせて日程通り移動しましょう。──そう言えば、タウロ殿達はどうしている?良ければ話をしたいのだが?」


 ドナイスン侯爵は王太子一行より、道中世話になっていたタウロ達を気遣った。


「彼らは何やらこの領都の気配が気になるとかで、外に出掛けました。戻ったら声を掛けてみましょうか?」


 側近がタウロ達の様子について答えた。


「気配?」


 ドナイスン侯爵が、首を傾げる。


「ああ、私の気のせいではなかったのね?──この領都の空気感というか、雰囲気というかちょっと嫌な感じがするの。お陰で体調が良くないわ」


 聖女マチルダは、眉を潜めると指摘した。


 やはり、腐っても聖女である。


 エアリスが感じたものを聖女マチルダも感じていた。


「雰囲気が?──まさかと思いますが、聖女殿。また、『祝福』が使えないという事はありませんか?」


 ドナイスン侯爵はバリエーラ公爵領での事を思い出し確認した。


「さすがにそれは……。──嘘!?……バリエーラ公爵領にいた時よりも強い力で私の力を邪魔する感じがあるわ……。これじゃあまた、『祝福の儀』が行えないじゃない!」


 聖女マチルダはみるみるうちに不機嫌になった。


「……これはやはり、タウロ殿、エアリス殿にまた相談する必要がありそうだな……」


 ドナイスン侯爵は深刻な表情になった。


「どういう事よ?」


 聖女マチルダはエアリスが代理を務めた事があるのを未だに知らないのだ。


 言えば不機嫌になるだろうと、ドナイスン侯爵が周囲にも口止めしていたのだが、これ以上は無駄だろう。


 全てを説明するのであった。


「──エアリス嬢が私の代理で嘘の祝福の儀を?……『祝福』の効果を偽装なんて出来るわけないでしょ。そんなの使っている私だからはっきりわかるわ。つまり、エアリス嬢は私と同じように、『祝福』が使えるって事よ」


 聖女マチルダはドナイスン侯爵からの説明を聞いてそう確信を持って答えた。


「「「え!?」」」


 その場にいたルワン王国関係者は聖女マチルダの答えに思わず声を上げた。


「……それはつまり『聖女』という事ですか?」


「どうかしら。『聖女』なら、すでに大騒ぎになっているはずじゃない?この国にはバリエーラ公爵のような優れた鑑定眼を持った人物もいるのだから、侯爵令嬢の立場で気づかれないわけがないわ。……それに彼女が『聖女』持ちならきっと最初から自慢してるわよ」


 聖女マチルダは自分の物差しでそう断言した。


 確かに以前のエアリスの性格なら自慢していたであろうから、中々核心を突いていた。


「……なぜ、『祝福』を使えるのに黙っているのでしょうか?」


 ドナイスン侯爵はそう疑問を口にしながらも、エアリスなら厄介ごとを避けているのかもしれないと、わかる気もした。


「『聖女』スキルを持っていないからでしょ?どうやって『祝福』を使えるのかわからないけど、『聖女』スキルのない『祝福』に説得力はないわよ。私は『聖女』だからこそみんなにちやほやされているのだし」


 聖女マチルダの言葉にドナイスン侯爵は少し驚いた。


 承認欲求ばかりが強い馬鹿な娘だと思っていたのだが、それなりに自己分析が出来ていたのだ。


 エアリスに対する分析も鋭いものがある。


 これはちゃんと教育し直せば、本当にルワン王国の聖女として役に立ってくれるかもしれないとドナイスン侯爵は一筋の光が見えた気がしたのであった。



「どう、エアリス、シオン?」


 タウロ達『黒金の翼』一行は、ハラグーラ侯爵領都内を散策して嫌な気配の元を探していた。


「この領都を囲む十二か所の塔が怪しいわ」


 エアリスが、街で売られている観光用の地図を広げて指差すと考えを述べた。


「ボクもエアリスさんの意見に賛成です」


 シオンも同意する。


「あと……、城館の方にその魔力が集まっている感じがするのよね。これは私でもわかりづらいからなんとなくなんだけど……。とにかくひとつ言えるのは、あんまりまともとは言えないやり方でこの街は栄えている気がする……。──タウロ、ラグーネ、ちょっとヴァンダイン侯爵領まで戻れるかしら?」


 エアリスが何を思ったのかそう提案した。


「僕は大丈夫だけど?──ラグーネ、出入り口、まだ、あっちに設置したままかい?」


 タウロがラグーネに確認する。


「ああ、大丈夫だが……?戻って何をするんだ、エアリス?」


 ラグーネは目的がわからず、聞き返した。


「真聖女マリアに相談するの。そして、場合によっては、こっちに来てもらうわ」


 エアリスが意味ありげに答えた。


「真聖女マリアさんを?……大丈夫かな、こっちに呼んで……」


 タウロは聖女マチルダがいるこの場所に呼ぶとトラブルの元になりかねない気がして不安になるのであった。

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