第489話 国内貴族最大の領都

 聖女一行はハラグーラ侯爵領に入った。


 サート王国最大の貴族派閥首領の領地だから、タウロも内心どんなところだろうという興味があった。


 一行が進む街道はよく整備され、領兵も頻繁に巡回していて治安も良さそうだ。


「さすが国内最大の貴族領だね。でも、メインの街道から伸びる他の道はあんまり整備されていないようにも見えるけど……」


 タウロは馬車の窓から外を眺めてそんな感想を漏らした。


「普通はそんなものよ。街道を外れたら治安は悪くなるし、道もそんなに良くないのは旅の中でも感じていた事でしょ?──まぁ、うちは街道を外れても治安もいいし、道も整備されているけどね」


 タウロの感想にエアリスは答えながらヴァンダイン侯爵領の自慢も付け加えた。


「それはグラウニュート伯爵領も同じだよ。──僕の想像では天下のハラグーラ侯爵領だからそれはもうインフラ整備は完璧で治安も良く、領民の生活水準も高いのかなと思っていたから、意外に一般の貴族領と変わらないイメージだね」


「確かにそう言われると、良くも悪くも見慣れている風景だな。どちらかと言うと、バリエーラ公爵領の方がまだ治安も良く、生活水準が高い印象だな」


 アンクがタウロの感想に賛同した。


「タウロのグラウニュート伯爵領も、エアリスのヴァンダイン侯爵領も全然負けていないな。ハラグーラ侯爵領は大した事が無いのかな?」


 ラグーネは二人の実家を引き合いに出して、比較した感想を漏らした。


「ボクもそう思いました!」


 シオンもグラウニュート領出身だからハラグーラ侯爵領と比べて違いを感じたようだ。


 そこへタウロ達の馬車の傍を進む警備役である近衛騎士が、


「タウロ殿、ハラグーラ侯爵領都が見えてきましたよ」


 と教えてくれた。


 タウロは馬車の扉を開けると身を乗り出して領都のある方向を確認した。


「……ごめん、前言撤回。やっぱり、国内最大貴族だった……」


 何かを確認したタウロは急に車内のエアリス達に謝った。


「どうしたの?」


 エアリスがタウロの変化に首を傾げて外を覗く。


 その視線の先には、とてつもなく高い城壁が王都並みに広がっていた。


 まだ距離があるが、それでも一目見てわかるくらいだ。


 それはタウロが王都に初めて訪れた時の印象と同じであったから、ハラグーラ侯爵の領都がいかにとんでもないかがわかるというものであった。


「……噂には聞いていたけど、本当に大きい領都ね……」


 エアリスもタウロの驚きに納得して車内に戻った。


 アンクやラグーネ、シオンも同じように馬車から身を乗り出して確認した。


「「「これは大きい!」」」


 バリエーラ公爵の領都も十分大きく栄え、さすが宰相の治める街だと感心したものだったが、大きさだけならハラグーラ侯爵領都の方が、大きいのがよくわかった。


 下手な小さい王国の王都より大きく立派な領都かもしれない。


 タウロ達は先程までの自分達の発言が一蹴された思いであった。



 ハラグーラ侯爵の領都は入城してみると一層凄かった。


 いや、凄いというより派手と言うべきか。


 お金がかかっているであろう建物が多く、領内の富がここに集約されているだろう事は一目見て明らかであった。


 各家の屋根の先端は鉄塔のように尖っているのだが、それが金色だったり、銀色だったりとそれだけでも非常にお金がかかっているのがよくわかる。


 前世で言うところのゴシック建築をさらに派手にした感じだろうか?


 装飾も統一され、とにかく派手である。


「お金がかかっているのは一目見てわかる街並みだけど、無駄が多そう……」


 タウロは到着して馬車を降りると、贅沢な建築が目立つ街並みに思わずそう漏らした。


「無駄とはなんだ!これは我がハラグーラ侯爵家の富の象徴である領都だぞ!これほどの街並みは王都にもないというのに、平民上がりにはこの素晴らしさがわからないのか!」


 ハラグーラ侯爵の孫であるスグローが、自分のホームグラウンドである領都に到着した事で、より一層態度が大きくなっていた。


「平民上がりじゃなくても、これだけお金がかかっていたら、同じ事を思うわ」


 侯爵令嬢であるエアリスがタウロに代わって言い返した。


「……ふん!価値のわからない凡人達め!王国最大の貴族派閥の長の立場がどんなものか理解できないのであろう。それにこの領都はおじい様の代でようやく完成させた『完璧な街』だぞ?富の集約はもちろんのこと、魔力をこの領都に集中させ、それを生かす為の魔法技術もこの街には施されている。その結果、あらゆる災害も跳ねのける事が出来る最先端の技術によって生まれた文字通り『完璧な街』なのだ!」


 ハラグーラ侯爵の孫スグローは街の自慢をする為、言ってはいけない最先端技術の一端を話したように聞こえた。


「魔力の集中?」


 タウロはその言葉に引っ掛かりを覚えた。


 エアリスも同じだったらしく、


「それって、四方から魔力の流れがこの街に集まっているという事かしら?──それがこの領都を覆う結界になっているみたいね……、でも、あまり良い感じはしないわよ?」


 と眉を潜めて率直な感想を漏らした。


「ふふふ……!我がハラグーラ侯爵家の技術は国内どころか他国も欲しがる程だからな。凡人にはわからないさ」


 スグローはエアリスの言葉を鼻で笑うと取り巻きを引き連れて我が家である王宮のような城館に入っていくのであった。


「エアリスさん、ボクもこの結界?はあまり良いものを感じないです」


 シオンもエアリスと同じ様に感じたようで嫌な顔をした。


「そうよね?──こう言っては何だけど、呪術的なものを感じるわ」


 エアリスはシオンが賛同した事で確信に近い意見をタウロに告げた。


「呪術?……確かに、言われてみるとどこかで感じた気配が……。──あ、呪いを掛けられた時、それを呪術返しした時の感覚に近いんだ……!」


 タウロはダレーダー伯爵領領都で以前、暗殺ギルドの呪術師の呪いを倍返しした時を思い出した。


「ああ、俺達が依頼人の母親を送り届けて留守にしている間に、リーダーが一人でやり返した時のやつか!」


 アンクも思い出して指摘した。


「……どちらにせよ。あんまりよくない技術の気がするなぁ」


 タウロはエアリスと視線を交わすと眉をしかめるのであった。

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